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2002/03/17 読売新聞朝刊
[社説]中国全人代 「政治の安定」へ課題は重い
 
 中国にとって、今年は「WTO(世界貿易機関)元年」である。十五日閉幕した中国の全国人民代表大会(全人代・国会)も、WTO加盟を色濃く反映した大会となった。
 大会が採択した朱鎔基首相の「政府活動報告」は、WTO加盟が短期的には国際競争力のない業種や企業に「かなり大きな打撃」を与えるだろうと指摘している。影響を被るのは、農業であり、国有企業である。
 改革・開放から二十数年、本格的な市場経済化からちょうど十年を経た中国において、収入の増えない農民やリストラされた国有企業労働者は、いわば「負け組」である。
 WTO加盟は、開放と市場経済化の一層の加速を意味しており、負け組の置かれた状況はさらに深刻化しよう。
 負け組の不満は、権力の乱用で私腹を肥やす政府・共産党の幹部への反発とも結び付いて、一段と高まっている。
 全人代期間中に伝えられた、中国の東北部・遼寧省における破産に瀕した(ひんした)国有企業労働者約五千人によるデモは、給与の未払いに抗議し、企業幹部の腐敗を批判するものだった。
 朱鎔基報告が中国の直面する問題として、真っ先に農民の収入の伸びの鈍化を取り上げ、さらに都市における失業問題に言及したのは当然だ。
 中国は今秋、五年に一度の党大会を開催し、指導部の若返りを図る。江沢民政権はスムーズな指導者交代に向けて、安定を最優先している。負け組への配慮は安定確保のうえでも不可欠である。
 首相は、農業の経営近代化や農村企業の再活性化、農民の負担軽減などで農民の収入増を図るとも述べた。だが、その実現は容易ではない。
 都市部の失業率は、昨年末の3.6%から今年末には4.5%に上昇すると想定されている。ただ、この数字は実態を反映しておらず、すでに二けたにのぼるとの見方もある。
 失業問題の解決には、社会保障制度の拡充を図る必要がある。経済発展による雇用の創出も重要である。中国は今年も7%前後の成長を目標にしているが、新しい労働力を吸収するうえでも、この程度の成長は必須条件だ。
 中国は昨年、積極財政で内需拡大に努め、7.3%の経済成長を達成した。今年も財政出動で内需拡大を図る方針だが主要輸出先の米国や日本の経済回復が頼みの綱という一面は否定できない。
 「政治の安定」を目指す指導部の姿勢が顕著な全人代だったが、そのための課題は極めて重い。
 
 
 
 
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