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1)−(2)活動の歴史
大分被害者支援センター 関根 剛
 
2002年以前
[国連宣言]
 1985年に国連は「犯罪および権力濫用の被害者のための司法の基本原則宣言」を採用した。その主な内容は、「被害者はその尊厳に対して同情と敬意をもって扱われるべきである。被害者に対して訴訟手続きにおける被害者の役割や訴訟のプロセス、結果などについての情報提供をする必要がある。被害者は物質的、医療的、精神的、社会的援助を受けることができ、その情報を被害者に提供されるべきである。政府は警察、司法、医療、福祉等の関係機関職員に十分な教育訓練を実施して、司法・行政上の対応を進めるための制度を整備する」等の内容からなるものである。この国連宣言に対応して、ニュージーランド政府は1987年に、犯罪被害者法(the Victims of Offences Act 1987)を制定した。これを受けて、被害者特別専門委員会が設置され、政府はガイドラインの策定および既存サービスとのギャップについて検討した。被害者支援団体と警察の関係の取り決めであるMOU(Memorandam of Understanding)のもとなるものが作成されている。
 1990年には、増加する被害者等のニーズに対処するために、被害者支援グループの全国コーディネイター団体が展開して、被害者支援協議会(NZCVSG: New Zealand Council of Victim Support Groups)が設立された。
 
[国民投票]
 1999年に国民投票が実施され、「被害者の権利、回復、資金援助、凶悪準罪等の重罰化」などが問われ、94%の国民の賛成を得ている。
 この国民投票に大きな影響を与えたと言われる事件として、1997年7月2日にクライストチャーチのメンズウェア店で店番をしていたNorm Withersの母親が、金目当ての犯人に鉄棒で重症を負わせられるという事件がある。彼の母親は2年後でさえも、味覚や発話、歩行に大きな後遺症を残す結果となるほどのものだった。この犯人は前科56犯だったにも関わらず、刑期の半分で仮釈放となり、釈放されて1ヶ月で起こした犯行であった。Norm Withersは、凶悪犯の重罰化と被害者のニーズに対応する司法の改革を求めて、国民投票を実施する署名活動を行ない、大きな反響を呼び、国民投票の実施と圧倒的な賛成につながった。
 
2002年以後
[被害者権利法の成立]
 国民投票の結果を受けて、1987年に成立した犯罪被害者法は2002年に被害者権利法(the Victims' Rights Act 2002)へと変更された。犯罪被害者法においては被害者への支援は努力義務であったのだが、被害者権利法においては国の責務であるとなった。また、「被害者は権利を持つべきである」から、「被害者は権利を要求する」へ変化するものでもある。これを受けて、被害者支援組織は、被害者に対して、全国いつでもどこでも均質なサービスを行う責任が生じることとなった。そして、そのための整備基盤が不可欠となり、大幅な活動体制の変革のための5カ年計画が実施されることになった。
 
CHANGE 2003 - 2008
 被害者権利法(the Victims' Rights Act)を受けて、被害者支援組織全体の大幅な組織・システム改変が実施されることになった。従来は、各地方組織事務局と連携を取って、全国事務局がリーダーシップを取る形式をとるボトムアップの形式をとっていた。しかし、それでは全国均質なサービスを実施するには十分ではなく、組織・ボランティア・職員・システムを含めて全国の組織が統合される必要性があると考えられた。
 各地方の被害者支援組織からの意見の集約などを行い、被害者支援組織の活動目的、全国均質なサービスを提供するための方策などについて意見が集められた。その結果、組織によって異なる意見はあったが、被害者支援団体の活動目的は、主として(1)危機介入、(2)トラウマサービス、(3)被害者支援の3つがあげられ、投票の結果、被害者支援全体をサポートするべきであると言う意見が大多数をしめた。
 また、これまでのボランティアの時間サービスでは不十分となることも予想された。
 そこで、組織間の構造改革として、各地方組織が独立して訓練・サービスを実施して体制から、今後は全国事務局が各地方組織に対しての基本的な金銭的支援および共通した訓練計画を呈示し、地方組織は被害者に対するサービスを提供する形とするものとした。いわば、ボトムアップの組織形態を、トップダウンの組織形態へ変化させ、地方組織の集合体であった全国事務局・協議会から、地方組織を全国事務局・協議会の支店と位置づける形としたのである。その方策として、全国事務局の下に14の地域マネージャーを置き(現在は9地域に配置)、地域マネージャーが地方組織のスタッフ(サービスコーディネィター)を雇用し、サービスコーディネィターは各地方組織の運営とサービス実施の責任者となるという体制をとるものとした。
 経済的には、それまでが社会福祉部門からの資金援助が中心であったが、被害者支援は法律上の問題であるという理由から、主に法務省からの資金援助が中心となることが1999年に決まった。法務省からの資金は全国事務局に供給され、全国事務局から各地方組織へと配布される。これまでは各地方組織が独立して資金を受けており、全国事務局は各地方組織の資金について把握していなかった。しかし、法務省から資金を供給されることにより、全国事務局は資金の運用について説明責任が生じることになり、各地方組織における経営的な把握・一元的な会計を実施する必要が生じるようになった。
 以上のように、被害者支援活動をマネージメントするスタッフの雇用、ボランティアおよびスタッフに対する訓練計画、会計の一元化、情報の一元化が必要となり、これまでのボトムアップの組織形態を、全国事務局を中心として各地方組織を統括・運営するトップダウン形式に改める必要性が出てきたのである。また、ボランティアも「友人からパートナーヘ」という言葉が示すように、友人としての心情的サポートから、支援スキルを持った専門家へと変わらなければならないと考えられるようになっている。
 また2004年2月におきた北島での洪水被災者に対する支援を社会開発省から依頼され、対応することになった。これに伴って、追加の資金を得ることができたが、それ以上に、VSの仕事が犯罪被害だけではなく、自然災害被災者への対応にも拡大したという意味は大きい。
 
連携
[法務省]
 法務省との連携で最も重要なことは被害者支援組織への資金提供をしている主要官庁であるという点である。追加資金も2000年には110万ドルから330万ドル(2億6,400万円)に増額され、殺人被害者のための支援、旅費、予防などのために使われているなど、被害者へのサービス向上のための支援が行なわれている。これらの資金については、法務省と全国事務局との間で覚え書きが交わされている。このように法務省が被害者支援への資金提供をする理由は、被害者支援は法的サービスとして重要であると考えているためとのことである。
 ただし、これらの資金提供に対して、全国事務局は3ヶ月に1度面会をし、年に1度フルレポートを提出する義務を負っている。
 
[情報提供]
 刑務所のコーディネィターからは、収容者の逃亡、死亡、再逮捕、一時出所、服役状況などの情報が提供される。また、保護観察からは仮釈放情報、自宅監禁(24時間居場所のモニターがなされる)の場合、死亡などの情報が提供される。
 
[司法プロセスヘの参加]
 裁判において被害者が受けた犯罪の衝撃を訴えるVIS(Victim Impact Statement)を作成し、加害者に対する意見陳述をする権利がある。また、仮釈放委員会のヒアリングにおいて加害者の仮釈放についての意見を述べる権利も持っている。また、ヒアリングヘの出席するための旅行資金援助や子どもの世話が行なわれている。これらの意見提出の準備および旅行資金の情報提供はVSがサポートしている。
 仮釈放委員会からは、被害者に対して、聴聞会開催の通知、刑務所における矯正プログラムとその効果について情報提供がなされる。そして、被害者は委員会に対して、書面等で意見を提出する権利があり、その結果、決定内容と釈放条件などが希望に応じて情報提供される。年間、口頭で67名、書面で220名が意見提出を行った。ただし、被害者の要求が通るということではなく、あくまでも社会にとっての危険性が考慮されている。
 
[Restrative Justice]
 刑務所内での矯正プログラムは再犯防止のためのものであり、被害者心情を理解させるようなプログラムは持っていない。しかし、それと同様の意味のものとして、Restractive Justiceの考え方に基づくプログラムが利用されている。VSはRestrative Justiceに関する情報提供を行なう。
 
[警察]
 ニュージーランド警察は300ヵ所の警察署に1万人のスタッフを擁している。警察はVSの設立には大きく関わっており、警察官が理事メンバーとして入っている必要がある。
 
[MOU]
 被害者支援団体と警察の関係は、MOU(Memorandam of Understanding)という覚え書きに記載されている。MOUは被害者支援団体と警察の間の協力関係を確認したものである。この覚え書きによって、被害者支援団体は警察の要請にもとづいて被害者への支援を行わなければならず、また警察は被害者支援団体に対してオフィスや物品の提供などを行わなければならない。MOUは、犯罪被害者法制定時に作成され、被害者権利法制定によって、刑事手続きなどを含めたものに更新されている。
 
[システム]
 警察に届いた被害者の情報から判断し、VSへ支援の要請が行われる。要請を受けたVSは当番ボランティアに連絡をとり、被害の現場に45分以内に向かわせ、被害者に必要な情報の提供を行う。また、緊急に現場での支援が適当ではなかったり不必要な場合は、後日、警察からの情報を得てVSから連絡を取って、支援を開始する。警察は被害者に対して、VSの支援を受けることができるということは必ず伝えることになっている。
 オフィスは警察署の施錠された内部または敷地内に置かれているので、警察の担当者と直接に話をすることが容易である。設備は基本的に机と椅子、データベース利用のためのコンピュータであり、日本のようにボランティアが待機して電話相談をするようなスペースは持っていない。オフィスにおいて警察からの要請を、サービスマネージャーまたはページャーと呼ばれるベテランのボランティアが受け、自宅などで待機しているボランティアに支援の要請を行ない、ボランティアが現場に赴く。また、カウンセリングなどは専門家の仕事であり、オフィスなどでカウンセリングを行うようにはなっていない。サービスコーディネィターは小さなVSGでは15時間程度の非常勤であり、大きなVSGでは複数が勤務している。
 現在、VSの支援の90%は警察からの情報によっている。警察から紹介された被害者については、窃盗の約7〜8割は支援を求めるものの、逆に重大な犯罪の場合では非常にわずかしか支援を求めない傾向にある。これは、重大犯罪の場合、警察はCIBという被害者を担当する警察官がつくために、VSへ支援を求める必要がないと考える場合もある。今後は、CIBとVSが親密に活動する必要性があると考えられている。
 
[裁判所]
 VSは裁判プロセスを通じて被害者をサポートするが、裁判所にも被害者アドバイザーがおり、被害者への支援を行なっている。
 
[Victim Adviser]
 裁判所には被害者アドバイザーがおり、被害者の権利や裁判プロセスについて情報提供を行い、被害者が裁判プロセスヘ参加する支援を行なっている。具体的には、裁判システム、保釈条件、社会資源、証言者になる場合の知識、財産被害の回復方法、加害者が刑務所から脱獄または釈放された場合の処し方などがあげられる。また、VIS(Victim Impact Statement)の事前確認や法廷で代理人やテープによる表明を希望する被害者への支援も行っている。
 
その他の省庁
[社会開発省]
 2004年2月に起こった洪水被害者に対して、社会開発省からの支援依頼に対応している。
 
[外務省]
 バリにおける爆弾テロ事件に対する支援依頼に対応している。カウンセリングや現場への訪問が外務省と提携の上で行われ、殺人被害者への支援の訓練を積んだスタッフ3名を国外に派遣し、また、1年後の追悼式にも3名のスタッフを送っている。
 
民間
[スポンサー]
 Stateという保険会社と3年間のスポンサー契約を結んでおり、パンフレットやポスターにはStateの会社名が記載してある。一般からの寄付や募金は2,000人いる。ほかに、宝くじからなどのギャンブル関係からの補助金がある。
 
[協力]
 明確な協力団体というものがあるわけではないが、VSGの活動は必ずしも被害者の支援に必要なこと全てが行われるわけではない。カウンセラーが必要な場合には、カウンセラーが紹介される。また、侵入盗などの事件の場合、鍵の取り付けなどの支援は地域の防犯組合に委託されている。VSGは民間にある様々な社会資源を有効に利用している。


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