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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/04/14 産経新聞朝刊
【正論】評論家・作家麗澤大学教授 松本健一 国民憲法と連動する教育改革を
 
◆戦後日本の体系的両輪
 憲法は国のかたちを、原理的、外形的に規定するものである。これに対して、教育基本法は国を根底において支える人間のかたちを、精神的、内面的に方向づけるものである。
 とすれば、憲法のもとに民法や刑法や税法などのたくさんの法律があり、教育基本法もその一つにすぎないと考えるのは、間違いである。憲法と教育基本法とは、国民国家(ネーション・ステイト)における体系的な両輪ともいうべきものである。
 明治国家にあっては、そのことの意味が十分におさえられていたがゆえに、明治二十三年、いわゆる欽定憲法の発布と併行して、教育勅語の発布がなされたわけだった。欽定憲法と教育勅語の筆者は同一人物、井上毅(こわし)である。(教育勅語の作成には、井上と同じ横井小楠門下の先輩、元田永孚(ながざね)が加わったが…)。
 そして、大東亜戦争の敗北後の日本にあっても、昭和二十二年、いわゆる戦後憲法の施行と併行して、教育基本法が施行された。その筆者は、ともにGHQ(連合国軍総司令部)権力だった、とややアイロニカルにいうこともできる。翻っていえば、GHQ権力もまた、憲法と教育基本法が戦後日本国家の体系的な両輪であることを知悉していたわけである。
 そして、そう考えてはじめて、他の法律とちがい、教育基本法のみに前文(理念)がつけられている理由が判明する。−かつての教育勅語を廃止したかわりに、国を根底において支える人間のかたちを、精神的、内面的に方向づける体系がなくてはならない。その理念体系が前文なのである、と。
 
◆「国籍不明の人間」育成
 その前文には、次のように書かれている。
 「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。……」
 この一節をみても、戦後憲法と教育基本法が戦後日本の体系的両輪と捉えられていた事実が明らかになるだろう。そしてそれは、国籍不明の人間、つまり日本の歴史と文化から断ち切られた人間の育成をうたう、次のような文章へとつづいていた。
 「われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに……」
 このように歴史と文化から断ち切られて「育成された」人間は、結局のところ、「じぶんの国」をもたない。近代の国民国家が将来はいざ知らず、現在は国民(の生命と生活と財産)を守るべき共同体であるにもかかわらず、国民はその国家を支える義務を負わない。これが、守るべきものは個人の権利だけだ、という今日の国民(ひいては若もの)を生み出している。
 ところが、小渕首相の諮問機関だった「21世紀日本の構想」懇談会などは、あいかわらず二十一世紀は「個人の世紀」となるだろうと楽観的にうたいあげ、その「個」を育てるべき共同体としての日本については、口をつぐんでいる。ナショナル・アイデンティティ(国民的一体感)の核となるべき国語をしっかりと学ぶどころか、英語の第二公用語化さえ唱えた。国民はいわば根無し草となって、「世界の未来に向かって、全身をあげて参加す」べきだ、などと説いている始末である。
 
◆自分の国は自分で守る
 わたしは二月二十五日の「正論」欄で、そういった内容の「21世紀日本の構想」懇談会の『報告書』に対して、大いなる疑義を呈した。そしてそのなかで、川勝平太・国際日本文化研究センター教授(第4分科会座長)のことを、英語公用語化論者のひとり、とよんだ。しかし、川勝氏はむしろ、英語公用語化に対しては大反対であり、みずからの第4分科会以外の報告については、一切あずかり知らない。『報告書』の英語第二公用語化を含む「総論」は、事務局(山本正幹事=日本国際交流センター理事長)が勝手につくったものだ、と憤慨していた。
 わたしはこれまで何度となく、現在は幕末維新、敗戦後につづく「第三の開国」期である。グローバリズムの時代だからこそ、「じぶんの国はじぶんで守る」という国民意思にもとづいた「国民憲法」が新たにつくられねばならない、と説いてきた。
 そして、わたしはこの新たなる「国民憲法」の作成と連動して、「じぶんの国」を根底において支える新たなる国民の「教育基本原理」の作成、すなわち教育基本法の改正を含む教育改革が必要である、と考えるのである。
 この三月末には、小渕前首相の指示によって教育改革国民会議(座長=江崎玲於奈元筑波大学長)が発足した。しかし、そのメンバー二十六人のうち、文部省の中央教育審議会の経験者は九人に達している。これでは、現在の教育基本法にのっとった制度的手直しがおこなわれるにすぎないだろう。(二十六人というメンバーも多すぎる)。
 また、「21世紀日本の構想」懇談会の『報告書』を引き継ぐために、その座長だった河合隼雄・国際日本文化研究センター所長も教育改革国民会議のメンバーに迎えられた。これでは、「21世紀日本の構想」懇談会の失敗はまったく生かされていない。
 教育改革はすべからく、新しい国民憲法の制定と連動するような、抜本的なものでなければならない。(まつもと けんいち)
◇松本 健一(まつもと けんいち)
1946年生まれ。
東京大学経済学部卒業。
京都精華大学教授を経て、現在、麗沢大学教授。


 
 
 
 
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