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1997/11/11 毎日新聞朝刊
[社説]李鵬首相来日 実務的な日中関係構築を
 
 中国の李鵬首相が11日から16日まで来日する。9月に訪中した橋本龍太郎首相は李鵬首相との会談で「毎年、どちらかの首脳レベルが訪問する」ことで合意した。今回の来日はこの合意に基づく日中首脳相互往来の実質的なスタートになる。
 来年には、江沢民・国家主席が日本を公式訪問する予定だ。日本にとって、大国としての存在感を強める隣国・中国との関係は極めて重要だ。首脳同士の信頼を深めることが外交関係の安定化につながることは言うまでもない。中国首脳に日本の現状を理解してもらう上でも、首脳の往来は歓迎すべきことだ。
 中国は10月末の江沢民主席の訪米に続き、9日にはエリツィン露大統領を北京に迎えた。多極的世界の構築を目指し、大国との外交を活発化させている。李鵬首相の来日もこの脈絡でとらえられるだろう。
 中国は、橋本首相とエリツィン大統領とのクラスノヤルスク会談で日露両国が「2000年までの平和条約締結」への努力で一致したことにも強い関心を寄せている。
 日米中露の4極関係はアジア・太平洋の繁栄と平和に死活的な重要性を持っている。日中両首相には、21世紀に向けた世界、アジアの将来像についても十分に意見交換してもらいたい。
 同時に重要なことは日中間の実務的な関係の発展だ。李鵬首相は9月の橋本首相との会談で、「ハイテク分野の投資、輸出を歓迎する」と語っている。今回の来日でも、李鵬首相は日本を代表する自動車、電機メーカーを訪問する。
 採算の取れない赤字国有企業の改革問題を抱える中国は、日本などからのハイテク導入に活路を見いだそうとしている。そのための資金も含め、中国の経済発展にとって対日関係の比重は決して小さくない。
 日中間の貿易総額は昨年、624億ドルに達した。中国にとっては日本が最大の貿易相手国であり、日本にとっても米国に次ぐ第2位だ。中国の経済成長が今後も順調に進むかどうかは、日本経済の行方にも密接にかかわる。
 李鵬首相は東南アジアや香港の通貨危機で浮上している「アジア通貨基金」構想や、12月の気候変動枠組み条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)に向けた議長国・日本の取り組みについても橋本首相と意見交換したい意向という。
 日本がアジアの経済発展、秩序作りにどのように参画しようとしているのかを見極め、「共通の利益」を探ろうとする狙いだろう。
 11日には、国連海洋法条約に基づく日中新漁業協定の調印も行われる。両国が尖閣諸島をめぐる領土問題を抱えながらも、両国関係全体の利益を考慮して協定に合意したことは、日中関係のあり方を考える上で良い先例になりうる。
 李鵬首相の来日は1989年4月以来8年ぶりだ。李鵬首相は同年6月の天安門事件の武力鎮圧の責任者の立場にあった。訪日が途絶えていたのは、これと無関係ではない。
 ただ、日本は米国流のアプローチとは異なり、中国との間で対話を通じて人権問題を解決する道を模索し始めている。橋本首相には日中の「共通の利益」を考える上で、人権問題が避けては通れない課題であることも率直に伝えてもらいたい。
 
 
 
 
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