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1. ケーススタディの概要
(1)対象地域の選定
(1)対象地域の選定
 鹿児島県における離島航路は、航路の起終点(区間)と船舶の種類・規模に基づき、以下の4類型に整理される。
・大型フェリー航路(本土〜外洋型離島)
・小型フェリー航路(本土〜近海型離島、離島相互間)
・高速船航路(高速船、超高速船)
・一般旅客船航路(本土〜近海型離島、離島相互間)
 ケーススタディでは、上記4類型のうち3類型の航路が就航し、1地域で多様な類型の検討が可能となる瀬戸内町(奄美大島の一部、加計呂麻島、与路島、請島の4島より構成)を対象地域に選定した。
 表6-1-1は、ケーススタディ対象航路を類型別に整理したものである。瀬戸内町の港湾に就航する航路は、鹿児島〜喜界〜知名航路、瀬相〜古仁屋〜生間航路、与路〜古仁屋航路の3航路である。鹿児島〜喜界〜知名航路の奄美大島の寄港地は、名瀬港と瀬戸内町の古仁屋港であるが、瀬戸内町から鹿児島市への船による移動においては、ダイヤの関係上、同航路よりも、名瀬港に寄港する鹿児島〜那覇航路(マリックスライン、大島運輸)が多く利用されていることから、上記3航路に鹿児島〜那覇航路を加え、計4航路を対象航路に選定した。与路〜古仁屋航路には、2002年の交通バリアフリー法施行後に建造された船舶(旅客船「せとなみ」)も就航している。
 ケーススタディにおいては、加計呂麻島(瀬相港、生間港)、奄美大島(古仁屋港、名瀬港)、鹿児島港(本港、新港)は現地を踏査し、港湾周辺のバリアフリー化の状況を調査した。また「フェリーかけろま」、「せとなみ」、「フェリーきかい」は乗船し、船内のバリアフリー化の状況を調査した。上記の港および船舶以外で本文内に記述のあるものは、原則としてヒアリングによる情報となっている。
 
表6-1-1 ケーススタディ対象航路
航路類型 航路名 事業者名 船舶就航年
大型フェリー航路
(本土〜外洋型離島)
鹿児島〜喜界〜知名 奄美海運 1989、1995
大型フェリー航路
(本土〜外洋型離島)
鹿児島〜那覇 マリックスライン
大島運輸
1993、1999
1992、1994
小型フェリー航路
(離島相互間)
瀬相〜古仁屋〜生間 瀬戸内町 1994
一般旅客船航路
(離島相互間)
与路〜古仁屋 瀬戸内町 2003
 
(2)ケーススタディにおける検討項目
(1)バリアフリー化の実態
 バリアフリー化の実態を把握することを目的として、以下の地方自治体・交通事業者へのヒアリング調査を実施した。
 
表6-1-2
ヒアリング調査実施先(地方自治体・交通事業者)
ヒアリング先 区分
瀬戸内町(企画担当) 地元市町村、港湾管理者
瀬戸内町(航路事業担当) 航路事業者
鹿児島県港湾課 港湾管理者
奄美海運(株) 航路事業者
マリックスライン(株) 航路事業者
奄美交通(株) バス事業者(奄美大島)
加計呂麻バス(有) バス事業者(加計呂麻島)
 
(2)バリアフリー化に対するニーズ
 バリアフリー化に対するニーズを把握することを目的として、離島住民へのヒアリング調査を実施した。
 
表6-1-3 ヒアリング調査実施先(離島住民)
ヒアリング先 区分
対象航路の乗船客
(フェリーかけろま)
利用者
特別養護老人ホームの生活指導員等 利用者
瀬戸内町(保健福祉担当) 瀬戸内町身体障害者協会事務局
 
(3)住民ニーズを踏まえた交通バリアフリー化の方向性および推進方策
 (1)、(2)の結果およびアンケート調査結果を踏まえ、各航路の概要および一連の経路(ターミナル内、乗下船時、船内、港までのアクセス)におけるバリアフリー化の現状と問題点について整理した上で、今後の交通バリアフリー化の方向性および、交通バリアフリー化により期待される効果等を検討する。
 
2. 対象地域の概要
(1)対象地域の概要
(1)概要
 瀬戸内町は1956年に古仁屋町、鎮西村、実久村、西方村の1町3村が合併し、現在の瀬戸内町が誕生した。
 奄美大島の最南端に位置し、町域面積は239km2で、大島海峡を挟んで本島側(138.7km2)と加計呂麻島(77.2km2)・請島(13.7km2)・与路島(9.5km2)の3島から構成される。加計呂麻島は、与論島(20.5km2)、喜界島(56.9km2)を上回り、沖永良部島(93.6km2)に近い面積を有する。
 役場のある古仁屋が町の中心となっており、奄美大島から加計呂麻島・請島・与路島への定期航路は、いずれも古仁屋港を起点として発着している。
 
図6-2-1 瀬戸内町周辺
資料)Yahoo!地図情報
 
(2)人口動態
 2003年時点における瀬戸内町の人口は11,429人であり、そのうち奄美大島が約80%を占めている(表6-2-1)。1955年〜2000年における人口の推移をみると(表6-2-2)、瀬戸内町全体では55.8%の減少となっている。島別にみると、特に加計呂麻島・請島・与路島の3島は合併前年の1955年時点ではそれぞれ約8,500人、約1,200人、約1,000人であったが、その後45年間の人口減少が激しく、いずれも80%以上減少している。
 
表6-2-1 瀬戸内町の人口
  世帯数 人口
瀬戸内町全体 5,660 5,472 5,957 11,429
島別人口 奄美大島 4,494 4,504 4,838 9,342
加計呂麻島 959 806 918 1,724
請島 115 91 117 208
与路島 92 71 84 155
資料)2003年4月30日現在。瀬戸内町ホームページよりUFJ総合研究所作成
 
表6-2-2 瀬戸内町における人口の推移(1955-2000年)
世帯数 瀬戸内町
全体
島別人口
奄美大島 加計呂麻島 請島 与路島
1955 6,455 26,371 15,688 8,513 1,174 996
1960 6,412 23,798 15,047 6,885 996 870
1965 5,837 20,336 13,556 5,300 782 698
1970 5,537 17,273 12,305 3,841 614 513
1975 5,275 15,290 11,439 2,957 501 393
1980 5,271 14,309 11,200 2,406 397 306
1985 5,198 13,269 10,699 2,009 325 236
1990 5,147 12,566 10,190 1,874 284 218
1995 5,105 12,017 9,828 1,752 249 188
2000 5,048 11,651 9,582 1,704 200 165
人口増減率
(2000/1955)
- -55.8% -38.9% -80.0% -83.0% -83.4%
資料)国勢調査(各年)による。瀬戸内町ホームページよりUFJ総合研究所作成
 
(3)高齢化率
 瀬戸内町全体の高齢化率は、2000年時点において、30.7%である。島別にみると加計呂麻島・請島・与路島ではいずれも50%前後と高い割合となっている。
 
表6-2-3 瀬戸内町における高齢化率
  人口総数 高齢者数 高齢化率 (%)
瀬戸内町全体 11,649 3,573 30.7
島別人口 奄美大島 9,580 2,578 26.9
加計呂麻島 1,704 807 47.4
請島 165 80 48.5
与路島 200 108 54.0
資料)「離島統計年報(2002)」(財団法人日本離島センター)よりUFJ総合研究所作成
 
(4)医療施設
 瀬戸内町には一般病院が2ヶ所、一般診療所が11ヶ所、歯科診療所が4ヶ所分布している。しかし、一般病院と歯科診療所はいずれも奄美大島に分布しており、加計呂麻島には診療所が2ヶ所、請島と与路島には診療所が1ヶ所ずつしか分布していない。現在、加計呂麻島、請島、与路島の島内には入院施設がないため、住民は必要となった時には、古仁屋の病院に入院している。
 また、皮膚科などの専門医は瀬戸内町内の医療施設に勤務していないため、受診する際は名瀬市の病院に通院することとなる。
島別の医療従事者の状況をみると、加計呂麻島には常勤の医師が1名と看護師が8名、請島と与路島は常勤の医師はおらず、非常勤の医師が1名と看護師が1名となっている。
 
表6-2-4 瀬戸内町における医療施設
注)1)病院:病床数20床以上を有する施設
診療所:病床を有さないもの、または19床以下の病床数を有する(有床診療所)施設
注)2)表は2003年4月時点の状況であり、加計呂麻島には病床が19床存在したが、2004年1月時点では加計呂麻島には入院施設は存在していない。
資料)「離島統計年報(2002)」(財団法人日本離島センター)よりUFJ総合研究所作成
 
(5)福祉施設
 特別養護老人ホームは、奄美大島と加計呂麻島に1ヶ所ずつ分布しており、それぞれの施設に老人デイサービスセンターと在宅介護支援センターが併設されている。加計呂麻島の老人デイサービスセンターは、加計呂麻島、請島、与路島を所管している。請島と与路島には福祉施設がないため、サービスを受けるためには海上交通を利用して、加計呂麻島または奄美大島へ通所する必要がある。
 
表6-2-5 瀬戸内町における福祉施設
  特別養護
老人ホーム
老人デイサービス
センター
在宅介護支援
センター
知的障害者
更正施設
瀬戸内町全体 2 2 3 1
島別人口 奄美大島 1 1 2 0
加計呂麻島 1 1 1 1
請島 0 0 0 0
与路島 0 0 0 0
注)特別養護老人ホーム:常時介護を要すると見込まれる人(要介護認定で要介護と認定された人)に対し、入浴、排泄、食事等の介護や日常生活上の世話等を行う施設
老人デイサービスセンター:虚弱老人に対して入浴、給食、日常動作訓練等各種のサービスを提供し、生活の助長、心身機能の維持向上等を図るとともに、その家族の身体的、精神的な負担の軽減を図る施設
在宅介護支援センター:在宅の寝たきり等の高齢者の家族からの介護に関する総合的な相談に応じて、ニーズに対応した各種の保健・福祉サービスが受けられるよう市町村等関係行政機関との連絡調整等を行い、介護を必要とする高齢者やその家族の福祉向上を図る施設
知的障害者更正施設:18歳以上の知的障害者を入所ないし通院させ、これを保護するとともに、その更正に必要な指導および訓練を行う施設
資料)「保健・福祉施設一覧(2002)」(鹿児島県社会福祉協議会)よりUFJ総合研究所作成







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