日本財団 図書館


第9 まとめ
 
 船舶電気装備の技術革新に向けて、本年度は主として電線布設工事におけるがい装電線とがい装なし電線の比較、がい装なし電線の使用範囲拡大の可能性などについて実地調査、実験を含む調査研究を行った。その結果、以下の事項が確認された。
 
(海外建造船舶、陸上建築物、航空機の実地調査について)
 海外で建造された船舶のがい装なし電線布設工事の実情と、陸上の建築物や航空機の電装工事の現状についての詳細なデータを収集することができたことは、特筆に値する。
・海外での建造例としては、オーストラリアで建造された高速アルミ双胴船2隻の調査を行った。いずれも電線は北欧製が使用され、動力および照明用にはがい装なしビニルシース電線が、制御用には銅網組がい装ビニルシース電線およびがい装なしシールドテープ介在ビニルシース電線が使用されていた。保護の必要なところには、蛇腹状プラスチック覆いをつける、金属管、金属ダクトに入れる、トレイへの固定、防熱用布状アルミで覆うなど、その部位ごとに保護対策を施している。
・陸上の建築物については、大井埠頭コンテナターミナル変電所とフジクラ開発株式会社社屋の電線布設状況と端子盤設置状況を調査した。その結果、調査した陸上建造物内においてがい装電線の使用は見られず、すべてがい装なし電線であった。その保護状況は船舶とは異なる点も多いが、これは陸上と船舶との環境の相違、およびそれにともなう電線布設関係規則の相違によるものと思われる。
・航空機については、特に貨物用航空機における電線布設状況および端子盤設置に関わる実態調査を行った。航空機における最重要点は軽量化であり、船舶の電装工事とは視点が異なっている。
 
(電線布設時の養生の重要性について)
・がい装なし電線の使用にあたっては、電線布設後の保護だけでなく、特に、電線布設時の養生が重要であることが再確認された。たとえば、
1)布設ルートの要所に多数のコロを設置して、電線に過大な張力が加わらないようにする。
2)ウインチによる布設には、引っ張り先端にスイベル(より戻し器)等を用いて電線にねじれが加わらないようにする。
3)布設ルートの曲がり部には人員を配置し、ケーブルにしごきや極度の曲げが加わらないようにする。
など、損傷が起きないような工夫が必要である。
(船用電線の種類について)
・日本海事協会で承認されている船用電線には、大きく分けて次の3種類がある。
1)JIS C 3410 船用電線 適合の日本型電線
2)欧州型軽量電線
3)上記2つの中間型
 
(船用電線布設に関する規則について)
・船舶の電線の機械的損傷に関する規則と、その規則に基づく電線の種類、布設要領を大まかにまとめると、以下のようである。
1)居住区等機械的損傷を受ける可能性の非常に少ない区画にあっては、がい装なし電線の布設が追加の保護なしに認められる。
2)機関室、倉庫等の機械的損傷を受けやすいと考えられる場所にあっては、がい装電線の布設が認められる。また、がい装なし電線であっても覆い等で保護する追加の措置を講ずれば布設が認められる。
3)貨物区域等、荷役時の機械的損傷を受ける可能性が特に高い場所、波浪による打撃を受けやすい場所の電線は、がい装電線であっても金属製電線管等で保護する追加の措置が必要となる。
 
(電線の保護場所と保護方法について)
・船用電線を使用する場合の保護場所と種々の有効な保護方法が示されたことは、今後の電装工事におおいに役立つものである。すなわち、
1)機関室、ボイラ室における主電路、支電路、床下配線の保護方法
2)暴露甲板等の機械的損傷を受ける場所に布設する電路の保護方法
3)爆発または引火しやすい物質が発生し、蓄積し、または貯蔵される場所での保護方法
4)水密戸開閉装置、自動スプリンクラ装置、水中型ビルジポンプ、退船警報装置へ給電する電路の保護方法
である。
 
(電線の引張り試験について)
・電線の引張り試験においては、電線グリップを適正に利用することにより、抜け、滑り等を起こさず、導体を含めて電線全体に目的の荷重を掛けることができることを確認した。また、電線に過度の張力を掛けた場合、外観には異常がなくても電線の内部に導体の「キンク」(変形屈曲)等の不具合が起こる場合もあるので、電線を引張る場合には、許容限度内の張力で引張ることを厳守する必要がある。
 
(がい装備なし電線とがい装電線との比較について)
・がい装なし電線を使用する場合の利点と問題点、がい装電線使用時との概略のコスト等の比較も行った。これらはがい装なし電線選択の重要な参考となる。
 
(がい装なし電線の使用拡大に向けての方策について)
・がい装なし電線の使用をよりいっそう拡大するためには、船舶設備規程に定められている制限の緩和が必要である。すなわち、我が国の規定では、がい装なし電線を金属管で保護することなく機関室等に使用することが認められていないことは、船舶電装工事施工上の大きな制約となっている。
・がい装なし電線使用拡大のためには、また、がい装なし電線を使用する際に必要となる工事用材料の開発・改良等の整備が必要である。これらの課題を早急に調査し、必要な工事用材料等の開発・改良を実施し、電装工事が効率的、経済的に、かつ適正に行うことが出来ることを示す必要がある。
 
 本委員会の今後の課題として、装備工事用材、接続用端子及び端子台、接着剤等を調査研究し、今後の船舶電気ぎ装工事の合理化と関係法規の合理的な改正に向けて参考となる提言を行うこととする。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION