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2)Victim Supportと警察との連携について
常磐大学 冨田 信穗
 
1 はじめに
 本章は、Victim Support(正式名称は、New Zealand Council of Victim Support Groups, Inc)(「ニュージーランド被害者援助団体協議会」)(以下、NZCVSGと略称する)と警察との連携について報告するものである1
 

1 本稿は、冨田信穗「ニュージーランドの被害者政策」『被害者学研究』(日本被害者学会)(1999年)を基礎とし、その後の法律の改正等についての情報を加えたものである。

 
2 民間機関と警察との連携
 ニュージーランドにおける、民間機関であるNZCVSGと警察との連携は、確固とした法的根拠に基づいているものである。最初にこの法的根拠について説明する。
 この連携の発端となる法律は、1987年に制定され、同年ll月1日より施行されている「犯罪被害者法」(Victims of Offences Act)である。この法律は、全部で16条からなる短い法律であるが、16条うち、この法律を定着させるための制度造りに関する審議・連絡機関である「被害者問題特別委員会」(Victims Task Force)に関する第12条から第16条までは、第16条に基づき、1993年3月31日に失効している。
 この法律の性格は、合衆国の各州で制定されている、Victims Bill of Rights(被害者の権利章典)に類似したものである。その全体の構成は次のようなものとなっている。
 
第1条 名称
第2条 被害者の定義
 
(原則の宣言)
第3条 被害者の処遇についての注意事項
第4条 被害者支援サービスの利用
第5条 被害者への早期の情報提供
第6条 刑事手続についての被害者への情報提供
第7条 被害者の所有物の迅速な返還
第8条 被害者衝撃陳述(Victim Impact Statement)
第9条 被害者の住所の非公開原則
第10条 保釈に関する被害者の意見
第11条 犯人の釈放および逃走についての、被害者への通知
 
(被害者問題特別委員会)
第12条 被害者問題特別委員会の設置
第13条 被害者問題特別委員会の任務
第14条 被害者問題特別委員会基金
第15条 被害者問題特別委員会への1982年公的情報法の適用
第16条 失効
 
 このうち、警察と民間の連携について、第5条は、被害者(犯罪の被害者および遺族を指す−第2条−)に対して、被害者が利用することのできる、福祉、保健、カウンセリング、医療および法律に関するサービス(第4条)についての情報を、警察、裁判所、保健機関および社会福祉機関の職員は、できる限り早い時期に提供しなければならないと規定している。
 その後、「被害者問題特別委員会」での協議に基づき、犯罪の被害者に限らず、自動車事故の被害者に対しても、利用し得るサービスに関する情報の提供を警察が行うことが決定された。また同時に、その情報の提供については、警察は民間機関と連携して行うことも決定された。この2つの決定は、1990年6月29日付の、警察庁長官から各地区司令官宛ての通達に示されている。
 さらに、1997年4月には、この通達を発展させ、警察庁は「犯罪被害者対策要綱」(Victims of Crime Policy)を制定し、犯罪および交通事故の被害者に加えて、事故や危機的状況にある者に対しても援助活動を行うこととした。また、実際の援助活動は民間機関であるNZVSGと協力して実施することとし、警察庁とNZVSGと合意書を交わすこととなった。合意書は1997年8月12日に交わされたが、合意書の概略は以下の通りである(なお、この合意書の全文の翻訳については、付録として本稿の末尾に収めた)。
 この合意書、すなわち「警察とニュージーランド被害者援助団体協議会との合意書」MEMORANDUM OF UNDERSTANDING BETWEEN HER MAJESTY THE QUEEN in right of New Zealand acting by and through Commissioner of Police (the Police) AND THE NEW ZEALAND COUNCIL OF VICTIM SUPPORT GROUPS (Victim Support) の概略は、次の通りである。
 
(1)NZVSGに加盟している団体(以下、地区VSという)は、被害者に対して、24時間体制で、訓練を受けた被害者援助ボランティアによる、適切な危機介入、リファーラル、および継続的な援助サービスを提供する。
(2)警察は、地区VSに対して、以下の援助を行なう。
(1)警察所内に事務所を提供する。
(2)通信設備、コンピュータ、その他の事務機器、およびその他の施設の利用を認める。
(3)警察側の連絡担当者を指定する。
(4)ボランティアの訓練の一環として、警察官のパトロール活動にボランティアが同行することを認める。
(5)ボランティアの訓練に、警察官による支援を提供する。
(6)「警察職員以外の者の、警察車両の利用に関する規定」に基づき、警察車両の利用を認める。
(7)緊急事態に関する、警察の全ての処理手続きに、援助団体を加える。
(8)可能な限り、被害者援助ボランティアの安全を確保する。
(9)1989年11月9日警察庁長官通達に基づく犯罪被害者の情報に関する日報を利用することを認める。
(10)警察が、地区VSの連絡担当者に、直ちに通知する11の場面を規定している。
 
3 「2002年被害者権利法」との関係について
 2002年10月15日に「被害者権利法」(Victims' Rights Act)が成立し、 同年12月18日に施行された。この法律(一般的には、Victims' Rights Act 2002「2002年被害者権利法」と呼ばれる)の施行により、先に述べた「1987年犯罪被害者法」(Victims of Offences Act 1987)は廃止されることとなった。しかしながら「1987年犯罪被害者法」に根拠を持つ「警察とニュージーランド被害者援助団体協議会との合意書」については、そのまま維持されており、現在においても警察とNZCVSGの連携の法的根拠となっている。
 なお「2002年被害者権利法」については、本報告書の別の部分において詳しく論じられることになっているので、ここでは触れない。
 
付録
 
付属文書A
 ニュージーランドにおいて、警察庁長官を通じて権限を行使する女王陛下(「警察」)と、ウェリントン市モールスワース通り180番地FAI会館11階に登記上の住所を有する法人であるニュージーランド被害者援助団体協議会(「被害者援助」)との間の、合意書
 
経緯
A ニュージーランド被害者援助団体協議会は、1990年に法人として設立された。この協議会には77の被害者援助団体が加盟している。個々の団体もそれぞれ法人として登記されている。
B 「被害者援助」(以下VSと略称−訳者)の使命に関する公式声明は次の通りである。
「犯罪、事故、および緊急事態の被害者が、十分な援助を受け、安全を確保され、被害者の生活の回復が適切になされるように」
C VSは以下のものを提供することによってその使命を果たす。
◆危機的状況における被害者に対する、24時間体制の個別的援助サービス
◆被害者およびその家族、ならびに裁判所および司法制度との接触を持った場合における検察側証人に対する援助
◆大規模な事件が発生した時における援助サービス
◆被害者の権利および要求に関する代弁活動
D VSは1987年犯罪被害者法第2条に規定されている被害者の定義を承認し、また事故および緊急事態の被害者のためにも活動するとの責務を、その目的の中に加えることとする。
 
1 目的
1.1 この合意書は、
1.1.1. 被害者の安全、援助、および回復を強化し、1987年犯罪被害者法(以下、法と略記)の規定に従うとの目的の下に、
1.1.2 両当事者が合理的に可能な範囲において、被害者に対する援助とサービスに関する相互の協力と支援を確保すると同時に、これを強化するためのものであり、
1.1.3 両当事者による地方的、地域的、全国的な試みが開発され、実現されるための活動の枠組みを提供するものであり、
1.1.4 ここに付属文書1として添付される犯罪被害者対策要綱と共に読まれるものとする。
 
2 両当事者の関係
2.1 警察は、被害者に対して親切、共感、および被害者の個人の尊厳とプライバシーに対する尊敬の念を持って、処遇するという法に基づく責任を有する。
2.2 警察とVSは、法に基づき、ニュージーランド全土における被害者援助サービスを促進し、効果に提供するために、協力して活動をする、別個の組織である。
2.3 この合意書のいかなる部分も、一方の当事者による行為について他め当事者に賠償責任を負わせるものではなく、また両当事者の間の法的関係をもたらすものではない。
2.4 この合意書は、両当事者間にすでに存在する協力関係を単に確認し、記録するものである。


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