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1)−(4)被害者・遺族の自助グループ活動とその支援
被害者支援都民センター 大久保 恵美子
 
Sensible Sentencing Trust研修
 ニュージーランドには、自助グループはなく、唯一VSから紹介されたのが“Sensible Sentencing Trust”という、日本語訳では「適切な量刑を求める会」であった。司法を正しい方向にもっていくという会の趣旨から考えると、自助グループではなく、運動体と考えた方が適していると思われる。
 
Sensible Sentencing Trustメンバーとの交流会から
 研修参加者が宿泊していたホテルヘ“Sensible Sentencing Trust”のメンバー6名が来所。“Sensible Sentencing Trust”と、VSとの交流はないため、VSの職員は参加しなかった。
 
1 “Sensible Sentencing Trust”の活動成果
 政府に被害者の権利を入れた刑事司法システムに変えるように申し入れしている。
 そのために、被害者が直接政治家と話す会等を実施し、司法上のアンバランスを適正にするよう法律を制定するための働きかけをしている。
 
(1)被害者の権利の確立
 女性が監禁強姦被害に遭った後、証拠隠滅のため犯人に車でひき殺された。この事件に関して、政治家にタイヤの痕跡等を見せ活動したことがきっかけになり、犯罪被害者権利法が制定された。犯罪被害者権利法では、刑事裁判に関する考慮や賠償金制度などが盛り込まれた。
(2)殺人事件では、長い量刑を求めることができるようになった。通常は殺人事件でも10年の刑期が一般的だったが、最近の事案では3名殺した被告に仮釈放なしで30年の実刑判決が出た。“Sensible Sentencing Trust”では、社会正義のため、刑期を全うすることを訴えている。
(3)DNA鑑定における判定の導入
 窃盗事件犯人は捕まるまで、78件の侵入窃盗事件を起こしていた。当初から、DNA鑑定が導入されていれば、もっと早く捕まったと考えられる。このDNA鑑定導入についても、7才の被害女児と母親が政府の役人に会い要望を出した結果、導入された。このように、新しい手法や法律を成立させるには、被害者自身の努力も大きい。
(4)仮釈放に関して
 「なぜ仮釈放するのか、満期まで刑務所に入れておいてほしい」と、訴え続けている。その結果、最近は仮釈放が付かない判決が出されるようになり、長期間刑務所に入れておくことができるようになった。裁判官や仮釈放委員会が厳格に判断するようにもなってきた。凶悪犯罪が多くなっている近年は、仮釈放に関する問題は放置できないと考えている。
 これに関し、Sensible Sentencing Trustの会員は、ウェブサイトを作り、正義の計りのバランスをとっている。今までは加害者の権利ばかりが強調されたが、今は被害者の権利も言われるようになった。ここまでに至るには、娘を殺された義父が、凶悪犯であるにも関わらず、10年で加害者が刑務所から出所したことに怒り抗議行動を起こした結果、反響が大きく、多くの市民も行動に関わり、政府に意見書も出した結果である。
 このように仮釈放に関する考えが変わってきたのは、被害者遺族の活動が原点になっている。
 
2 “Sensible Sentencing Trust”の具体的活動内容
(1)街頭活動及び広報啓発活動等
(1)国会議事堂前で、十字架を並べる。
(2)イースターの時にブースを出し、活動に対する理解を深める。10,000人程度を対象にする。
(3)一般社会の人に対する啓発活動を行う。
(4)メディアからの取材に積極的に応じ、社会で被害者に関する論議を深めてもらう。
(2)ロビー活動及び仮釈放問題
(1)国会議員に情報を流すため、メールアドレスリンク集を作る。
(2)各政党の政策を比較できるように周知させる。
(3)“Sensible Sentencing Trust”として、仮釈放委員会に直接連絡できるシステムになっている。
(4)一般の人であっても、仮釈放委員会に連絡できるようになっている。
(3)資料収集及び情報提供等
(1)外国の犯罪に関する統計、司法関係の文献等のサイトとリンクしている。
(2)犯罪者のデータベースにより、加害者の資料が得られるようになっている。
 
3 犯罪被害者遺族の話から
(1)母親の話
 2001年9月、三男が9人(12才から19才)の加害者に殺された。ヨーロッパに出掛けていた時に事件を知り、急遽48時間かけて帰国した。空港で家族から三男が死亡したことを聞かされた。多数の加害者に暴行を受けて死亡したため、顔の見分けがつかないほど悲惨だった。加害者に対しては、絶対に許せないし無念を晴らすためには何でもしようと思った。夫も協力すると言ってくれた。加害者は6人が起訴され、うち2名が殺人罪での起訴だった。しかし、殺人でも量刑10年と判決は軽かった。加害者の数だけ仮釈放会議にも出席しなければならず、いつまでも穏やかな生活には近づけず、困難の多い人生になってしまった。昨日も仮釈放に対する意見書を書いていた。しかし、辛いことだが、メディアの取材に応じることがロビー活動にもなるので、仮釈放の度に意見を言えるのは良い制度だと思っている。
 VSからの支援は今まで交通費500ドルをもらっただけで、その他の支援は受けていない。
 加害者の家族が刑務所に面会に行く3ヶ月に1回毎に交通費とホテル代が出るのは納得できない。加害者は12才で将来があるので、更正のために両親が面会に行く必要があり、費用が出ると聞いている。他の加害者は、母親が行方不明、父親はアルコール依存症で、付添い人がいなかったため、生育歴に同情の余地があると判断され、刑が軽いのも納得できない。しかし、この三男の事件後は、加害者が12才であっても刑の対象にするといっている。
 青少年の犯罪防止には、初めて罪を犯した時からしっかりと責任を取らせる制度が必要だと思う。そのためには、加害者を不起訴にするのでなく、裁判にかけることが必要である。
 刑務所の中には加害者向けの更生プログラムがあると聞いている。しかし、せめて1日のうちの半日は、被害者の現状に直面するような過酷な更生プログラムが必要だと考えている。
(2)父親の話
 50年前のニュージーランドでは、殺人事件は年間1件か2件しかなかった。現在は100件くらいになってきた。社会全体の規律がなくなってきた証拠だと思う。しかし、今でも一般社会の人には、殺人事件に遭うなんて・・・と偏見を持たれがちであるし、社会全般に関係あることと思えないようだ。
 6人の加害者のうち1人は、起訴取り下げになった時に泣いて反省しているようだったので、もう犯罪は起こさないと思ったが、数週間後すぐに再犯を犯した。
(3)VSからの支援について
 VSは忙しいと聞いているので、支援は期待していない。仮釈放委員会へ行く時の旅費だけ出してもらえれば、それで構わない。他の被害者を紹介してほしいと希望しても紹介してもらえないし、他の被害者も何もしてもらっていないと言っている。
(4)今後の活動
 10月からは、自助グループ活動を開始しようと思っている。資金を出してくれるのは一般市民である。活動には弁護士もボランティアで協力してくれる。
 
(5)感想
 被害者支援都民センターでは、身近な所で被害者の真の声を聞くことができる「自助グループ」の存在は欠かせない車の両輪の輪のような存在になっている。しかし、ニュージーランドには、自助グループが存在しない上、VSとしても自助グループの大切さを認識していないことを知り、納得ができなかった。国民性の違いなのか、VSとしての支援体制の在り方なのか、地理的な問題なのか等を詳しく聞きたいと思ったが、明快な回答を得ることができなかった。“Sensible Sentencing Trust”のメンバーに、自助グループの効果や進め方の資料提供を申し入れたところ、とても喜ばれた。日本の各被害者支援センターに自助グループを立ち上げることの大切さを改めて認識した研修でもあった。


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