(2)走錨状態における錨の把駐係数
(1)において示した錨の索長の場合の錨の走錨状態における各型式の錨の把駐係数を海底土質に対して示すと次のとおりである。ただし、把駐係数は、索の上端の張力を錨とチェーンとの合計重量で割った値である。
錨の型式 |
海底土質 |
砂 |
泥 |
25kgダンホース型 |
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チェーンなし |
1.2 |
2.0 |
チェーンつき |
1.0 |
0.9 |
15kgダンホース型 |
|
|
チェーンなし |
- |
2.9 |
チェーンつき |
- |
2.9 |
ストック型 |
2.6 |
2.6 |
四叉型 |
3.3 |
3.2 |
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2)水槽実験
実際に使用するオイルフェンスを用いた平水中及び波浪中曳航実験を行い、オイルフェンスの潮流力及び波浪と潮流とが重ね合わさった場合の潮流力が解明された。その結果は、オイルフェンスの展張幅と張力との関係で図II-8.29に示した。
この図を用いて、錨の型式による張力の値を求めて、その値で横線を引き、流速毎の線との交点を求め、この交点を下に降ろし、オイルフェンスの展張幅との交点が錨1対で支えられることができるオイルフェンスの展張幅である。
3)オイルフェンス+錨の海上実験
オイルフェンス+錨の海上実験の成果は、実験当日の潮流速が予想に反して低かったとはいえ、25kgダンホース型錨に19mmφのチェーンを2m取付け、オイルフェンスの長さ100mの両端で索長を水深の4倍の長さにて係留すれば潮流速0.4m/s(0.78knot)までは完全に係留できることが分かった。
5 各型オイルフェンスの滞油性能4)−シップ・アンド・オーシャン財団
我が国で市販されているオイルフェンスはA型、B型、C型及びD型の4種と原油タンカーの揚荷時に用いられる浮沈式オイルフェンスがあり、それぞれ浮体部とスカート部の寸法が異なる。この寸法の違いにより適用海域が定まり、A型及びB型は、平穏海域である東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の内湾用に専ら使用される。
一方、C型及びD型は運輸省船舶局内に設置された「海洋油濁防止装置開発委員会」により設置された外洋向けオイルフェンスで一定の気象・海象条件の中で滞油性能及び耐用限界が示されている。
このことから、第10基準研究部会(RR10)、委員長 元良誠三(当時東京大学)、委員会では型式承認品であるA型及びB型オイルフェンスの滞油性能を調査研究することとなり、C型及びD型の試験条件を参考に内湾用のA型及びB型の試験条件を表II-8.4に示す気象・海象とした。
表II-8.4 各型オイルフェンスの試験条件
なお、試験油はB重油相当の潤滑油で、散布油量はいずれも0.547m3である。
滞油性能試験は、現シップ・アンド・オーシャン財団、筑波研究所の角水槽及び回流水槽施設で実施された。角水槽ではオイルフェンスのカテナリ形状による滞油性能試験を、回流水槽ではプロトタイプによる滞油性能試験が行なわれた。
各施設の概略を図II-8.30及び図II-8.31に示す。
本調査はプロトタイプによる回流水槽の滞油性能試験結果を中心にまとめたものである。
(1) |
水槽 |
(5) |
計測台車 |
(9) |
モノレール・ホイスト |
(2) |
造波機 |
(6) |
ウインチ室 |
(10) |
小型回流水槽室 |
(3) |
消波板 |
(7) |
機械室 |
(11) |
計器試験室 |
(4) |
気泡発生管 |
(8) |
洗浄ビット |
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(単位:m) |
図II-8.31 回流水槽施設
(1) |
計測水路 |
(5) |
軸流ポンプ |
(9) |
機械室 |
(2) |
回流水路 |
(6) |
計測台車 |
(10) |
洗浄ピット |
(3) |
造波機 |
(7) |
送風台車 |
(11) |
モノレール・ホイスト |
(4) |
消波板 |
(8) |
表面流および油散布用台車 |
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(単位:m) |
(1)漏油のメカニズム
1)単独展張オイルフェンスの滞油・漏油のメカニズム
回流水槽における滞油性能試験時の概略図、漏洩状況に関する用語の定義及び観察されたオイルフェンス前面等の油の挙動を図II-8.32に示す。
流速が遅いと図II-8.32に示した(1)先頭波、(5)界面波及び(2)渦等の発達は小さくかつ油滴の発生はない。流速が速くなるに従い上記の先頭波、界面波及び渦が次第に発達する。
油漏れは、(1)先頭波及びフェンス前面界面波から発生する。
(1)先頭波の油漏れは、流速が遅いと大部分が先頭波後方の油層中に浮上するが、流速が速くなると(6)主水流により、スカート下部を通過して漏油する。
フェンス前面界面波の油漏れは、オイルフェンスの形状によって(3)反転流の速さが異なるが、この反転流によって発生する。反転流は、流速が速くなる程、速くなり又大きな孤を画くようになる。
(1)先頭波からの油漏発生速度は、軽重油問わず0.4m/s〜0.45m/sの範囲である。オイルフェンス後面(下流側)の水の流れは、スカート下部の深さが深くなる程(7)死水域(オイルフェンス後面の深さの流場)が長くなる。
また、スカート下部の深さが一定の時、流速が速くなる程、死水域は長くなる。
図II-8.32 単独展張オイルフェンスの滞油・漏油メカニズム
2)二重展張オイルフェンスの漏油メカニズム
二重展張オイルフェンスの展張概略を図II-8.33に示す。
流速が速くなると一次フェンスのスカート下部が図に示すように喫水が浅くなり、1)項で述べた現象により漏油する。漏れた油は、一次フェンス後方の水の乱れ(死水域)により一次フェンスと二次フェンスの間に浮上し滞油する。
浮上した油は死水域の逆流によって一次フェンスの後面に輸送され、大部分が滞油する。
一次フェンス後面の滞留した油は波浪に乱されにくく、また一次フェンス浮体部によって風による影響が少なく油層は安定する。流速が速くなると油滴の浮上速度より主流で運ばれる速度が速いため二次フェンスの下部を通過し漏油する。
このことは二重展張といえど完全に滞油することができず、限界滞油速度を有していることとなる。
本展張方法は、使用するオイルフェンスのスカート深さにより一次〜二次フェンスの距離が異なること、また、スカート深さが深い程限界漏油速度が高速側に移行し、単独展張より滞油性能の効果が高いことが挙げられる。
図II-8.33 二重展張オイルフェンスの滞油メカニズム(B型オイルフェンス)
(2)各型オイルフェンス(異なるスカート深さ)の滞油性能
各滞油性能試験の結果及び他の文献等の結果をまとめて表II-8.5に示す。
表II-8.5 各型オイルフェンスの漏油発生速度(m/s)
形式 |
寸法等 全高(cm) 海面上の高さ(cm) 海面下の深さ(cm) |
平水中 |
波浪中 (波長m×波高m) |
風浪中 (風速m/s) |
備考 |
A |
50 20 30 |
0.40〜0.50 |
0.20 (3.0×0.15) |
0.20
(3) |
規格寸法 20cm以上 30cm以上 |
B |
70 30 40 |
0.26〜0.50 |
0.20〜0.40 (6.0×0.30) |
0.20
(5) |
規格寸法 30cm以上 40cm |
C |
100〜115 40〜約55 60〜60以上 |
0.50〜0.55 |
0.46〜0.50 (10×0.60) |
0.46〜0.50
(10) |
海洋油濁防止装置開発委員会で開発されたもの。 |
D |
|
0.60〜0.80 |
0.60〜0.65 (10×0.60) |
0.55〜0.60
(20) |
海洋油濁防止装置開発委員会で開発されたもの。 |
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表中に示した漏油発生速度に範囲のある速度は、以下の理由による。
a スカート深さが一定であっても、スカート下部に装備している重錘重量が異なると、スカート部のふかれ(水圧流による変形)状況が悪くなる。このことはスカート下部に装備している重錘重量が重い程ふかれにくく、スカート下部の水深が深いことによる。
b オイルフェンスの形状や構造の違いによる影響
c オイルフェンスの種類による影響
例えば表中のB型オイルフェンスの平水中では、漏油発生速度が0.26m/s〜0.50m/sの範囲である。この低速度で漏油するオイルフェンスは衝立式で漏油の要因として浮体と浮体の間に縦渦が発生して油滴が生じることによる。
渦の発生は浮体の形状、浮体の間隔等によるがこの現象はある一定速度のみでその前後の速度では発生しない。
引用文献
4)月野良久「各型オイルフェンスの滞油性能」未発表
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