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4.5 海運界から見た新しい技術開発案件
 従来の技術開発課題の偏り及び前述したキーワード、「グローバル(物流を含む)」、「安全」及び「環境(新エネルギー技術開発も含む)」を念頭に置き、海運界から見た技術開発の必要性及び課題について以下に考察を加える。
(1)グローバル(物流を含む)
 海運界が総合物流業を目指していることを勘案すると対象は国内に限らず海外をも含んでいる。従って技術開発案件についても国内ばかりでなく、海外のものも対象に含まれることから海外研究機関等の研究開発課題で有効なものは積極的に共同開発することも必要である。
 物流は先進国と途上国間、資源国から工業国へ、生産国から消費国へと世界中を移動する。従って、インフラの整備されていない国も多く、各国毎に貨物の種類、輸送の方法や包装形態も違う。この多様性の中での最適輸送システムの構築等にもニーズやシーズの可能性がある。特に人口が多く、将来の消費者国という観点からは中国、インド、アフリカあたりが当面視野に入ってくる。
(課題例)
 各港湾条件にあった最適船型、最適輸送システム、世界的なメンテナンス体制の構築等物流は陸海空をすべて網羅し、どうしてもその間に接続部分を含んでいる。船舶だけに偏らず、ターミナル、倉庫等の接続部分に技術開発の要素が埋もれていないか再点検を要する。
(課題例)
 最適ターミナルのあり方、物流スピードの向上、新規物流システムの開発等
(2)安全
 安全運航は海運業での最重要な柱の一つである。
 衝突、座礁及び火災という三大事故に関しては、IMO等で議論が重ねられ、SOLASを含め各種規制強化で予防的措置を行うことで手当が進んでそれなりの成果は挙がりつつある。三大事故以外の事故もISO9001やISM等の標準化、文書化とその励行を柱とした規則強制化で防ごうとしており、それなりの成果は上がっているが、残念ながら現状は単なる標準化や文書化に留まり、結果責任まで貫徹できたとは言い難く、相変わらず事故は起こっている。例えば機関事故は不稼動の大きな原因の一つであり、各海運会社はこの種の不稼動をミニマイズするような組織や運営方法の模索を行っている現状である。
 一方ではコスト競争力の観点もあり、船の運航の主体は完全に日本人から外国人にシフトしており、技術的、運用的な更なる向上に過度の期待はできない状況にある。あまり難しい操作を要する技術開発は必要とされず、従って省人化や自動化運航も重要であるが中途半端なものは望まれない。
 上記経緯もあり船隊全体の管理システムは、本船で管理するもの、本社など陸上で管理するものの明確な区分も含めての再点検が必要となっている。
(課題例)
 機関プラントの簡素化・標準化、世界的なメンテナンス体制構築、実海域研究等昨今の老齢タンカーの船体折損沈没による海洋環境汚染大事故の発生もあり、今後海事関係の国際規則は厳しくなる一方であるのに対し、対応はどうしても後手となってしまう場合も多かった。規則改正が欧州主導の流れになっているためでもある。この辺で我が国も先手を取って研究と技術開発を推進する必要があるが、これらの課題は単独の会社対応では無理があり、共同研究の拡充強化が不可欠である。
(課題例〉
 国際規則対応(IMO)研究。例えばFSA的手法の実証的研究、LACS UR対応研究。例えば構造規則統一について関連の諸問題。
(3)環境(新エネルギー技術開発も含む)
 環境関係対策については後の章で触れられるが、CSR等考慮すると従来の延長線上の対応では限界となってきている。
 省燃費も環境対策ではあるが、しかし経済性との接点を何処に求めるのかが常に問われる。
 また環境関係の国際規則でも先手をうてる研究の推進は、一部SRで着手したが、重要性は戦略的にも増してくるであろう。
(課題例)
 環境にやさしいプラント研究(グリーンエンジン、NOX・SOX対応等も含め)、国際規則対応研究新規技術開発の面では環境も含めて新規エネルギー分野に輸送手段も含めて関心が高い。これは新規業務開拓の意味合いもある。
(課題例)
 新規エネルギー対応船、新燃料対応船(発熱量、燃焼時の二酸化炭素生成量、扱い易さ、経済性等を十分考慮)、環境対策船
・・・表4-11参照
4.6 海運業界の参画と貢献
 以上に述べた通り、海運業界の研究および技術開発に関する共同研究に対して、必ずしも積極的に課題を先導、提起して共同研究をリードする発信力は十分であったとは断定できないものの、例えばSR166のように造船業界が瑕疵担保責任追及を恐れて原因調査と対応が遅れる一方であった、「スチールホットコイル積載時の二重底構造損傷問題」に対して、荷主である鉄鋼業界の問題早期解決の強い要望を受けてこれを主導し解決したようなケースもあり、特に海運の参画と貢献は不可欠である。
 実際の運航状態の実船の提供による運航中の実船実験と運航実績のフィードバックは、海運の参画なくしてはあり得ないことから、これからも海運業界の参画と貢献に対する要請と重要性は高まるものと考えられる。
 例えば、海上物流の増大と経済性・環境面から要請される運航の効率化に伴い、コンテナ船も現在は8,000TEUが支流となりつつあり、その上に12,000TEU、更には18,000TEUが検討の俎上に上がってきている。LNG船も135km3から200km3にシフトしようとしている。このような大型化は単に既存技術で拡大すれば対応できるものではなく、経済性、安全性、操船運航の見地から2機2軸がいいのか1機1軸がいいのかの詳細な検討が必要であり、その場合の新たな船体構造や荷役システムのコンセプトの提案と設計技術、1基で十数万馬力の出力が要請される超大型高性能エンジン実現の可能性の検討と研究開発、既存技術の延長では不可能と言われているキャビテーションを起こしにくいプロペラの研究開発等、技術の飛躍がなければ達成できない技術開発が必要と思われるが、こうした新しい技術の開発は、船舶のユーザーである海運が造船・舶用部門に積極的参加することなくして完成し得ないと考えられる。
 日韓の技術格差が益々小さくなってきている今日、差別化するための技術開発で重要なのは、単に優れた船体、安全な船体、高性能推進プラント、環境に配慮した船舶といった輪切りにされた技術開発の他に、真にニーズとアイディアを持っている少数の者が物流全体を捉え、何があればいいのか、それを研究・開発することによって物流がどう変わり、経済的にどのようなメリットが出てくるのか、国際基準への対応はどうあるべきか等を十分議論して実施すべきであるし、これらを海運、造船、研究機関等で議論・検討するため少数精鋭で構成するプラットホームの設置が是非とも必要であると考えられる。
 
表4-1 世界の海運貨物量の推移
 
表4-2 船舶による日本の貿易額の推移
(注:グラフ毎に尺度が異なることに注意)
 
日米間貿易(船舶貨物)
 
日中間貿易(船舶貨物)
 
日韓貿易(船舶貨物)
 
日本と世界の貿易額の合計(船舶貨物)







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