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第5 他動的損傷に対する保護箇所と保護方法
 
 前第4「電線布設に関する規則」の調査のとおり、暴露区域、貨物倉及び機関区域等の居住区域に比べ他動的損傷を受けやすいと考えられる場所に電線を布設する場合は、がい装電線とするか、そうでない場合には金属覆等で保護することが規則で要求されている。なお、IEC規格及び船級規則ではがい装なし電線を布設する場合の金属覆による具体的な保護要領については言及していないが、船舶設備規程では金属管による保護をする旨規定している。ただし、金属管以外での保護を否定しているものではなく、金属管で保護した場合と同等の機械的保護がなされれば問題ないものと理解できる。本第5では規則の要求を尊重しつつ、がい装なし電線の使用範囲の拡大と適用可能な電線保護方法について検討し、例えば機関区域を電線の保護が必要な位置と不用な位置に分けた場合の電線の保護、電線支持物自体を電線保護のための金属覆と見立てた布設あるいは船体構造物を利用した電線の保護の可能性と工事の手間の少ない保護要領等について述べる。
 
 電線の保護の目的は、電線の損傷による接続機器の運転停止を防ぐことはもちろんであるが、電線の他動的損傷による短絡事故及び地絡事故の防止である。なお、タンカー、液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船等の爆発性ガスを発生する液体貨物運搬船にあっては地絡事故の場所によっては爆発事故につながることにもなるためその防止も大きな目的といえる。
 船用電線は絶縁物を持つのはもちろん、その外側には水、油及び化学品からの保護を主目的としたシースを持つ構造になる。このシースが結果的に絶縁物の機械的保護の役割を果たすこともあるが、もともとは前述した保護が目的であり機械的損傷からの保護を目的としたものではない。従って他動的損傷を受けることによる事故を防止するため、電線は金属がい装を持つか、持たない場合は金属覆いで保護して布設することとなる。
 
(1)機械室、ボイラ室に布設する電路
規則等の要求あり。使用ケーブルの規定は以下のとおり。
船舶設備規程 第1種配線工事
   NK 他動的損傷を受けやすい場所に金属覆を用いて保護される場合を除き、
金属がい装付ケーブル
 
系統・位置概略 保護適用箇所例 保護方法 具体的保護例 備考
主電路 全般 トレー式電路とする 図 5.1.2 a
写真 5.1.2 a
トレー式電路の使用、船体構造物の陰を利用することにより布設電線は他動的損傷を受ける恐れが少なく、がい装なし電線を使用しても問題ないと判断される。
支電路 船体構造の陰に電路を設け電線を布設する 図 5.1.2 b
機械室 床下 金属製可とう電線管(プリカチューブ)で保護 図 5.1.2 e 第1種配線工事の2項に相当すると考えられるため、がい装なし電線を使用しても問題ないと判断される。
 
所見
 他動的な損傷を恐れのある箇所への限定的な保護対策を施し、その他の一般的な電路に対してはトレー式電路使用や船体構造利用による隠蔽工事等の配慮がされていれば当該区画へのがい装なし電線の使用は可能と考える。また、保護対策の必要な箇所の範囲等を明確にする必要がある。
 
(2)暴露甲板等機械的損傷を受ける場所に布設する電路
船舶設備規程 第1種配線工事
  NK 他動的損傷を受けやすい場所に金属覆を用いて保護される場合を除き、金属がい装付ケーブル
 
系統・位置概略 保護適用箇所例 保護方法 具体的保護例 備考
上甲板暴露部 全般 電線管を用いて布設、25〜30m間隔でドレッサー型エキスパンション継手付プルボックスを使用
金属製可とう電線管(プリカチューブ)で保護
写真 5.1.2 b
写真 5.1.2 g
写真 5.1.2 t
写真 5.1.2 e
第1種配線工事の2項に相当すると考えられるため、がい装なし電線を使用しても問題ないと判断される。
タンク上の暴露部  タンク上の暴露部
フライングパッセージノ下部
電線管により配線、船の伸縮・曲げに対応するため電線はプルボックス内でたるみを設ける
プルボックス内 プルボックス内の電線が電線管端のエッジ部に直接触れないように布設、32A程度のパイプ、もしくはローラーを用いて保護することもあり。
 
所見
 金属管工事、又は他動的損傷を受ける恐れのある箇所に限定的な、保護対策を施工することでがい装なし電線の使用が可能と考える。ただし、暴露部では損傷を与える外的要因が特定できない場合が多いため、保護箇所の判断には十分考慮を払う必要がある。
 
(3)爆発し、又は引火しやすい物質が発生し、蓄積し、又は貯蔵される場所(危険物貯蔵庫等)に布設する電路
規則等の要求あり。使用ケーブルの規定は以下のとおり。
船舶設備規程 第1種配線工事、NK シースを施したもの..
 
系統・位置概略 保護適用箇所例 保護方法 具体的保護例 備考
石炭専用船   ・上甲板暴露部
・危険区画(石炭粉塵) 
 :耐圧防爆構造
電線管を用いて布設、25〜30m間隔でドレッサー型エキスパンション継手付プルボックスを使用 写真 5.1.2 b  
危険区画(甲板暴露部)〜居住区(非防爆区画) 両区画の境に設けられたプルボックスは防水、防爆対策としてコーミングをA-60防火処置施工
プルボックスから居住区への一般電路は天井部隠蔽
写真 5.1.2 c
写真 5.1.2 t
 
貨物倉間(ボイドスペース) ボイドスペース内部は他動的損傷要因がないため電路による電線固縛により摩擦損傷を防止    
危険物貯蔵庫等 防爆機器 パイプ等により電線を保護して機器へ導入する 図 5.1.2 d  
暴露甲板等 ・機械的損傷を受ける恐れのある箇所
・人がさわれる箇所
金属製の電路カバーで
保護
図 5.1.2 c  
 
所見
 当該区画は防爆、火災等に対する要求があり、その要求を満足した工法を採用し、他動的な損傷を受ける恐れのある箇所に限定的な保護対策を施せば、がい装なし電線の使用が可能と考える。







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