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第8 がい装なし電線の使用範囲の拡大
 
 がい装なし電線の使用の拡大を図るためには、がい装なし電線の特性を充分に把握する他、その利用の状況を調査することも重要なことである。本調査研究において、諸外国特に、ヨーロッパで建造された船舶のがい装なし電線布設工事の実情と、陸上の建築物や航空機の電装工事の現状を詳細に調査する等、可能な限りのデータ収集に努めた。
 また、がい装なし電線を使用する際に、現存している諸々の制約などについても調査が必要である。その一つが船舶電装工事に関するルール上の問題であり、二つ目ががい装なし電線を使用しようとするときの電装工事用材料、工事方法等に関する問題である。
 わが国の船舶電装工事に関する基準は、船舶設備規程に定められており、同規程245条には「配線工事は、第一種配線工事及び第二種配線工事の二種とする。」第一種配線工事とは、「がい装鉛被ケーブル、がい装合成ゴムシースケーブル、がい装ビニールシースケーブルを用いた工事」、「鉛被ケーブル、合成ゴムシースケーブル又はビニールシースケーブルで金属製管に納入したものを用いた工事」とされている。また、同規程247条には第一種配線工事でなければならない電路として、「機関室、ボイラ室、暴露甲板等における他動的損傷を受けやすい場所に布設する電路」とされている。
 日本海事協会(NK)の規則では、「金属がい装のないケーブルが機械的損傷を受ける恐れのある場合には、ケーブルは、金属覆いを用いて保護しなければならない。」、「貨物倉等で特に機械的損傷を受けやすい場所に布設するケーブルは、金属がい装があっても、金属覆を用いて保護しなければならない。」となっている。外国政府の規則や世界の船級協会の規則は、NKと同様の規則となっていて、がい装なし電線の使用についての制限は設けられていない。
 このように我が国の規程では、がい装なし電線を金属製管で保護をすることなく、機関室等に使用することが認められていないことは船舶電装工事施工上の大きな制約となっている。がい装なし電線の使用の拡大を図るためには、がい装なし電線使用の最大の課題である機械的損傷を受ける恐れのある場所にある電線の布設時と布設後の養生について充分に検討しなければならない。機械的損傷を受ける恐れのある場所を明確にして、それぞれの場所に応じた電線保護のための指針と保護方法の基準を確立する必要がある。
 我が国では一部の小型高速船を除いて、がい装なし電線を使用した船舶の建造実績が少なく、がい装なし電線の使用に関する経験と知識に乏しい。このため、がい装なし電線を使用する際に必要な工事用材料等が存在しなかったり、必要な工事用材料等の開発・改良が進んでいない。小型船から中型船、更に大きな船へとがい装なし電線の使用を推進するためには、それに必要な電装工事用材料等の環境条件を整えておく必要がある。
 具体的には、電路支持金物、電線固定のための樹脂バンド、電線に外傷を与えることなく電線を布設するための配線支持装置(コロ等)については課題が残されており、まだ充分使用に耐えうるものが存在していない。これらの課題を早急に調査し、必要な工事用材料等の開発・改良を実施し、電装工事が効率的、経済的に、かつ適正に行うことが出来ることを示さなければならない。また、それらの新電装工事材料を利用した工事手法についても検討を進めなければならない。
 
 第2「実態調査」ではがい装なし電線を採用した船舶の電線布設要領と老齢船の電線の状態を調査した結果を述べるとともに、陸上設備及び航空機の電線布設要領の調査結果について述べた。また、第5「他動的損傷に対する保護箇所と保護方法」では船内を区域ごとに分けて実績のあるがい装電線の布設要領を調査することにより、それを踏まえたがい装なし電線の布設に適用可能と思われる電線の保護要領について提言した。がい装なし電線の採用は船舶の軽量化及び電線布設工事の簡略化に寄与することとなるため、本項ではこれらの調査結果及び提言をもとに、船内の各区域におけるがい装なし電線の他動的損傷の防止を配慮した布設についてまとめる。
 
 機関室内は一般に他動的損傷を受けやすい場所と見なされ、がい装なし電線を布設する場合は金属覆で保護することが規則で要求されている。ただし、同じ機関室内であっても、より他動的損傷を受けやすい位置とそうでない位置に分けて考えることも可能と思われる。その一例としてデッキ又はフロアから2m程度の高さで区域を分けてそれぞれの位置における電線の保護について考える。
 デッキ又はフロアから2m強の高さまでの範囲は、船内の保守作業の際、乗組員が動き回り作業用具等が接触する可能性があることから他動的損傷を受ける可能性の高い位置であると考えるべきである。また、グレーチング等のフロアの下方、船底又はタンクトップまでの位置も船内保守の際には乗組員や工具等が入り込むことが考えられるため、同じく他動的損傷を受ける可能性の高い位置であると考えるべきである。従ってこの位置に布設される電線は保護が不可欠といえる。デッキ又はフロアから2m強の高さまでの位置の垂直電路には電路カバーを設けることで保護を行なうのが一般的であろう(例:P.12 写真M-9、M-10及びP.58図5.1.2c参照)。なお、水平電路をこの位置に布設するのは避けるべきと考えるが、やむをえず布設する場合は同様に電路カバーを設ける必要があろう。ただし、単独電線あるいは2、3本程度の電線の布設であればアングルバーを電路支持物としそれ自体を保護覆いと見立てたり、場合によってはウェブ、ビーム等に密接して布設することにより船体構造物自体を保護と見立てた布設の可能性も考えられる(例:P.80 図7.1参照)。グレーチング等の下部、すなわち床下配線の殆どは単独電線の布設といってよく、この場合は、金属管での保護とすべきである。布設工事の容易さを考えれば金属製可とう電線管(商品名プリカチューブ)を利用した保護が考えられる(例:P.58 図5.1.2 e参照)。
 機関内の床面から2mを超える位置の電線にあっては、他動的損傷を受ける可能性が必ずしも高いとは思われないため、がい装無し電線であっても電路の金属覆いによる保護は省略できる可能性がある。水平電路の場合、電線を金属製のケーブルトレイ、ケーブルハンガ又は梯子ラックの上面、すなわち船体構造物側に置いて布設すれは十分な保護と見なされると期待できる。また、梯子ラックの場合にはもし下面に金属製板を取り付ければトレイと同様の保護性能を有することとなり、これが金属覆いと見なされるであろう。
 機関区域内であっても機関制御室は特殊な区画といえ、他動的損傷を受ける可能性が高いと考える必要はないと思われる。ただし、主配電盤及び変圧器が設置された場合にはそれらに出入りする電線に対しては十分な保護を考慮する必要があろう。また、主配電盤に接続される主電路を除く枝電路にあっても可能な限り防音のための内張り等で遮蔽されたものとすることが推奨される。
 一般に機関区域といってもその空間サイズは船の大きさによって異なる。がい装なし電線を採用し必要と思われる部分のみ金属覆で保護しようとする場合は、その適用範囲及び要領に関し十分な検討が必要であり、かつ、船主及び船級等との事前の綿密な打合せが必要となる。
 
 規則では居住区域におけるがい装なし電線の布設は追加の保護なしに認められている。従って、配線工事の際に電線への損傷がないように十分考慮して布設すればよく、機械的損傷に対する追加の保護は必要ない。ただし、集合の垂直電路は電線ダクトスペースに布設する、通路における水平の集合電路では電線をケーブルトレイ、ケーブルハンガ又は梯子ラックの上面、すなわち天井側に置いて布設する、枝電路は内張りで遮蔽して布設し露出部を最小限にして布設する等の考慮が望まれる。
 
 危険区域内への電気設備の設置はなるべく避けるべきであり、電線の布設も避けるべきである。しかし、船の用途及び作業等における安全確保のためには危険場所への電気機器の設置は避けることができない。従って規則では危険場所ごとに電気機器の防爆構造、電線の構造及び保護について規定している。それによれば、電線に関しては金属がい装付きのものを布設することが要求されている。ただし、電線の機械的保護の見地からは、金属管又は金属ダクト内布設とすればがい装電線と同等以上の効力を有すると考えられ、船級等に受け入れられるものと思われる(例:P58 図5.1.2 d参照)。仮に危険場所にがい装なし電線を布設しようする場合には事前に船級等の承認を得ておく必要がある。
 
 一般に暴露甲板にがい装なし電線を布設しようとする場合、金属管又は金属ダクト内布設とする必要がある。ただし、金属覆いでの保護要領はがい装電線と比べ特別な措置を施す必要もなく、布設作業時の電線の損傷に注意を払えばよいといえる。なお、居住区画の上部構造物の暴露部にあっては、例えば張り出しデッキ等の船体構造物を保護と見立てたがい装なし電線の布設が可能と思われる。また、マストに布設する電線は、アンクルバー、梯子の組み合わせで保護としている例もある(例:P.80 図7.1参照)。
 
 がい装なし電線の布設工事にあっては5.1.2の最後の節で述べたように特に布設作業時に電線が損傷を受けやすいことから注意が必要である。また、船体構造物、電路支持物等のエッジ部分との接触による電線の損傷防止を考慮た対策を施す必要がある。これに加え、布設後の他の工事による損傷、すなわち溶接工事の火花に対する保護等についても十分な注意を払う必要があるため、電気艤装工事従事者だけでなく他の工事従事者にも注意を喚起しておく必要がある。
 
a 電線固定用材料
(1)電線バンド
 がい装なし電線を固縛する場合は ビニール被覆付バンド又は下図に示すようなコの字形ネオプレンゴム、樹脂製バンド等を使用し、がい装なし電線被覆に傷を付けないよう固縛する。
 
図8-3 コの字形ネオプレンゴム
 
(2)その他固定材料
 配線状況に合わせて形状化製作された帯金、電線押さえ等を使用し電線を固定する。
 
b 電線支持金物類
 電路金物としては、がい装なし電線を他動的損傷から保護するためトレー式ハンガ、電線管を使用することが望ましい。
 なお、電路金物、電路支持金物、電線管等は、金物端部で電線被覆を傷つけないようその製作には、十分注意を払う必要がある。
 
c 端子台等接続用材料
 端子台等電線接続材料に関しては、がい装なし電線を使用するに際して、特別な考慮を払うべき材料はない。
 ただし、結線工事の際に、端部処理を適切に行いシースの割れ等が発生しないように十分注意する必要がある。
 
d 装備工事用材料
 がい装なし電線布設時には、ローラー、コロ、テフロンシート等を使用し電線に過大な張力が掛からないよう考慮する。
 また、電線相互の摩擦や電線自重も考慮して布設工事を行う。
 
e その他材料
 養生材料については 配線時と配線後の2点について考慮を払う必要なある。また人に踏まれないように出来るだけ床に置かない注意も必要である。
 養生材料としては、電線布設工事の際に電線への張力を軽減するためのローラー等、電線被覆を保護するためのシート等、電路曲がり部や金物端部等での保護のために使用するローラー、丸太等がある。
 また、配線後は火気等に対し火気養生シート(カーボンクロス、防災用マット等)で十分な養生をする。







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