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4.2 技術開発に関する日本海運界の動向について
 海運会社の経営は資産としての船を持つ「船主」の立場、その船を使って貨物を運ぶ「オペレーター」の立場及びその船を安全に運航してゆくための船舶管理を行う「船舶管理会社」の立場を併せ持つ業界である。この三つの業務を社内に併せ持つ会社もあれば、一部を外部に委託している会社もあるが、何れにしても参入障壁が少ない業種である。
 従って、海運会社は造船会社と同様に完全な国際競争の下にあり、競争相手は国内のみならず世界である。特に途上国における海運は、国の手厚いバックアップのもとで発展を目指すのが常で、これら発展途上国海運との競争はより厳しくなっている。従って技術開発を手がける際どうしても同業他社に対する差別化を念頭に置かなければならない環境下にある。技術開発案件においてもSR研究のような共同研究する案件、各会社で個別に研究する案件という明確な仕分を持っていることは当然である。
 こういう状況もあり大手の海運会社では前述の業務を単なる従来の船舶のみの世界に留めず、顧客に対するサービスという観点で差別化を図るべく、荷物を客先の玄関から客先の玄関まで運送する「総合物流業」を指向している。従ってこの新しい物流という面で大きく捉えれば技術開発の要素は多々あると考えられる。
 また、海運会社の主業務は客先から預かった荷物をきちんと計画通りに、安全に目的地に運送することが使命であり、船の運航が阻害される事態は、客先の業務に支障を与えるので理由の如何を問わず絶対に避けなければならない。まして、船の座礁、衝突、火災等の大事故は会社の社会的な責任を損なうばかりか、結果として最悪の場合会社の存続にも影響を与えかねない。従って安全運航に関する意識は極めて高く、安全運航と地球環境保護の技術開発案件は常に注視、参画しているのである。
 更に、最近はCSR(Corporate Social Responsibility)は会社経営の最重要事項であるという認識が高まっており、新規技術開発や環境対策に対する関与が不可欠である。また、新規技術開発と言う点では、LNG船以来目新しい船種の開発はなく、新規業務分野へ発展して行こうという観点からは新エネルギー輸送分野にも期待が集まっている。
 以上をまとめると、現在の日本海運界のキーワードは「グローバル(物流を含む)」、「安全」、及び「環境(新エネルギー技術開発も含む)」である。
4.3 内航海運の現状と技術開発課題
 日本内航海運組合総連合会によれば、日本国内で船舶、自動車、鉄道によって運送される国内貨物は、約62億トン(01年)となっており、このうちの約9%に相当する5.2億トンが内航(船)貨物である。輸送される貨物は、石油製品、石灰石・原油等非金属好物、鉄鋼等金属、砂利・砂・石材、雑貨、化学薬品等、自動車や鉄道では輸送困難な重量物、大量輸送を要する貨物が中心で長距離輸送されるのが特徴である。上記の値を輸送量の単位であるトン・キロメートルで表すと自動車の3,131ton・kmに対して2,445ton・kmとなり、42%のシェアを占め、国内物流に重要な地位を占めている。しかし、船主の約70%は弱小な家族経営であると言われている。
・・・表4-6〜4-7参照
 1998年5月以降は、船腹調整によって過当競争を防いできた反面、自由競争を阻害する要因となっていた引当権(建造権利)を段階的に解消する目的で内航海運暫定措置事業(暫定措置)が実施された。この結果、引当権の担保価値が事実上ゼロとなり、従来のように引当権を持っているだけでは金融機関が建造資金を融資しなくなったこと及び経済不況と荷主の合理化(競争相手同士のタンカーの融通等)が重なって年間200隻前後建造されていた内航船の建造が極端に減少することとなった。又、暫定措置によって実施される船舶をスクラップしたときに日本内航海運組合総連合会から交付される期限付きの交付金は、船腹減少に拍車を掛け2003年3月末までに約1,600隻が解撤され、約4,000人の離職船員が生じたと言われている。
 同じ重量の貨物を同じ距離だけ運送する場合、船舶は鉄道輸送と並んで非常に効率がよく、航空機の約40分の1、トラックの5〜60分の1とされている。当然CO2の排出量も少なく環境対応型の輸送機械である。
・・・表4-8参照
 新船の建造については、最近ようやく回復の兆しがでてきたものの、陸の貨物を海にシフトするというモーダルシフトは起こっておらず、むしろ逆の逆モーダルシフトが起こっている。内航海運はカボタージュによって外国船の参入を防いできたが、このことが内航海運の競争力が低下していることとも無縁ではないと思われる。現在、内航船舶物流に占めるコストのうち、人件費が55%、船価が30%になっており、人件費と船価の関係は一昔前と逆転してしまっている(広島大学の調査による)。又、現状では、運行コストの高さに加え、接続コストが高過ぎ、熾烈な競争を続けている陸の運送業との競争が不可能な経済を無視した構造になっている。世界の経済がグローバル化し、国内市場といえども閉鎖市場では生き残っていけない今日、内航海運は顧客ニーズに対応して徹底した合理化を図らなければならない。雨が降っただけで荷動きが制限されるような状況ではJust in Timeに対応できないし、陸とのスムーズな接続も不可能である。片側方向の荷物しか扱えないような船舶は所詮トラックの敵ではない。結局、内航船に回ってくる荷物は、トラックではどうしても運べないものだけになっている。
 技術開発については、TSLに代表される高速船の開発、操船性や環境に対応したエコシップの開発、電気推進船、乗組員の船内作業の軽減と確実な監視を実施するための機関遠隔監視システムの開発或いはモージュール化による建造コストの軽減の研究が行われているが新しい船舶や新しいシステムは、社会性のみならずユーザーと運航者のニーズに立脚したものでなければならず、又、何よりも経済性が重視されなければならない。又、新しい技術の普及が促進されるような法律の整備及び新しい技術がもたらす省力化等に対する規制の軽減が同時に実行されなければならない。例えば、ワンマンコントロールの船舶を開発したとしても船員を減らすことができないならば新しい技術に挑戦しようとする船主はいなくなる。
 内航海運も2000年以降はIMS(国際船舶管理システム)が任意制度として制度化され、2005年以降はNOxに対する環境規制が適用され、船舶管理ではIMS(国際船舶管理システム)が任意制度として認められ近代化に向いつつあるが、内航船舶が環境対応型の輸送機関として総合物流の一角を占め、陸の荷物を呼び戻すには抜本的な構造変革と規制の緩和及び経済原則に立脚した内外の物流全体を捉えた新たな技術開発が求められる。
4.4 従来の技術開発に占める海運関係課題
 平成5年から平成16年までのSR課題の分野別投資額を表4-9に分野別投資割合を表4-10に示す。
 
表4-9 SR研究分野別投資額の推移(研究費総額)
 
表4-10 SR研究課題分野別投資割合の推移(研究費総額の比)
 
 SR課題投資の推移から以下のことが分かる。
(1)造船関係の投資は、平成8年に大きく減少し、その後も減少し続け近年ではゼロとなっている。
(2)海運関係は平成8年に大幅に増加し、その後は40%程度で横ばいであったが、近年は金額も1億円を大幅に下回り割合も20〜30%に減少している。
(3)舶用関係は平成13年までは5〜10%の範囲で変動していたが、近年は金額で1億円を超え、割合でも70〜80%と研究費の大半を占めている。
 一方、海運関係のSR課題の内容を見てみると、
SR224 運転条件の違いによる機関諸元の挙動解析
SR227 自動運航システムの評価
SR233 船舶の高度モニタリングの基礎研究
SR234 船舶のカーゴセキュアリングシステムの研究
SR238 新しいフリートサポートシステムの研究
SR240 新しいフリートサポートシステムの開発
SR242 原油タンカーの新形コロージョン挙動の研究
SR244 実海域対応の船舶性能設計システムの研究
SR245 二重殻タンカーの船体構造寿命に関する研究
 の8課題(SR238とSR240は同じ)となっている。
 これら研究課題の多くはその時点における問題解決型となっており、海運界全体を見渡した研究課題が取り上げられていない。即ち、造船界から見た海運界の課題であり、海運界から見た研究開発課題の抽出が欠如しているといえる。
 従来のSR課題を造船関係、海運関係及び舶用関係に分類し、それらの研究投資額の推移を分析したところ、
(1)造船関係主体の課題から海運関係の課題へと大きくシフトしている。
(2)しかし、それらの課題は造船界から見た海運界の課題となっている。
(3)従い、従来のSR課題は造船界からの視点が主体であり、海運界からの視野が欠如していたと言わざるをえない。







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