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1)−(3)Victim Supportの関連機関・団体との連携
被害者支援都民センター 望月 廣子
 
VSと警察との関係
 NZのVSは警察と親密な関係にあり、各地域のVSの事務所は警察署の中に設置されている。そのために一般の人々から、VSは警察の一部ではないかと懸念されることもあるようだが、あくまでも独立した機関として尊重され秘密主義は守られている。警察は、被害者支援を重要な事柄として認識し、設立当初からVSに関わっている。VSと警察の間では覚書として、MOU(MEMORANDUM OF UNDER-STANDING)と呼ばれる警察とVSの関係を公式化した書類が交わされている。MOUの内容はVSと警察が協力して被害者支援活動に取り組むことの目的、VSと警察の関係性、警察の役割とVSの役割、共同責任について等が明記され、その他、VS担当者の安全性、警察による出動要請の位置づけ、殺人事件、外国人被害者の支援についても言及されている。また、守秘義務、関係管理、任務、経費、有効期限、問題解決等についての記述もある。MOUの最後にはVS代表者とNZ警察署長の署名が記されている。また、警察官をVSのメンバーにしなくてはいけない、という内容のもり込まれた定款も作成されている。
 警察は、犯人逮捕だけではなく、訴追までの経過をVSと供に支援する。DVの被害者等、加害者の情報が必要な場合には、VSが警察に聞くことができる。事件、被害者の受けたトラウマについては、警察とVS両方が責任を持つ。また警察はVSのウオーカーに対しても、支援に関わる際の安全の確認をする。NZの警察には、日本の警察の被害者支援対策室に該当するものはないが、それに替わるものとして、警察官の中から一人、VSとの連絡係(VS Liaison officer)が任命される。その係は、VSの会議にも参加し、相互の連携がスムースに行くように仲介役としての任務を担う。
 MOUには、被害者支援活動の目標として「犯罪、事故、緊急事態の被害者を支援し、被害者の安全と生活自立を助ける。」とあり、これを受けてVSは、24時間体制で危機時に被害者ひとりひとりをサポートする。以下がその条件である。
・刑事裁判を行う際に、被害者とその家族、検察側の証人を支援する。
・大規模事件発生時に支援を行う。
・被害者が必要としている権利やニーズを主張していく。
 NZの警察とVSは、それぞれの立場を尊重しながら、同時に、出来る限りの協力体制で、被害者支援に取り組んでいることがMOUによって示されている。
 (詳細は2)VSと警察の連携−付録を参照
 
VSと司法省(検察・裁判所・矯正局・保護局)との関係
 NZには、日本の法務省に該当する、司法省と呼ばれる政府機関がある。裁判所、矯正局、保護局等は、司法省に属する機関であり、それぞれが任務を果たしているが、法律制定、修復的司法への取り組み計画等、被害者支援に関連する業務も多い。VSは政府からの資金援助を受けているが、資金の提供は、1999年に福祉局から引き継いで司法省が行っている。政府が資金提供を行っているのは、被害者支援に関心を持ったからであり、別のシステムを作って資金を提供するのではなく、すでに存在したVSを利用したものである。このため、司法省はVSの活動に関して責任を持っており、資金が効果的に運用されるように支援活動を監督している。
 司法省の仕事の中で、VSと関連するものとして、修復的司法に関する法律制定と政策があげられる。まず2002年には、刑法条令、仮釈放条令、被害者権利法条令が議会を通過した。このことにより、修復的司法プロセスが、通常の刑事裁判のシステムの中で、明確な法的認識を得られるようになった。これを受けて、裁判所委託修復的司法施行準備、地域管理修復的司法計画等の計画が立てられた。2003年には、修復的司法提供者、裁判官、関連NGO団体により協議が行われ、修復的司法の原則が策定された。
 
 以下は8つの原則であるが、この原則は常に刑事訴訟における修復的司法実践の支柱となっている。
・修復的司法を支えるのは任意性である。
・被害者および加害者の全員参加が求められる。
・効果的実践のため、関係者(被害者と加害者)に十分な事前説明がなされる。
・修復的司法プロセスでは、加害者に説明の義務がある。
・柔軟性と敏感性は修復的司法固有の性質である。
・関係者の精神的および肉体的保全が優先される。
・修復的司法提供者(および進行役)は、効果的なプロセス進行を確認する。
・修復的司法プロセスは、適切な事件にのみ活用される。
(現在は、軽犯罪に適用されるケースがほとんどである。)
 
 2004年には、今後4年間で最良実践の原則に従った修復的司法提供者の実践基準向上のための政府予算が設けられた。この予算は、提供者への情報提供と教育のための、継続的な研修等に活用されている。
 
VSと裁判所
 裁判に臨まなくてはならない犯罪被害者に対するVSの支援は、都民センターで行っている支援との共通点も見られる。傍聴付き添い、VIS(VICTIM IMPACT STATEMENT)作成の手伝い、司法省から支給される旅費についての書類作成の手伝い、被害者の要望を裁判所に伝える等の支援を行っている。(VIS: 被害の詳細、傷害について、経済的負担、被害感情等を記述する。)
 VSの支援とは別に、司法省が行う被害者に対する支援(コートサービス)がある。ビクティムアドバイザーと呼ばれる専門家が各裁判所に配置され、被害者に対して必要な情報が提供される。犯罪の被害者は、通常自分の巻き込まれた被害の経過について知りたいものである。被害者はまた、裁判に参加することを望み、証人になる場合には何が必要か知りたいものである。自分の置かれた状況やこれから何が起きるのかについての明確な情報がないことで、被害者は大きな不安を感じる。そのような被害者に適切に対応していくために、コートサービスが用意されているのである。
 
VSと矯正局
 矯正局の主要な義務は、有罪の判決を受け、刑務所に服役している人、あるいは地域で奉仕活動を義務づけられている人の安全管理を通して、一般社会を守っていくことである。VSとの接点は、PAROLE BOARD(仮釈放審議会)と被害者との関わりの中で、情報提供の書類申請の手伝い、サポーターとして付き添い支援をすることである。
 
PAROLE BOARD ―仮釈放審議会―
 仮釈放審議会は、警察、法務省から完全に独立した機関である。仮釈放審議会は、仮釈放、自宅拘置、条件付釈放の条件が考慮される加害者の処遇の他、情状酌量釈放申請、仮釈放・自宅拘置・情状酌量釈放中に、条件不履行に至った加害者の召還を審議する。また、監視期間の延長に関する特別条件を課す権限も有する。
 審議会のメンバーは、判事、地域で選出された約30名で構成され、2002年に制定された仮釈放条令によって審議を行う。審議は3名の審査員に別れて行うが、まとめ役として通常は地方裁判所判事が参加する。
 審査過程は、まず加害者、被害者、警察関係者から情報や意見を得るための聴聞会が開催される。被害者は、審議会から聴聞会の日時を通達される。通知では聴聞会の形式(当事者出席か当事者欠席)も説明され、それについて意見がある場合には、事前に、意見書を審議会に提出することができる。
 聴聞会に出席する場合、被害者は、審議会の許可を得て、支援者(複数可)からのサポートを受けることができる。また被害者は自由意思で文書での資料を提出することもできる。欠席聴聞会の形式がとられる場合にも、被害者は、委員との事前のインタビューによって意見を伝えることができる。インタビューの際にも支援者の協力を求めることも可能である。
 支援者が必要な場合には、被害者が審議会に申請書を提出しなければならない支援者は、家族、友人、VSのスタッフ等で、通常3名まで認められている。同伴した場合、委員の同意を得て、被害者の替わりに発言することも認められる。また、被害者の要望によって、代理人として委員と面会したり、意見を伝えたりすることも、特例として認められている。
 
※仮釈放審議会から通知を受けられる被害者は、被害者通知システムに登録されている被害者である。しかし、その他の被害者に対しては、警察が、被害者通知システムヘ登録すること、地域のVSへ連絡を取ることをアドバイスしてくれる。また、登録を行わない被害者に対しても、2002年被害者権利法に基づき、仮釈放審議会の裁決に対して意見を述べる権利、詳細情報を得る権利を有している。
 
(5)特定犯罪被害者への支援
 NZのVSが関わる支援は、主に重犯罪とトラウマに関する以下のものである。
・殺人・誘拐・強盗・暴行・性被害・過失傷害致死事件・DV・災害・自殺・突然死
 VSは、このような事件、出来事に巻き込まれた被害者に対して危機管理に基づく支援計画を立てる。
 例えば、裁判の経過に伴う付き添い支援をする、異文化を考慮した支援を考える、2002年の条令に基づいた支援方針を立てる、仮釈放審議会に関わる被害者を支援する、被害者の家族をサポートする等の計画が立てられる。実際の支援は24時間7日体制で、その日の当番ボランティアが2名、要請された場所に45分以内に出向く。あるいは、警察からVSのマネージャーに連絡があった時点で、検討され、まず電話での対応となる場合もある。自宅などの現場に行く場合、ボランティアは、証明証でもある、写真付きのネームプレート、VSのカード、ペンとメモ帳、危機介入ボランティアハンドブックを携帯する。このハンドブックには、関係機関の連絡先も掲載されている。この他、関係機関から送付された、パンフレット等を持っていくこともある。
 ボランティアは、まず被害者の話を聞き、今何をすることが優先されるべきか判断する。例えば、興奮状態にある被害者には、座ることや飲み物をとることを勧め、安心感を持てるような状態に導く。あるいは、カウンセリングの必要性が感じられたら、適切な機関を紹介する等、ハンドブックに掲載された、ボランティアの倫理要綱や規則に則した支援活動を行う。
 被害者からの次回の支援要請については、その場では解答せず、チームリーダーに判断を委ねる。重いケースの場合、チームリーダーに引き継ぐことも可能である。VSのボランティアが関わる犯罪は、主に軽犯罪が中心であるため、ボランティアの研修内容は殺人等の重犯罪を視野に入れたものではない。従って、殺人事件の被害者をサポートするボランティア、及び法廷付き添い支援を行うボランティアのためには、特別な研修メニューが用意されている。その研修の主旨は以下である。
(1)殺人の遺族に、どのような影響が及ぶのか認識する。
(2)被害直後の危機的状況から、裁判、仮釈放に至るまでの経過を通して、被害者の実用的、精神的両面における支援の必要性があることを知る。
(3)警察の捜査、刑事手続き等の被害者の質問に答える。
(4)他機関への接触についての補助、申請等の手続きの補助をする。
(5)遺族に、被害者としての権利を伝える。
(6)殺人事件の支援員として安全で、専門的な支援を行う。
 
※殺人事件の被害者に対しては、政府が以下の通りの経済的支援を行っている。
・殺人事件の遺族の家庭に対するカウンセリング費用
・裁判所までの旅費。
・仮釈放審議会が開催する聴聞会へ出席するための旅費。
 
 NZのVSのボランティアの支援活動は軽犯罪が中心であるため、自殺や突然死等の事例にも関われるのではないかと思われる。危機介入時のコーディネーターのような役割をとることが多く、その場では、専門的な関わりはしない。被害に遭遇し、茫然自失状態、あるいは興奮状態の被害者の安全を確保し、状況を判断しながら、聞き役になったり、適切なアドバイスをすることにより、次の支援に繋げていくような役割を果たしている。この点については、これから都民センターが目指す直接支援の方針とも共通項があるように思われる。
 都民センターと異なる点は、異文化を持つ先住民族について配慮された支援体制があること、水害や地震等の災害に対する支援体制も整っていること、また、外国人の被害者に対する支援も可能なこと等があげられる。


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