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(6)バリアフリー化に関する問題点
(1)利用者のニーズの把握
■利用者ニーズの収集を何らかの形で行っている事業者は6割
 利用者のニーズを把握するために何らかの手段を講じている事業者は、全体の6割にあたる9事業者であった。ニーズを把握する方法としては、「船内やターミナルにアンケート用紙や投書箱を設置」が5事業者(十島村、いわさきコーポレーション、折田汽船、マリックスライン、大島運輸)で最も多く、「ホームページ上で意見・要望を受け付け」と、「過去に利用者アンケート調査を実施」が3事業者ずつである。
 
図4-1-16
利用者ニーズを把握するために講じている手段(複数回答 n=15)
 
(2)バリアフリー化に関する問題点
1)利用者から指摘される問題点
■乗下船時の段差解消に要望あり
 事業者側で把握している利用者からみた問題点には、乗下船時における段差の解消と、雨よけ設備の設置があげられた。
・船内への昇降がすべて階段なため年配者からはリフト等の要望がある。(折田汽船)
・屋根付ポンツーンの設置。(江崎汽船)
・舷門から客室入口までの段差解消。(十島村)
 一方、利用者側からバリアフリー化に対する要望はあるが、「各港とも陸上のボーディングブリッジが整備されなければバリアフリー化に対応することは難しい」(大島運輸)との回答もあった。
 
2)その他の問題点
 上記以外のバリアフリー化に関する問題点としては、コスト負担、離島という特性や小型船からくる問題、ソフト面での対応に関するものなどがあげられた。
 
■コスト面
・バリアフリーについては、そのニーズも理解しているが、離島航路における収支、また維持存続の面から、改善のための経費が最大のネックとなる。(折田汽船)
・本航路は補助航路(国・県)の指定を受けているが、種々のバリアフリー化を実施した場合、特にエレベーターやエスカレーターを設置する場合は、導入費用については補助を得られても、維持費用が問題となる。(十島村)
・可動橋を使用しているが施設使用料の負担が大きい。(天長フェリー)
・ボーディングブリッジの設備はあるが施設使用料の負担が大きいため、利用は難しい。(奄美海運)
 
■離島の特性からくる問題点
・台風等で整備が難しい港が半数以上を占め、その観点から、ターミナル、乗船時におけるバリアフリー化が非常に難しいと思う。国、県の事業推進がなければバリアフリー化は困難と思料される。(マリックスライン)
・道路・交通整備に不備点が多いことが、ターミナルや乗船時におけるバリアフリー化の実現にあたって問題となる。(天長フェリー)
 
■小型船における問題点
・身障者用便所の設置は船体に対して大きなスペースとなることから、身障者用便所部分をトン数計算から除外する等の措置や、船体の大きさによって異なるバリアフリー基準を適応する等の対応が必要。(江崎汽船)
 
■ソフト面での対応に関するもの
・身障者が海上輸送を利用する際、身障者手帳を必ず見せてもらえれば従業員等による対応が可能であるが、実際はそうではないため、対応することが難しい。(天長フェリー)
 
(7)今後のバリアフリー化への対応
(1)新船導入時にバリアフリー化を進める際の課題
■全般的には建造・維持コストの増加が課題。民営ではコスト負担の増加、公営では法規制に関して課題あり
 交通バリアフリー法により、新船を導入する際は、移動円滑化のために必要な構造および設備に関する基準を定めた「移動円滑化基準」に適合させる必要がある。
 アンケート調査によれば、現在新船導入を検討している事業者はないが、導入時にバリアフリー化を進める際の課題についてきいたところ、「建造コストの増加」が13件で最も多く、次いで「維持コストの増加」が7件となっており、特に民営事業者において、コスト負担の増加が課題として多くあげられている。続いて、「船舶構造に関する法規制(安全法等)との両立」が6件あげられているが、公営は全事業者があげているのに対し、民営事業者からは回答はなく、経営形態の違いにより、バリアフリー化を進める際の課題の認識に差があることがわかる。
 
図4-1-17
新船導入時にバリアフリー化を進める際の課題(複数回答 n=15)
 
(2)既存の船舶に講じたいと考えているバリアフリー措置
■既存船舶では、段差解消への対応が最も多い
 交通バリアフリー法では、既存船舶の「移動円滑化基準」への適合は、努力義務とされている。既存船舶に講じたいと考えているバリアフリー措置をみると、「乗降用設備・出入口・通路等の段差解消」が12件で最も多く、次いで「乗降用設備・通路・階段等の滑りにくい仕上げ」と「身障者用便所の設置」が6件となっている。
 
図4-1-18
既存の船舶に講じたいと考えているバリアフリー措置(複数回答 n=15)
 
(3)バリアフリー化の推進にあたって期待される支援策
■民営、公営共通は施設整備に対する公的助成。民営はコスト面の支援を、公営では法規制の見直しを期待
 バリアフリー化の推進にあたって期待される支援策をみると、「施設整備に対する公的助成・低利融資」が13件と最も多く、次いで「バリアフリー化設備にかかる税の減免」が7件と、コスト面での支援策を期待するものが多かった。またアンケートの自由回答からは、バリアフリー化にかかる費用の全額補助や、国・県によるバリアフリー化事業の推進を求める回答があった。また、経営形態別にみると、コスト面での支援策を期待する回答は、特に民営事業者に多い。
 
図4-1-19 バリアフリー化の推進にあたって期待される支援策(複数回答 n=15)
 
(4)バリアフリー化と並行して行う必要がある取り組み
■港湾・旅客船ターミナルのバリアフリー化、バス・タクシーとの連携を重視
 船舶のバリアフリー化と並行して行う必要がある取り組みは、「港湾・旅客船ターミナルのバリアフリー化」が最も多い。また、「港湾アクセス(バス・タクシー等)の利便性向上」も半数以上の事業者があげており、海上輸送のバリアフリー化を進めるにあたり、離島内や本土側のバス・タクシー等、両端の交通機関との連携が重要であると考えられている。
 
図4-1-20
バリアフリー化と並行して行う必要がある取り組み(複数回答 n=15)
 
(8)バリアフリー化に期待される効果
■高齢者・身障者等の利便性の向上に加え、特に民営事業者において、需要拡大や信頼性向上といった営業面の期待あり
 バリアフリー化に期待される効果については、「高齢者・身障者等の生活の利便性・安全性の向上」をあげる事業者が11件と最も多く、次いで、「自社航路の輸送需要の拡大」が8件となっている。
 
図4-1-21 バリアフリー化によって期待される効果(複数回答 n=15)
 
(9)自由回答
 海上輸送のバリアフリー化についての自由意見として、次のようなものがあげられている。
 
・利用者のニーズに出来るだけ応えたいと思い、バリアフリー船という事で購入したが、ここ何年か利用者が減少している。利便性の向上が問われており、考えさせられるところである。(天長フェリー)







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