7 オイルフェンスの調査研究のまとめ
オイルフェンスの調査研究はオイルフェンスの使用法に関し、それぞれの研究テーマに沿って水槽実験(シップ・アンド・オーシャン財団、筑波研究所)と海上実験とを組み合わせて実施し、その相関関係を確立している。
また、オイルフェンスの展張方法については、昭和50年代の前半に6つの展張方法を確立し、IMOのマニュアルに記載されている。
更に、現有オイルフェンスの海象による滞油性能については、水槽実験により各型オイルフェンスの性能が明らかにされている。
これらの研究テーマについて、それぞれ記述すると以下のとおりである。
(1)オイルフェンスの使用法に関する調査研究
1)オイルフェンスの性能評価 ― 昭和50年
B型オイルフェンスの気象・海象に対する使用限界、オイルフェンスの強度及び展張作業の難易度の調査。
2)ドレッヂ方式によるオイルフェンスの移動の制御 ― 昭和53年
展張したオイルフェンスの両端の曳航ロープに抵抗重量物(ドレッヂ方式)をつけて、オイルフェンスにかかる風・潮流による移動量を低減してオイルフェンスの滞油性能範囲の速度内に留める方法。
3)流出油の誘導法 ― 昭和54年
流出油事故現場の風・潮流が速く、オイルフェンスによる流出油の拡散防止や滞油が困難で油回収作業ができない場合、油回収作業が可能な海域へ流出油を誘導するオイルフェンスによる誘導展張法(Deflection deployment)を開発した。
なお、この誘導展張法の使用オイルフェンス長さは最大80m(ユニット4位)が有効長さであることが当センター訓練所の研修課程の演習から得られている。
4)錨による展張オイルフェンスの固定法 ― 昭和55年
展張したオイルフェンスを海上に固定するための錨の種類、錨索の長さ、底質等によって変化する錨の把駐力の調査をB型オイルフェンスを使用して風・潮力等の外的要件を種々変化させて、水槽実験及び海上実験を実施し、相関関係を確立した。
(2)オイルフェンスの展張方法に関する調査研究
我が国で開発されたオイルフェンスの展張法は、IMO、MANUAL ON OIL POLLUTION − SECTION IVの6章2-11にDeployment of Boom(オイルフェンスの展張)として採用されている。
オイルフェンスの展張方法は、次の6方法である。
1)包囲展張(Encircling)
2)待受展張(Waylaying)
3)閉鎖展張(Staggered boom configuration across a channel)
4)誘導展張(Deflection deployment)
5)曳航展張("U" Shaped towing)
6)流し展張(Free-drift containment)
(3)オイルフェンスの滞油性能に関する調査研究
各型オイルフェンスの滞油性能調査は、昭和53年4月筑波研究学園都市に現シップ・アンド・オーシャン財団筑波研究所が故笹川良一会長の全面支援の助成事業により、屋内で油を使用して実験が可能な世界最大の角水槽及び回流水槽施設(図II-8.30、31 参照)が完成した。
このことにより、オイルフェンス内に滞留した油の挙動、油滴の発生、漏油のメカニズム(図II-8.32 参照)を解明することができた。
更に、(1)、(2)項で述べたオイルフェンスのドレッヂ法、誘導法、錨によるオイルフェンスの固定法、展張方法の検証等・・・の試験・研究が行なわれ、問題点の解明や各種油防除資機材が開発され、多くの成果を挙げた。
1)各型オイルフェンスの寸法等と海象条件による漏油速度を表II-8.9に示す。
表II-8.9 各型オイルフェンスの漏油発生速度(m/s)
形式 |
寸法等 全高(cm) 海面上の高さ(cm) 海面下の深さ(cm) |
平水中 |
波浪中 (波長m×波高m) |
風浪中 (風速m/s) |
備考 |
A |
50 20 30 |
0.40〜0.50 |
0.20 (3.0×0.15) |
0.20
(3) |
規格寸法 20cm以上 30cm以上 |
B |
70 30 40 |
0.26〜0.50 |
0.20〜0.40 (6.0×0.30) |
0.20
(5) |
規格寸法 30cm以上 40cm |
C |
100〜115 40〜約55 60〜60以上 |
0.50〜0.55 |
0.46〜0.50 (10×0.60) |
0.46〜0.50
(10) |
海洋油濁防止装置開発委員会で開発されたもの。 |
D |
|
0.60〜0.80 |
0.60〜0.65 (10×0.60) |
0.55〜0.60
(20) |
海洋油濁防止装置開発委員会で開発されたもの。 |
|
表中に示した漏油発生速度に範囲のある速度は以下の理由による。
a スカート深さが一定であっても、スカート下部に装備している重錘重量が異なると、スカート部のふかれ(水圧流による変形)状況が悪くなる。
このことはスカート下部に装備している重錘重量が重い程ふかれにくく、スカート下部の水深が深いことによる。
b オイルフェンスの形状や構造の違いによる影響
c オイルフェンスの種類による影響
例えば、表中のB型オイルフェンスの平水中では漏油発生速度が0.26m/s〜0.50m/sの範囲である。この低速度で漏油するオイルフェンスは衝立式で漏油の要因として浮体と浮体の間に縦渦が発生して油滴が生じることによる。渦の発生は浮体の形状、浮体の間隔等によるが、この現象はある一定速度のみでその前後の速度では発生しない。
2)各油種等による油滴の粒径
平水中試験における各油種等の油滴の粒径(表II-8.7 参照)は、次のとおりである。
(1)油種による油滴の粒径の大きさは、油粘度が高い程(No.1油、B重油相当潤滑油(30℃ 100cSt)>軽油>灯油)粒径が大きくなる傾向を示す。
(2)油滴の発生速度は、油に拘わらず0.35m/sで油滴の発生量は少ない。
(3)潮流(B型オイルフェンスで滞油した状態)による粒径の大きさは、潮流が速くなる程油滴の粒径は小さくなる。
イ 平水中で見ると
V=0.4m/s, No.1油:軽油:灯油=5mmφ:4mmφ:4mmφ
V=0.45m/s, No.1油:軽油:灯油=1〜3mmφ:1〜3mmφ:1〜3mmφ
V=0.5m/s, No.1油:軽油:灯油=1〜2mmφ:霧状1mm以下:同左
ロ 波浪中(波長6.0m×波高0.30m)
V=0.4m/s, No.1油:軽油:灯油=5mmφ:霧状1mmφ以下:同左
V=0.45m/s, No.1油:軽油:灯油=1〜2mmφ:霧状1mmφ以下:同左
V=0.5m/s, No.1油:軽油:灯油=1mmφ以下:霧状1mmφ以下:同左
ハ 風浪中(波長6.0m×波高0.30m、風速5m)
V=0.4m/s, No.1油:軽油:灯油=1〜2mmφ:霧状1mmφ以下:同左
で速度が速くなっても同じ粒径が発生した。
(4)オイルフェンスの展張訓練
オイルフェンスの展張訓練は、海上災害防止センター横須賀研修所の展張訓練で約13,000名の修了者がおり、また、各自治体、企業等の各種防災訓練に取り入れられ、展張技術のポテンシャルが高いことが挙げられる。
III 流出油の防除訓練に関するシミュレーション
III-1 概要
平成15年度「流出油事故対応のための一般資機材及び複合的な防除手法に関する調査研究」の一環として、実海域における流出油防除実験計画を策定するため、シミュレーションにより汚染面積等のほか、動員する人員・船舶・防除資機材等の動員規模について調査を行う必要がある。
そこで、既存の漂流・拡散シミュレーションを用いて異なる油種の流出油の漂流・拡散・風化状況等について調査を行うとともに、防除シミュレーションを用いて分散剤及びスキマーによる防除手法について調査を行い、実海域における実験規模を検討する資料を得るものとした。
なお、本章におけるシミュレーション計算は、シミュレーションソフトを所有する石油公団の了解を得て行った。
III-2 実施内容
1 諸条件及び計算項目
拡散シミュレーションの実施に必要となる諸条件及び計算項目は次のとおりである。
(1)諸条件
1)風データ 風速 0m/s, 5m/s, 10m/s
2)海流・潮流データ 吹送流
3)波浪データ 風条件で発生するそれぞれの波高
4)水温・気温 15℃
5)流出油種類 マリブライト原油、カフジ原油、C重油(3種1号)
6)流出油量 100kl, 500kl, 1,000kl
7)流出形態 瞬間流出
8)使用船舶、航空機データ
9)搭載資機材データ
上記条件を組み合わせた27ケースについて油流出後、次の経過時間毎(1, 3, 6, 9, 12, 24, 36, 48, 60, 72時間)に計算結果を出力した。 (2)計算項目
1)経過時間−拡散長さ(km)
2)経過時間−拡散幅(km)
3)経過時間−拡散面積(km2)(円周率π×(拡散幅)2)
4)経過時間−油層厚さ(mm)
5)経過時間−風化状態(動粘性(cSt)、含水率(%)、比重(g/cm3))
6)経過時間−油量(kl)
7)経過時間−蒸発量(kl)
2 スキマーによる回収防除シミュレーションの諸条件
次に記す(1)の拡散条件を組合せ、それぞれのケースにおいて油流出後任意の時間経過後に(2)の防除措置条件により計算した。
なお、流出油の種類はカフジ重質原油とC重油(3種1号)の2種とした。
(1)拡散条件
1)流出油種類 重質原油(カフジ)、C重油(3種1号)
2)流出形態 瞬間流出
3)流出油量 100kl, 500kl, 1,000kl
4)気象、海象条件
風速:0m/s, 5m/s, 10m/s
波:上記の風条件でそれぞれ発生する波
海潮流:吹送流を考慮する
5)水温、気温 各15℃
(2)防除措置条件
船舶(集油フェンス及びスキマー)による物理的回収とした。
1)スキマー種類 フォイレックスTDS-250
2)使用台数 1台
3)掃海幅 12m
4)掃海速度 1knot
5)掃海対象油層厚さ 0.1mm以上
6)掃海開始時刻 油流出時から1時間後
7)掃海終了時刻 次のいずれかの場合に終了する。
流出油全量回収時
油流出後72時間経過後
油層厚さ0.09mm以下となった時
8)夜間の回収 夕方17時から朝7時の間は防除作業は行わない
9)油回収タンク 容量を考慮しない
(3)計算項目
1)経過時間−拡散幅(km)
2)経過時間−拡散面積(km2)
3)経過時間−回収量(kl/5min)−総回収量(kl)
4)経過時間−海上の残存油量(kl)
3 分散剤防除シミュレーションの実施
次に記す(1)の拡散条件を組合せ、それぞれのケースにおいて油流出後任意の時間経過後に(2)の防除措置条件により計算した。(全18ケース)
防除結果として、分散剤による流出油の総分散量を出力した。
(1)拡散条件
スキマーによる回収防除シミュレーションの拡散条件に同じ。
(2)防除措置条件
回転翼航空機による自己撹拌型油分散剤(S-7)散布による分散処理とした。
1)使用機体数1機
2)散布幅 11m
3)散布速度 20knots
4)油分散剤種類 自己撹拌型(S-7)
5)対油散布率 原油2%
6)散布量 油層厚 0.2mmの場合 27l/min
1.0mmの場合 136l/min
2.0mmの場合 272l/min
7)薬液タンク量 400l/回
8)散布対象油層厚さ 0.2mm(100kl流出時)
1.0mm(500kl流出時)
2.0mm(1,000kl流出時)
9)散布開始時刻 油流出時から24時間後
10)散布終了時刻 次のいずれかの場合に終了する。
流出油全量分散処理時
油流出後72時間経過後
油層厚さ0.05mm以下となった時
11)夜間の散布(飛行) 夕方17時から朝7時の間は防除作業は行わない
(3)計算項目
1)経過時間−拡散幅(km)
2)経過時間−拡散面積(km2)
3)経過時間−分散量(kl/5min)−総分散量(kl)
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