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2001/12/18 読売新聞朝刊
[社説]中国経済 バラ色ばかりでないWTO元年
 
 中国の世界貿易機関(WTO)加盟が、申請から十五年余を経て、ようやく実現した。
 一九七〇年代末に始まった中国の改革・開放は、これで新たな段階に入ったといえよう。
 国際ルールに基づく市場経済化が加速し、長期的には、巨大な市場として「世界の工場」として、中国経済の重みは増大するものと見られている。
 世界同時不況が深刻化する中で、中国経済は比較的高い成長を維持している。中国当局によると、今年の実質成長率は目標の7%を超えて、7.4%に達する見込みだ。
 米国の景気後退によって対米輸出の伸びは低下している。にもかかわらず高成長を続けているのは、積極財政や消費刺激策などで内需拡大に努めた成果であり、WTO加盟を見込んだ昨年来の対中直接投資ブームのおかげだ。
 WTO加盟が現実化した今、対中投資の一層の増大が予想され、外資や市場の獲得で中国と競合関係にある東南アジア諸国連合(ASEAN)などでは、新たな「中国脅威論」が浮上している。
 中国は、ASEANにとっても中国が重要な市場になることをアピールし、脅威論の打ち消しに努めている。中国とASEANの自由貿易協定締結への動きは共存共栄の模索と見ることもできる。
 だが、WTO加盟は中国にとって、もろ刃の剣である。少なくとも短期的には市場開放による痛みが避けられない。朱鎔基首相は「一番の心配は農業」と語っている。
 中国の農業は、日本と摩擦を起こしている競争力の強い農産物もあるが、小麦や大豆などは、国際的にとても太刀打ちできない。新たに一千万人の農業労働者が失業するとの試算もある。
 国際競争力に欠ける国有企業も打撃を受ける。一部の企業は淘汰(とうた)され、二千万人がリストラされるともいわれる。
 国有企業改革は中国にとって長年の課題だ。WTO加盟による「外圧」を利用して改革を進めようというのが、朱首相ら改革派指導者の思惑である。
 しかし、失業者の増大は社会を不安定にする。それが改革の歩みを遅らせ、市場開放の先延ばしといった事態を招く恐れもある。
 WTO加盟の効果は当面、輸出よりも輸入に強く表れ、貿易収支が悪化するとの見方も多い。
 「WTO元年」の来年、中国は引き続き内需の拡大で、今年同様7%の成長をめざすという。新指導者を決める共産党大会を来年秋に控えた江沢民政権にとって、経済の舵取り(かじとり)は容易ではない。
 
 
 
 
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