日本財団 図書館


III-3 拡散シミュレーションの計算結果
1 計算条件
(1)計算時間とパーティクル数
 拡散シミュレーションは、全ての計算時間間隔を5分とし、2003年11月1日午前8時から72時間後(開始時間の指定は作業時間の制限、流況状況等に関連する事項)まで行った。
 なお、パーティクル分割数を1,000個とした。
(2)油種の成分分割(Rasmussen)
 風化原油に用いているRasmussenの油の構成要素を表III-3.1のように6種に分けている。
 
表III-3.1 油の構成要素(Rasmussen)
成分 沸点範囲(℃)
C1〜C5(アルカン) <65
C6〜C13(アルカン) 65〜250
C14〜C23(アルカン) 250〜350
C6〜C11(アロマ) 65〜250
C12〜C18(アロマ) 250〜350
その他 >350
 
2 計算項目の定義と計算結果
 拡散シミュレーションの計算項目は次の定義により算出した。
(1)拡散長さ(km)
 風速を0m/sに設定したケースでは、常に流出油の重心は、ほぼ流出地点にある。
 しかし、風速が5m/s、10m/sのケースでは、流出油の重心は時間とともに風下へ漂流する。そこで、拡散長さを、流出地点(x0、y0)と流出油の重心(xc、yc)の間の距離で定義した。流出油の重心は、以下の式で求めた。
 計算結果を図III-3.1に示す。
 拡散長さは、油種及び流出油量による違いはないため、マリブライト100kl流出のケースの結果を示した。
 
図III-3.1 拡散長さ(マリブライト, 100kl流出)
 
(2)拡散幅(km)
 各油粒子は、流出油の重心を中心として円形に分布する。シミュレータでは、この流出油の重心からの分散が、Fayの式や海域の渦動拡散による式に等しいと考えている。図III-3.2に拡散幅の定義を模式図で示した。
 拡散幅は、油膜存在範囲と同等である。
 
図III-3.2 拡散幅の定義(模式図)
 
 具体的には、以下の式で求めた。
 拡散幅の計算結果を図III-3.3abc〜図III-3.5に示す。
 C重油は100%性状変化しない成分として設定しているため、風による拡散幅の変化がないので、0m/sのケースの結果を示した。計算の結果、性状変化がなく最も粘性の高いC重油が、最も遅く拡散していくことがわかった。
 流出量や油種によって違いがあるが、流出の12時間後から36時間後までにFayの式で算出される拡散から、海域の渦動拡散による分散へ変わっていくことが分かった。
 
(3)拡散面積(円周率π×(拡散幅)2)(km2
 拡散面積は、拡散幅を半径とする円の面積として計算した。従って、拡散面積は流出油の存在範囲と考えることができる。
 拡散面積の計算結果を図III-3.6abc〜図III-3.8に示す。
 拡散幅と同様に、C重油は風による拡散幅の変化がないため、0m/sのケースの結果を示した。
 なお、ケース14、北風5m/sでカフジ原油が500kl流出した時の拡散の様子を図III-3.7d及び3.7eに示す。
(4)油層厚さ(mm)
 シミュレータでは、油層厚さは、25mメッシュの油膜メッシュ上に存在する各油粒子の体積から換算される。そこで、油粒子の存在する全油膜メッシュの油層厚さを平均した値を代表値として算出した。
 なお、ここでの油層厚さは、油の性状変化で取り込んだ海水も含んだ体積を使用した。計算結果を図III-3.9abc〜図III-3.11abcに示した。
 拡散幅の増加により、流出後24時間程度までは急激に油層厚さが減少するが、その後は含水率の増加とともに油層厚さが増加し、一定の厚さへと到達することが分かった。
(5)風化状態(動粘性(cSt)、含水率(%)、比重(g/cm3))
 油の性状変化の計算の結果、動粘性を図III-3.12abcに、含水率を図III-3.13abcに、比重を図III-3.14abcに示す。
 これらの油の風化状態を示す物性値は、流出油量に依らないため、100kl流出のケースで示した。また、比重は、油層厚さと同様に、海水分を含む比重で示した。シミュレータでは、風が0m/sの時は蒸発がおこらず、海水との撹拌による乳化も緩やかに進行するため、動粘性、含水率、比重は緩やかに増加するが、風が5m/s、10m/sの時は、蒸発による油の性状変化や海水との撹拌によって、急激に動粘性、含水率、比重が増加することがわかった。
 また、昼間は油膜温度の上昇に伴い、動粘性の減少が見られた。
(6)油量(kl)
 瞬間流出した流出油は、海水を取り込みながら体積が大きくなっていく一方、揮発成分が蒸発していくことにより体積が小さくなっていく。
 海水を含んだ油量の結果を図III-3.15abc〜図III-3.17abcに示した。
(7)蒸発量(kl)
 C重油は蒸発しない1成分のみで構成されると仮定したため、蒸発量は0である。また、シミュレータでは、蒸発量を計算するのに必要な物質移動係数を、Mackay&Matsugu(1973)及びPayne等(1984)によるモデル化で求めているが、風が0m/sの時に物質移動係数は0となる。
 そこで、風が5m/s及び10m/sの時のマリブライト及びカフジの蒸発量を、図III-3.18ab及び図III-3.19abに示した。
 その結果、流出から約6時間後までに急速に蒸発が進むことがわかった。
 
3 拡散シミュレーションの成果と今後の課題
 拡散シミュレーション結果をまとめると次のことが言える。
 
(1)拡散長さ(流出地点と移流した流出油の重心との距離)
 今年度の流出油の拡散シミュレーションを計算する入力データのうち流況予測サブモデル(図II-2.1 油拡散漂流予測モデルの概要 参照)に関する潮流及び海流については、シミュレーション海域を設定しなければ入力データが得られないことから、潮流及び海流は0として吹送流のみとした。
 なお、吹送流は風速の3%を採用した。
 この結果、拡散長さは油種及び流出量による差はなく、風速による差(図III-3.1参照)のみとなった。拡散長さは、当然のことながら経過時間とともに比例して長くなる。
[今後の課題]
 流況予測サブモデルの潮流は、4分潮の調和定数から構成されており、1日における潮汐流としての干満が再現されるソフトとなっている。
 次年度は、この潮流、海流、吹送流等を組み合わせて複雑な海況の流れの中で流出油の拡散、漂流、風化シミュレーションを実施して、実海域を模擬した予測を把握することとした。
(2)拡散幅
 採用したFayの拡散式(第II章モデリングの調査研究 参照)は、力の平衡解析に基づいて次元解析を行い油の拡散モデルを作成している。
 すなわち、静穏な水面上に瞬間的に放出した油は、時間の経過とともに
1 重力−慣性力
2 重力−粘性力
3 表面張力−粘性力
4 拡散の停止
の3つの過程を通じて拡散していく。
 拡散幅の計算結果(図III-3.3〜3.5)を見ると、流出開始からある時間までは急激な傾斜をもって拡散幅が広がっていくが、その後の拡散幅は緩やかな傾斜で広がっている。これは前者がFayの拡散式による拡散で後者は海域の影響による拡散と変わっていくことが分かる。
 計算結果によると、流出油量や油種によって拡散幅が異なるが、流出の約6時間後から36時間の間がFayの式で算出された拡散幅である。
[今後の課題]
 (1)項で述べた潮汐流の影響を含めた海況中における拡散幅を把握して防除シミュレーションに反映させる予定である。
(3)拡散面積
 Fayの拡散式によると、拡散面積は流出油量が多いほど拡散面積時間が長くなり、かつ面積も広くなる。また、風速の有無による拡散面積は風速が速くなるほど面積は小さくなり、かつ拡散面積時間が短くなる結果となった。
 これは、後述する流出油の風化現象の蒸発量が風の強弱により蒸発の多寡が影響し、流出油の体積が減少することによる。
[今後の課題]
 (2)項で述べたように、潮・海流及び吹送流の複雑な海況での拡散面積を把握して防除シミュレーションの防除手法に反映させる。
(4)油層厚さ
 上述した拡散幅や拡散面積の変化により、油層厚さも連動して変化する。これは、流出後約24時間以内に拡散面積が広がること、また、軽質油分が蒸発することにより油層厚さが減少するが、その後は流出油に水が入り込み、油量の体積が増加するとともに油層厚さが増し、含水量が一定になることにより、油層厚さが一定となることが分かった。
(5)流出油の物性(動粘度、含水率、比重)
 マリブライト軽質原油及びカフジ重質原油の風化の物性値は、流出油量の多寡に関係ないことが分かった。シミュレータ計算では、風が0m/sの時は蒸発はおこらず、海水との撹拌による乳化も緩やかに進行するため、動粘性、含水率、比重は緩やかに増加する。風速が5m/s、10m/sの時は、蒸発による油の性状変化や海水との撹拌によって、急激に動粘性、含水率、比重が増加することが分かった。また、昼間は油膜温度の上昇に伴い、動粘性の減少が見られた。
(6)油量(kl)
 瞬間流出した流出油は、揮発成分が蒸発していくことにより体積が小さくなっていく一方、ある経過時間後、海水を取り込みながら体積が大きくなっていく。海水を含んだ油量の結果を図III-3.15abc〜3.17abcに示した。
(7)蒸発量(kl)
 C重油は蒸発しない1成分のみで構成されると仮定したため、蒸発量は0である。
 また、シミュレータでは、蒸発量を計算するのに必要な物質移動係数を、Mackay & Matsugu(1973)及びPayne等(1984)によるモデル化で求めているが、風が0m/sの時に物質移動係数は0となる。そこで、風速が5m/s、10m/sの時のマリブライト及びカフジの蒸発量は、流出から約6時間後までに急速に蒸発が進むことが分かった。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION