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2002/01/26 読売新聞朝刊
[社説]中国外交 「責任大国」としてなすべきこと
 
 中国の積極的な外交活動が目立っている。
 中国のイニシアチブで、「上海協力機構」(中露と中央アジア四か国で構成)の特別外相会議が今月初め、北京で開かれ、反テロ協調の強化で一致した。
 先週には朱鎔基首相がニューデリーを訪れ、インドとパキスタンの紛争の対話による解決を促した。
 経済力や軍事力などの増強を背景に、中国は国際社会における存在感を増している。二〇〇八年北京五輪の招致成功や世界貿易機関(WTO)への加盟実現などが、そのことを象徴している。
 中国は大国としての自信を深めつつあるようだ。それが外交にも微妙に反映しており、中国が最近、しきりに強調しているのは、自身が「責任大国」であるということだ。
 唐家セン外相は昨年の外交を振り返る中で、中国が国際的な反テロ活動で「建設的な役割」を果たし「責任大国のイメージを体現した」と語っている。
 中国は昨年九月の同時テロ事件後、米国の対アフガニスタン軍事行動に理解を示し、容認した。中国が米国の武力行使を容認するのは異例のことだった。
 中国は従来、主権侵害、内政干渉につながりかねないとして、米国の武力行使には厳しい目を向けていた。
 この背景には、対米関係改善の狙いがある。あわせて、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の分離独立運動を国際的テロ活動と密接にかかわるものとして弾圧することに、国際社会の理解を得ようとする思惑もあるといえよう。
 十五年余りの交渉を経て実現したWTO加盟に関しても、李鵬全人代常務委員長ら中国の指導者は、加盟にあたって受諾した市場開放条件を、「責任大国」として誠実に実行すると言明している。
 だが、中国が約束を順守するかどうか疑問視する声は少なくない。
 「責任大国」であるとする中国の自己主張は、地域の平和と安定に貢献する協調的な存在であることを、国際社会にアピールしようとするのが狙いだ。とりわけ、周辺諸国に根強い「中国脅威論」を打ち消そうとするものである。
 中国が「責任大国」を主張するのであれば、少なくとも、増大しつつある軍事力をより透明なものにすること、南シナ海などでの領有権をめぐる対立では事態を複雑化させる行動は慎むこと、の二点が不可欠だ。
 そうしなければ、台頭しつつある中国が地域に脅威と不安定をもたらす拡張的な覇権大国になりかねない、という懸念は消えないだろう。
 
 
 
 
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