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(3)漏油の発生速度
1)平水中
 流速が大きくなると油層下面の油と水の界面に界面波が生じて凹凸を生じるようになる。更に高速になると波動の振幅が大きくなり、先頭波の波頂部分から油滴が生じ、水中に放出される。この油滴は浮力で浮上するが、浮上速度が小さいので流速が大きいと主流に運ばれフェンス下部を通過し漏油するようになる。(図II-8.32参照
 また、フェンス前面に滞油した油層の形状はフェンス深さが変わってもほとんど影響されないことが実験等によって判明している。
 現有のA型、B型及びC型オイルフェンスの漏油速度は0.5m/s前後で、平水中ではほとんど差異がない。このことは上述したように、オイルフェンス深さが約60cm以内であれば油層の形状は変わらず、油滴の発生速度も同じであることから、ほぼ同速度で主流に運ばれて漏油することとなる。
 D型オイルフェンスも油滴の発生速度は上述と同じであるが、他の型よりスカート深さが深い分漏油速度が高速度側になっている。
 なお、カテナリ形状で曳航しても上記と同じ現象であるが、高速になるとカテナリ形状の中央部のスカート部分が水面近くに浮上し、フェンス前面に滞留した油は帯状になって漏油する。
 1989年3月24日午前0時のエクソン・バルディーズ号の事故時のオイルフェンスによる流出油の集油状況(曳航速度が速くオイルフェンスの後端部より帯状漏油している)を写真II-8.4に示す。
 
写真II-8.4 オイルフェンスによる流出油の集油状況
 
2)波浪中
 表II-8.4に示したとおり、各型オイルフェンスの波浪条件は適用海域及びフェンスの大きさにより変えている。このため、同一波浪条件による各型オイルフェンスの比較はできないが、表II-8.5に示すとおりA型及びB型は比較的低速度で漏油が発生している。
 このことは、両オイルフェンスとも比較的スカート深さが短いこと、また、重錘重量が軽いことから、波の上下動によりスカートの挙動が大きいことが挙げられる。
 スカートの挙動は、潮流によるふかれで若干スカート下部が下流側に位置した状態となる。波頂時は比較的安定しているが、この波頂時から波低時に至るスカート下部の重錘は、スカートの煽りを受けて波の動きより若干遅れて運動する。このため、スカート部の喫水が平水中と比べ浅くなること、また、スカートの煽りによる油滴の発生源ともなり、平水中と比べ低速度で漏油する要因となっている。
 C型及びD型オイルフェンスは、上述の両フェンスによりスカート深さが長くかつ、スカート重量及び重錘重量が重いことから漏油速度が高速側に移行しているが、上述したスカート喫水が浅くなること、また、発生した油滴が波動により水中深く浮遊することで平水中より滞油性能が悪くなる。
3)風浪中
 潮流+波浪に風が加わると滞留した油層長さは風圧流により短くなる。油層が短くなることは油滴の発生が同一速度であることから、油滴の浮上する距離が短くなることとなり、平水中及び波浪中の滞油性能と比べ更に滞油性能が低下することとなる。
 
 各型オイルフェンスの漏油発生速度や漏油の要因等を述べたが、オイルフェンスの滞油性能は海象条件によって低い性能であることから、オイルフェンスの使用にあたっては、海象状況や潮流速度を調査すること、また、波浪の影響が少ない海域で使用する必要がある。
 悪い例としては、日本海で発生したナホトカ号事故で多量のオイルフェンスを使用したが、荒れた海では何の役にも立たず、単なる粗大ゴミと化し多額の処分費用が請求されている。
 
(4)油種による滞油性能と油層厚さ
 前項の各型オイルフェンスの滞油性能試験では、No.1試験油(B重油相当潤滑油)を使用して性能を調査した結果、オイルフェンスの型式が異なってもほぼ同じ油層の形状でかつ油層長さ及び油層厚さが同じであった。
 このことから、第10基準研究部会では、「軽質油に対するオイルフェンスの滞油性能に関する調査研究」にB型の固形式及び衝立式オイルフェンスを使用して、灯油及び軽油に対する性能について調査している。
 本項では、使用実績が圧倒的に多い固形式を対象として調査結果の一部を抜粋してまとめた。供試オイルフェンスは、固形式オイルフェンスである。
1)供試油
 試験に用いた軽質油は、JISK2203 1号(燈火用及び暖厨房用燃料)の灯油及びJISK2204 1号の軽油で比較用にNo.1試験油(B重油相当潤滑油)の性状を表II-8.6に示す。
 なお、試験油の散布量は、回流水槽施設内での第二石油類(灯油、軽油等)の取扱い量が0.5m3未満と消防法により規制されているため、その最大量の0.5m3とした。
 
表II-8.6 試験油の性状等
※タービン油の抗乳化性試験法に基づいて調査した結果であるが、灯油及び軽油とも乳化層がなく、分離時間も極めて早かった。
 
2)各油種による油層長さ、油層厚さ及び油滴の粒径
 平水中試験における各油種の滞油等の状況は、次のとおりである。
(1)油層長さ
 平水中における各油種の油層長さを図II-8.34に示す。
 水槽側壁における油層長さ(l1)と水槽中央の油層長さ(l2)とは異なるので、ここでは両者の平均油層長さを油層長さとした。油種にかかわらず潮流のみの場合が一番長く、それに波浪を加えた場合が次に長く、更に風を加えた場合が一番短い。
 また、試験条件にかかわらず灯油、軽油、No.1 試験油の順に油層長さが短くなる。
(2)油層厚さ
 平水中における各油種の油層厚さを図II-8.34に示す。
 図によれば粘度が高い程油層が厚くなる傾向を示すが、軽油及び灯油の厚さの差は数mm程度で灯油が薄い。このことは油層長さや厚さは表面張力が小さい程拡散し易い性質があることによる。
 オイルフェンス等でせき止められた油は、この拡散力と潮流との関係から長さや厚さが求まることとなる。
 
図II-8.34 各油種の油層長さと油層厚さ
 
(3)各油種における油滴の径
 各油種における先頭波頂部(図II-8.32参照)からの油滴の径を目視により計測した。計測した結果を表II-8.7に示す。
 
表II-8.7 油種による油滴の粒径
試験条件 対水速度
(m/s)
固形式B型オイルフェンス
No.1 油 軽油 灯油
潮流 0.30
0.40
0.45

0.50
       −
5mmφ
1〜3mmφ
油滴水20mmφ
1〜2mmφ
       −
4mm
1〜3mm
油滴水
1〜3mm
霧状1mm以下
       −
4mm
1〜3mm
油滴水15mm
1〜2mm
1mm以下
波浪


波長:6m
波高:0.3m
0.30

0.40

0.45
0.50
       −

5mmφ

1〜2mmφ
1mm以下
フェンス前面
1〜3mm
フェンス前面
霧状1mm以下
霧状1mm以下
       〃
       −

霧状1mm以下

       〃
       〃
風浪

風速:5m/s
波長:6m
波高:0.3m
0.30
0.40

0.45
0.50
       −
1〜2mmφ
1mm以下
       〃
       〃

霧状1mm以下

       〃
       〃
       −
霧状1mm以下

       〃
       〃
 
 上表によると、流速が速くなる程粒径は小さくなる。油種別に見ると粘度が高い油程、粒径が大きい。また、風浪中の高速になると粒径は更に小さくなり水中は霧状の固まりが波浪の上下動とともに動いている。
 
(4)漏油速度
 各油種による漏油速度を表II-8.8に示す。
 
表II-8.8 各油種による漏油速度(m/s)
 
 前表によると平水中のNo.1 油は灯油及び軽油より早く漏油が発生している。このことは上述の(1)項及び(2)項で述べた油層長さ等との関係で油層長さが短いと漏油する速度が低速側になる。
 波浪中及び風浪中では(3)項で述べた油滴の発生速度が油種が異なっても同一速度であることから漏油は同一速度である。
 
6 オイルフェンスの展張訓練
 海上災害防止センター防災訓練所では、昭和51年に前身の(財)海上防災センターの船舶乗組員訓練のカリキュラムにオイルフェンスの展張訓練が組み込まれ、机上訓練及び海上実技訓練が実施されている。
 現在では、訓練コースが6種類に増えた中で、次のコースに上述の1〜5の調査研究の内容等を取り入れた机上訓練とともに、オイルフェンス展張訓練が組み込まれている。
(1)STCW条約(International Convention on Standards of Training Certification and Watch Keeping)は、船員の訓練、資格証明及び当直維持に関する条約で、当防災訓練所の標準コースに取り入れている。
(2)海洋汚染対応コース
 IMO流出油防除訓練カリキュラム・レベル1及び2に準拠した訓練コースに取り入れている。
(3)日本財団の助成事業による油防除訓練
 日本財団による油防除訓練の助成事業は、昭和55年から平成11年の20年間に北は稚内から南は沖縄までの全国134地区で海上防災訓練を実施してきた。
 また、平成12年から大規模流出油事故に際して、核となる人材の育成を図るため横須賀研修所で年間36名の契防者に訓練を実施するとともに、地域における海上防災能力の向上を図るため、毎年5地区で巡回研修を実施している。
 日本財団の助成事業による海上防災の訓練者は、海上災害防止センターと契約防災措置実施者(事業者数159)と排出油・有害液体物質等防除措置契約を結んでいる防災事業者の作業員を対象としている。これらの事業者は、港湾運送、港湾土木、曳船等を本業とする業者で海上防災事業を専業とする業者は極めて少なく、海上防災の経験が乏しい作業員が多い。
 このことから、海上災害防止センターは契約防災措置実施者に対して防除作業が迅速、的確に実施できるよう、各現地において実態に即した防除訓練を実施してきた。
 この他に、有害液体物質等の取扱い量の多い横浜、四日市、神戸、水島、宇部の5地区に有害液体物質等防除作業出動資機材を配備し、排出有害液体物質等防除訓練を昭和62年、63年の両年にわたって5地区で実施した。
 上記5地区については、引き続き自主事業として毎年資機材の保管を依頼している会社に出動機材の慣熟訓練を実施している。
 以上が日本財団の助成事業として実施してきた概要であるが、この防除訓練の中にもオイルフェンスに関するカリキュラムが組み込まれている。
(4)その他個別の委託コース
 エネルギー関連の企業が防除訓練コースを受けている。







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