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6.7 専門職講座の評価
 講座の終了時に参加者にアンケートを実施し、講座の評価をしてもらった。まず、米国版と神戸少年の町版を使用した講座で、なんらかの差があるのかを各グループの平均の差を比較する方法(1要因の分散分析)を用いて調べた。その結果、米国版を使用した第1回の参加者と神戸少年の町版を使用した第2・3回目の参加者では各項目とも、平均に差が認められなかった。例えば、「コモンセンス・ペアレンティングの講座はあなたが援助者(支援者)として、親を教育するのに有益なものとなりましたか?」という問いに関しては、第1回の平均が6.33そして第2・3回が6.40となり、自由度(1,43)のF値が.103、有意確立が.750となり、有意とならなかった。他の項目も同じ傾向を示したので、今回の報告では第1回と第2・3回の参加者をいっしょに分析した。
 
表6-7  少年の町コモンセンス・ペアレンティング・トレーナー養成講座スケジュール
1日目
(1時〜6時)
2日目
(9時〜6時)
3日目
(9時〜6時)
4日目
(9時〜12時)
効果的な誉め方 まとめ デモンストレーション
(模擬セッションを行い、トレーナーの役割をデモンストレーションしていただきます)
予防的教育法 セッションの技能
(行動分析)
イントロダクション
1時〜
昼食
12時〜1時
昼食
12時〜1時
解散
12時
教育者としての親
(わかりやすいコミュニケーション
良い結果・悪い結果)
問題行動を正す教育法 ロールプレイの進めかた
自分自身をコントロールする教育法 ロールプレイの練習
 
 その結果、「コモンセンス・ペアレンティングの講座はあなたが援助者(支援者)として、親を教育するのに有益なものとなりましたか?」の質問には「どちらかというと満足した」を含めると全参加者が満足したと答えた。講座の内容の適切さについても全員の方が「満足した」と答えている。講師への評価も満足度が高かった。また、「他の職員にこの講座をすすめることができますか?」の問いには全員が「はい」と答えた。
 有効性を、参加者の親支援へのエフィカシーを自信ということから見ると(問いは、「この講座はあなたに自信をもたらせましたか?」)、6名がどちらとも言えないと答えた以外は「どちらかというと満足した」を含めると、45名中39名が「満足した」と答えており、親支援への自信を多くの参加者が得る機会となったことが示された。
 今回、米国版と神戸少年の町版で差が出なかったが、米国版でも高い満足度が出ていることを考えると、むしろ後で開発された神戸少年の町版が、評価の高かった米国版と同じような評価を得られたということになり、神戸少年の町版の質の高さが支持されたと言える。
 
表6-8 専門職講座参加者の評価
非常に満足した 満足した どちらかというと満足した どちらとも言えない 合計
コモンセンス・ペアレンティングの講座はあなたが援助者(支援者)として、親を教育するのに有益なものとなりましたか? 21名
(46.7%)
20名
(44.4%)
4名
(8.9%)
0名 45名
講座の内容は適切でしたか? 16名
(35.6%)
27名
(60.0%)
2名
(4.4%)
0名 45名
講師はあなたの質問に適切に答えてくれましたか? 26名
(57.8%)
17名
(37.8%)
2名
(4.4%)
0名 45名
講師は親をどう教育していくのかに有用になるような例をたくさんあなたに話してくれましたか? 21名
(46.7%)
18名
(40.0%)
6名
(13.3%)
0名 45名
この講座はあなたに自信をもたらせましたか? 2名
(4.4%)
22名
(48.9%)
15名
(33.3%)
6名
(13.3%)
45名
注 7段階で評価(7: 非常に満足した、6: 満足した、5: どちらかというと満足した、4: どちらともいえない、3: どちらかというと期待はずれだった、2: 期待はずれだった、1: 非常に期待はずれだった)
 
6.7.1 講座のアクティビティの有効性
 講座は講義、ロールプレイ、ディスカッション、ビデオ、宿題といった5つのアクティビティから成り立っている。どのアクティビティが有効であったのかを参加者に尋ねたところ、以下のような結果になった。今回は、米国版を使用した第1回の参加者と神戸少年の町版を使用した第2・3回目の参加者の間で差があるのかをクロス集計を用い、質的変数間に統計的な差があるのかを分析した(カイ二乗検定を用いた)。統計的な差が見られたのはディスカッションのみであった(10%水準の有意差)。教材開発を行ったビデオについては、第1回53.3%、第2・3回70%と差は見られたが、統計的な有意性は確認されなかった。
 まとめると、アクティビティに関しては、ロールプレイの重要性が参加者から支持される傾向にあった。多くがロールプレイをすることで、知識の定着や、自分のできないところのチェックに役立ったと答えた。米国版との比較では、ディスカッションで有意な差が見られた。そしてビデオでも神戸少年の町版を支持する傾向が見受けられた。ディスカッションが有意な差になった理由としては、教材が神戸少年の町版になったことで、文化的な違和感が解消され、より積極的な意見がでるようになったこと、また、米国版に比べて、神戸少年の町版が短時間のプログラム設定になっているので、ディスカッションの時間が長く取れたことが考えられる。
 
表6-9 講座のアクティビティの有効性
講義 ロールプレイ ディスカッション※ ビデオ 宿題
米国版(15名中) 7名
(46.6%)
14名
(93.3%)
4名
(26.7%)
8名
(53.3%)
2名
(13.3%)
神戸少年の町版
(30名中)
17名
(56.6%)
30名
(100%)
16名
(53.3%)
21名
(70%)
6名
(20%)
※はCSP実施とのクロス集計のカイ二乗検定の結果、10%水準の有意差が確認された項目
 
6.7.2 スキルの有効性
 CSPでは以下の5つのプログラムを行い、それぞれのしつけのスキルを教示するのであるが、参加者にそれぞれのスキルの有効性を尋ねたところ、以下のような結果となった。講座のアクティビティの有効性と同様に、米国版を使用した第1回の参加者と神戸少年の町版を使用した第2・3回目の参加者の間で差があるのかをクロス集計を用い、質的変数間に統計的な差があるのかを分析した。統計的な差が見られたのは「自分自身をコントロールする教育法」のみであったが、すべてのスキルにおいて、神戸少年の町版への支持が高いことが示された。この結果、神戸少年の町版の有効性が示されたと言える。
 
表6-10 スキルの有効性
教育者としての親 効果的な誉め方 予防的教育法 問題行動を正す教育法 自分自身をコントロールする教育法※
米国版(15名中) 5名
33.3%
10名
66.7%
5名
33.3%
4名
26.7%
10名
66.7%
神戸少年の町版
(30名中)
11名
36.7%
23名
76.7%
17名
56.7%
14名
46.7%
28名
93.3%
※はCSP実施とのクロス集計のカイ二乗検定の結果、5%水準の有意差が確認された項目
 
6.7.3 スキルの使いやすさ
 次に、スキルの使いやすさを尋ねた。上記と同様に、米国版を使用した第1回の参加者と神戸少年の町版を使用した第2・3回目の参加者の間で差があるのかをクロス集計を用い、質的変数間に統計的な差があるのかを分析した。統計的な差が見られたのは「問題行動を正す教育法」「自分自身をコントロールする教育法」であったが、すべてのスキルにおいて、神戸少年の町版が米国版より支持される率が高かった。これまで、米国版へのアンケートでは、「問題行動を正す教育法」「自分自身をコントロールする教育法」が、「ステップが何段階にも分かれるので難しい」と言うコメントが多かったが、神戸少年の町版ではこういった問題をクリアしたと言える。
 
表6-11 スキルの使いやすさ
教育者としての親 効果的な誉め方 予防的教育法 問題行動を正す教育法※ 自分自身をコントロールする教育法※
米国版(15名中) 1名
6.7%
12名
80%
11名
73.3%
1名
6.7%
1名
6.7%
神戸少年の町版
(30名中)
7名
23.3%
26名
86.7%
23名
76.7%
11名
36.7%
10名
33.3%
※はCSP実施とのクロス集計のカイ二乗検定の結果、5%水準の有意差が確認された項目
 
6.8 まとめ
 トレーナー養成講座を開催し、45名の専門職をトレーニングする機会を持った。2003年度からはじめて、今年で3年目となった。今年度は神戸少年の町版CSP教材の作成を行ったので、第2・3回は神戸少年の町版で研修を行った。講座の満足度は、神戸少年の町版と米国版では差がなく、両方のプログラムで高かった。これまでも米国版で高い評価を得ていたことを考えると、神戸少年の町版でも米国版と同じような評価が得られたことは、神戸少年の町版の質の高さが支持されたと言える。
 全体的なプログラムの満足度では同程度の評価が得られたことを報告したが、プログラムのスキルの評価では、神戸少年の町版が米国版よりも、スキルの有効性、そしてスキルの使いやすさの両方の側面で高い支持を得た。特に、これまで使いにくいと言われてきた「問題行動を正す教育法」や「自分自身をコントロールする教育法」では、統計的な有意差が得られた。「問題行動を正す教育法」や「自分自身をコントロールする教育法」の改善は神戸少年の町版の目標であり、その目標が達成されたことが示された。
 トレーナー養成講座では、神戸少年の町版の有効性が支持された。次は、それぞれの参加者が自分の機関で実践できるかどうかである。前年度行った調査では、実施に影響を与える要因として、「ケースの動機づけの問題」「組織的な問題」「トレーナーの自信の有無」があがっていた。神戸少年の町版の作成は、よりユーザーフレンドリーな教材を提供することから、納得してプログラムをクライエントに提供できるという「トレーナーの自信」を向上させ、自信が生まれることにより、組織においてのコンセンサスの形成への貢献を狙ったものである。参加者と連絡を取り合う中で、実践状況をトラックし、よりよいプログラムヘと改善を続けることを今後の課題としたい。
 なお、2006年度も、日本財団からの助成をいただき、CSPトレーナー養成講座を開催する予定である。


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