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1989/08/05 毎日新聞朝刊
天皇、皇后両陛下の会見詳報
 
 四日午後、皇居で行われた天皇、皇后両陛下の記者会見の内容は次の通り。
 質問の一部は簡略化し、お答えは完全収録した。会見では主に宮内記者会の代表が質問し、一部関連質問もあった。特別に表記した質問以外は宮内記者会代表による。
−−お言葉をお願いいたします。
 天皇陛下 昭和天皇のご病気中、大勢の人々からお見舞いの気持ちが示され、また崩御にあたっては弔意が寄せられたことは非常に心打たれるものがありました。大喪にあたっては厳しい寒さと雨の中、多数の参列と心のこもった沿道の見送りを受け昭和天皇は陵所にお向かいになりました。心寄せられた多くの人々の気持ちに対し深く感謝の意を表したいと思います。また崩御にあたって世界各地の人々、並びにそこに住む日本人や日系の人々が弔意を示されたことに対し大使館の記帳簿などを見ながら深く感謝しております。
◇昭和天皇の思い出
 −−昭和天皇が亡くなられた際、どのような思いが去来したのかお聞かせください。また、闘病中を含め、昭和天皇から陛下に残された天皇のあり方などについてのお話や心に残る思い出がありましたらお聞かせください。
 天皇陛下 お顔を見つめながらとうとう崩御になったことに深い感慨を覚えました。皇位を継承したことを心に刻んだのは、ひと時してからのことでした。天皇のあり方については、お接しした時に感じたことが大きな指針になっていると思います。人への思いやりなどについても学ぶことが多くありました。思い出としてはいろいろありますが、葉山でご一緒に過ごしたときのことなど、ついこの間のことのようになつかしく思い起こされます。
 皇后陛下 お長かったご不例の日々にも、お治りになるという気分を捨て去ることができませんでしたので、崩御は本当に悲しいことでございました。その時ある思いが去来したというよりも、おそばで過ごさせていただいたかけがえのない日々が、とうとう終わりになってしまったという寂しさだけを感じておりました。
 −−即位されるにあたり、改めて心に期された点がおありですか。また、警備のあり方や陛下ご自身の健康管理などに新しいスタイルが見られますが、今後の皇室のあり方について、お考えを。
 天皇陛下 憲法に定められた天皇のあり方を念頭に置き天皇の務めを果していきたいと思っております。国民の幸福を念じられた昭和天皇をはじめとする古くからの天皇のことに思いを致すとともに、現代にふさわしい皇室のあり方を求めていきたいと思っております。警備のあり方については、先の植樹祭で社会に迷惑がかからないように、いろいろ工夫がなされており、苦労も多かったと思いますが、そのような方向で心をくだいてくれたことをうれしく思っております。健康管理については、医学の進歩に応じたものが必要と思います。
 皇后陛下 陛下のご即位後の一年は、先帝陛下の御霊(みたま)をおしのびする諒闇(りょうあん=天皇が父母の死に対し服する喪の期間のこと)の一年でもあり、この大切な時期に過去のことをよく学び、これからの自分のあり方について考えたいと思います。また、陛下が今までにも増して重い責務を果たしていらっしゃるのですから、日々のお疲れをいやす安らぎのある家庭を作っていきたいと思います。
◇憲法について
 −−陛下は、「即位後朝見の儀」のお言葉の中で、「皆さんとともに憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べられました。憲法への思いをお聞かせください。
 天皇陛下 憲法は、国の最高法規ですので国民とともに憲法を守ることに努めていきたいと思っています。終戦の翌年に学習院初等科を卒業した私にとって、その年に憲法が公布されましたことから、私にとって憲法として意識されているものは、日本国憲法ということになります。しかし、天皇は憲法に従って務めを果たすという立場にあるので、憲法に関する論議については言をつつしみたいと思っております。
◇国際親善
 −−両陛下はこれまで国際親善に熱心に取り組まれてきましたが、その意義についていかがお考えでしょうか。中国、韓国ご訪問が実現された場合の歴史的意味についてどのようにお考えでしょうか。また、皇室は「日本らしさ」の象徴として世界から受け止められていますが、日本の国際化の象徴として、皇室も外国製の車を使い、外国ブランドの服を着、外国産のお米をお食べになったらいかがでしょうか。さらには、皇太子殿下を含め、皇室のメンバーが、外国人と結婚する可能性についてはいかがでしょうか(在日外国報道協会代表)。
 天皇陛下 現代の世界はあらゆる国々が国際社会の一員という立場に立たなければ人類の幸福は得られないという状況になっていると思います。従って国と国との親善関係の増進は極めて重要なことです。そこには人と人との交流が果たす役割も大きなものがあると思います。私もそのような意味で、私の立場から外国の人々との理解と親善の増進に役立つよう努めていきたいと思っております。
 中国と韓国の訪問については、私の外国訪問は政府が決めることですが、そのような機会があれば、これらの国々との理解と親善関係の増進に努めて、意義あるようにしたいと思っております。
 国産品、外国産品の問題については、国産品、外国産品を問わず、ふさわしい物を使うということが望ましいと思われます。国際化にはいろいろな面がありますが、最も大切なことは、外国の人々に対してそれぞれの心を理解しようと努め、お互いに人間として理解し合うように努めることが大切と思います。
 皇族の結婚については、本人の問題、皇室会議を経るという手続きがありますので、私の立場で言うことは差し控えたいと思っています。
 皇后陛下 国際親善は、いろいろな立場の人々が、それぞれの立場で友好を深めていって、次第に国同士の親しさがかもし出されてくる、というようなものではないかと考えています。私も、私の必要とされる分野で努めていきたいと思います。大韓民国と中華人民共和国の訪問については、今、陛下がおっしゃったことと私も同じ気持ちでおります。要請がございましたら、心をこめて務めを果たしたいと思います。次は何でしたかしら?(質問を繰り返す)私どもの生活の中にはもちろん外国の品々がたくさん入って来ておりますが、私は自分の育った時代もあって、どちらかというと国産の製品を愛用する方かもしれません。質問の中にあった日本らしさということも、国際化ということも、物と心の両面にかかわることですので、この問題はもう少し、全体としてとらえ、これからも考えていきたいと思います。最後の質問については陛下のお答えと同じになると思います。
◇昭和天皇の戦争責任
 −−昭和天皇が亡くなられて以降、戦争責任の問題が国の内外で改めて論議されました。天皇と戦争責任、それをめぐる論議について、どのようにお考えですか。陛下の戦争と平和に関するお考えをお聞かせください。
 天皇陛下 昭和天皇は平和というものを大切に考えていらっしゃり、また、憲法に従って行動するということを、守ることにお努めになり、大変ご苦労が多かったと深くお察ししています。先の戦争では、内外多数の人々が亡くなり、また苦しみを受けたことを思うと、誠に心が痛みます。日本は新しい憲法の下、平和国家としての道を歩み続けていますが、世界全体で一日も早く平和が訪れるよう切に願っております。
 −−中国の李鵬首相来日の折、日中戦争をめぐり中国に遺憾の意を表明されたと伝えられましたが、どのようなお気持ちでおっしゃったのでしょうか。
 天皇陛下 その問題については、公表しないことになっております。
 −−陛下としては、昭和天皇には戦争に対する責任はなかったとお考えだというふうに解釈してよろしいですか。
 天皇陛下 私の立場では、そういうことはお答えする立場にないと思っております。
◇言論の自由
 −−昭和天皇の戦争責任をめぐる長崎市長の発言が波紋を呼びましたが、これ以外にも、天皇制、とりわけ戦争責任については、自由な論議が封じられる風潮があります。天皇制をめぐる言論の自由について、どのようにお考えですか。
 天皇陛下 言論の自由が保たれるということは民主主義の基礎であり、大変大切なことと思っております。
 −−言論の自由には戦争責任や、天皇制の是非について論じたりするということも含まれますか。
 天皇陛下 そういうものも、含まれております。
 −−昭和天皇の大喪の礼では、憲法の政教分離の原則に抵触するかをめぐって論議を巻き起こしました。来年の即位の礼、大嘗祭(だいじょうさい)への陛下のお考えをお聞かせください。
 天皇陛下 この問題につきましては、内閣が慎重にいろいろな角度から検討を行っていると思います。
 −−宮中祭祀(し)にはどのような心構えで臨まれますか。
 天皇陛下 昭和天皇も宮中祭祀を大事に考えていらっしゃいました。その気持ちを受け継いでいきたいと思っております。
 −−陛下はこの度、昭和天皇の遺産を相続され、相続税を支払われましたが、ご感想をお聞かせください。また、今後資産を公開されていくお考えはありますか。
 天皇陛下 相続税の問題については法令に従って行うのが望ましいと考えています。皇室の経済については憲法や法律に定められており、資産の公開についてもそれに従いたいと思っています。
 −−天皇の「公」と「私」についてどのように区別されますか。
 天皇陛下 この問題については、非常に区別がはっきりしているものもあれば、またはっきりしていないものもあると思います。その場合々々によってやはり考えていかなければならないわけです。
◇皇太子さまの結婚問題
 −−皇太子さまが結婚の目標とされてきた三十歳まで、あと半年となりました。ご結婚の時期、見通しなどについて、両陛下の率直なお気持ちをお聞かせください。皇太子さまは来春にも独立されますが、そのご感想も併せてうかがいます。また、礼宮さまも親しい方がいらっしゃるようですが、皇太子さまより先に結婚される場合もあり得ますか。
 天皇陛下 結婚の問題については、お答えすることはできません。皇太子とは永年一緒に住んできましたので、いろいろとお互いに良い影響を受け合ってきたと思っています。今後ともそういう関係が続くことを願っています。
 皇后陛下 私も東宮さまや礼宮の結婚については答えを控えさせていただきます。東宮さまは独立なさって、しばらくは不便もおありかと思いますが、やがてこれもなかなかいいものだとお思いになるのではないでしょうか。時たまでよろしいから、ビオラを聴かせにいらしてくださると、うれしいと思います。
 −−イギリスの王室は、環境、文化の問題について、積極的に発言されています。日本は今、地球規模の環境問題で積極的な役割を期待される一方、環境破壊について、責任を問われています。こうした点で皇室の果たしうる役割を含め、いかがお考えでしょうか(在日外国報道協会代表)。
 天皇陛下 現在、環境の問題は、世界のあらゆる人々が関心を持たなければいけないほど、相互依存性の強い問題になっていると思います。皇室としては、ふさわしい在り方で国民の関心が高まるように努めていきたいと思っております。皇太子時代、毎年、豊かな海づくり大会に出席しましたのも、日本を囲む海が、少しでも良くなるように願ってのことでありました。地球規模の環境が、日本でもだんだん関心を集めて来、それに取り組む人々が増えて来ていることを大変うれしく思っております。
 −−新御所の設計や御用邸の利用方法について、どのようなお考えをおもちですか。外国では、宮殿などの施設が広く国民に開放されていますが、どうお考えでしょうか。
 天皇陛下 御所の建設については、政府が決めたばっかりで、まだ何も決まっていません。御用邸については、今年の夏は、皇太后さまもいらっしゃるようですので、昭和天皇にゆかりの深い那須に一週間ばかり過ごそうと思っています。宮殿などの開放については、私は、戴冠式(たいかんしき)の時に、英国戴冠式の時に、各国を訪れ、そのことを深く印象づけられました。日本でも京都御所は、早くから一般に公開されており、その後、皇居東御苑が作られ、現在人々の憩いの場になっていることを大変うれしく思っております。この問題についてはいろいろな面から検討される必要があると思います。
◇沖縄訪問
 −−昭和天皇は、沖縄訪問の強いお気持ちを持ちながら実現できず、沖縄県はいまだに天皇陛下をお迎えしたことがありません。沖縄訪問のお考えをお聞かせ下さい(沖縄タイムス)。
 天皇陛下 機会があれば、是非沖縄を訪問し沖縄の人々の心を、気持ちを、戦争で亡なった人々、また多くの苦しんだ人々のことを考え、沖縄を訪問したいと思っております。
 −−ご結婚三十周年のご感想をお聞かせください。また両陛下にうかがいます。皇太子時代は友人との気軽なお付き合いが可能だったわけですが、こうしたライフスタイルは続けていかれますか。
 皇后陛下 三十年にわたって先帝陛下と皇太后陛下の御教え(みおしえ)を受けて過ごすことができ、幸せでございました。また今上陛下がいつも本当に広いお心で、ありのままの私を受け入れて下さいましたので、その安らぎの中で導かれ、育てられてきたように思います。両親のもとで過ごした年月よりも、さらに長い年月が過ぎたことを思いますと、やはり深い感慨を覚えます。
 天皇陛下 そのう・・・、演奏やテニスを家族でする、ということは今後も続いていくと思います。しかし、テニスについては、技術の差が、大分多くなりまして、良いゲームは難しくなってきました。これからも広く人々と接することは進めていきたいと思っています。
 −−昭和天皇には、がん告知がなされなかったわけですが、お気持ちを。
 天皇陛下 高木侍医長は、侍医としても務めており、その後、侍医長として務めたわけで、高木侍医長の意見に従うのが最も良いと私は考えました。
 
 
 
 
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