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4. バリアフリー化の現状と問題点
 ここでは、瀬戸内町の交通網と外出行動の特徴を踏まえ、加計呂麻島の島内各地から町内の中心地である古仁屋(奄美大島)への外出と、瀬戸内町内各地から鹿児島市内への外出を例として、その外出行程に即して、バリアフリー化の現状と問題点を整理する。
 
(1)加計呂麻島〜古仁屋(瀬相〜古仁屋〜生間航路)
(1)加計呂麻島における陸上アクセス
■瀬相港・生間港では、すべてのフェリーとバスが接続
 加計呂麻島の瀬相港、生間港では、船の発着時間に合わせて港と各集落を結ぶバスが運行され、全便でダイヤ接続が図られている。島内はすべてフリー乗降となっており、乗客は希望する場所で乗降できる。
 
フェリーの入港時間帯にはバスが港で待機している
 
■バス車両の低床化される以前の中古車を使用
 バス車両は中古車が使用されており、ノンステップバスが普及する以前の車両である。リフト設置等のバリアフリー化対応には、車両の改造が必要となるが、費用面からみて非常に困難である。また、道路によっては床をこする部分があるため、低床車両の導入には島内の道路を一部整備する必要がある。
 
路線バスの昇降口
 
■昇降口の段差を少なくする踏み台の配備
 バスの昇降口のステップが高く、高齢者等が乗り降りしにくい場合があるため、各車両には「踏み台」状のブロックを積んでおり、昇降口の段差を少なくする対応を行っている。
 
■乗客への介助を充実するよう社員に教育
 ハード面でのバリアフリー対応には制約が大きいことから、人的な介助を中心として、乗客へのソフト面のバリアフリー対応を重視している。バス運転手と乗客が顔なじみで、運転手は乗客の体のどこが悪いかということをよくわかっているため、必要な介助ができる。また通院日を知っているので、バスに乗ってくることを予測できる。高齢者の荷物を運ぶ、運転手が乗客の手を引くなど乗降時の介助等の対応を行っているほか、車いす使用者や足の不自由な人がフェリーに乗降する際は、その乗降も手伝っている。
 
(2)加計呂麻島の港のターミナル
■生間港の待合所には身障者用トイレを設置
 1994年に生間港にフェリーが寄港するようになり、前年の1995年に生間港に待合所が新設された。待合所は平屋建てで上下移動はなく、身障者用トイレの設置、車いすの配備がなされている。ただし、現地踏査時には、身障者用トイレに自転車が置かれていた。
 
生間港待合所の身障者用トイレ
 
■瀬相港の待合所はバリアフリー化未対応だが、新設計画あり
 現在の瀬相港の待合所は、入口に段差があることや、身障者用トイレが設置されていないことなど、バリアフリー化に未対応であるが、周辺の道路整備に併せて待合所を新設する計画がある。新しい待合所は入口の段差を解消し、車いすでも簡単に乗り入れできるなど、バリアフリー化された施設となる予定である。
 
瀬相港の待合所。入口に段差がある
 
身障者用トイレは設置されていない
 
(3)乗下船
■上下移動はないが、車いす使用者単独の乗下船は困難
 「フェリーかけろま」はランプウェイからの乗下船となり、階段による上下移動はない。ただし、車いすでフェリーに乗降する際、岸壁とランプウェイの継ぎ目部分を通過するのにかなりの力を必要とするため、介助者が必要となる。また、ランプウェイ床面の車両用滑り止めも障害となるが、これは車いすの通行を考慮して一部滑り止めをとるという改造を加えてある。
 
ランプウェイによる乗下船
 
■車両甲板と船室間の出入口の段差解消
 車両甲板から船室内への出入口にある段差については、取り外し可能なスロープを配備して必要な時に取り付けることによって、段差を解消するという対応を行っている。
 
(4)船内
■出入口と同フロアに「シルバー室」を設置
 高齢者等が階段を上り下りしなくていいように1階に「シルバー室」が設置されている。フェリーでは通常、出入口から客室までの移動で階段を使用しなくてはならないので、高齢者等が2階に上がらなくていいよう設計の段階で設置することを決めていた。
 
■「シルバー室」出入口の段差・幅と狭隘さ
 シルバー室の出入口は、段差があることや車いすが通れるだけの幅が確保されていないことから、車いす使用者は車いすから降りないと室内に入ることができない。扉は引き戸であるが、重く開けにくいため、出入りしにくい。船内はいす席部分と畳敷きの部分に分かれているが、スペースの関係上、いす席部分は3人が座れる程度である。
 船内通路には冷暖房がないため、特に夏・冬には、車いす利用者は車いすごと乗れる福祉車両ごと乗ることとなり、自動車の航送料金が軽自動車でも往復5,810円、ワゴンタイプだと12,600円もかかることになる。
 
シルバー室出入口の段差
 
幅が十分に確保されていない
シルバー室出入口
 
■身障者用トイレ・洋式トイレの未設置
 船内のトイレは和式トイレのみで、身障者用トイレや洋式トイレは設置されていない。
 
(5)古仁屋港のターミナル
■古仁屋港の待合所は2006年に新設予定
 現在の古仁屋港(瀬相〜古仁屋〜生間航路、与路〜古仁屋航路)の待合所は入口に段差があることや、待合所内が狭いことから、車いす使用者等の利用は困難である。
 現在、古仁屋港の港湾整備に合わせて、2006年度を目標に町の事業でターミナルビルの新設が計画されている。待合所のほか、島外からの観光客等と町民の交流拠点との複合施設として、バリアフリー化された施設となる予定である。
 その際、現在は分散している各航路の発着場所も集約化される。
 
古仁屋港待合所の入口段差
 
(6)古仁屋における陸上アクセス
■市街地のバリアフリー化は整備途上、バスの低床車両なし
 古仁屋の市街地は港と近接しているため、徒歩での移動が可能である。市街地の主要道路の歩道には以前ガードレールがついていたが、県の事業でガードレールを撤去し、歩道と車道をなだらかな段差と色分けによって区別するようにしたため、歩きやすくなっている。ただし、狭い道路ではできていない。
 また、奄美交通の路線バス及び代替バスは、古仁屋営業所が瀬戸内町内のターミナルとなっているが、一部路線は古仁屋港前まで乗り入れている。ただし、定期航路の発着場とバス停は若干離れている。バス車両は加計呂麻バスと同様に中古車であることから、低床車両は導入されていない。
 
(7)参考:バリアフリー化船「せとなみ」(与路〜古仁屋航路)
■リフターの設置により潮の干満による影響を解消
 「せとなみ」では、潮の干満による乗下船口と岸壁との段差を、リフターを設置することにより解消している。なお、車いす使用者等の使用時以外は、階段を使用している。
 
■車いすスペースの設置
 車いす使用者のために、1階客室の出入口近くに、車いすスペースを設け、車いすが固定できる設備を設置している。
 
■身障者用トイレの設置
 身障者用トイレが設置されており、ボタンを押すと開くタッチ式のドアが採り入れられている。トイレ入口には、トイレ内設備の触知板が表示されている。
 
乗下船時に使用するリフター
 
身障者用トイレのタッチ式ドア
 
トイレ内設備の触知板







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