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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/03/13 読売新聞朝刊
[論点]県教委、活性化へ主体性を 寺脇研(寄稿)
 
 文部省と教育現場の中間に位置しているのが、都道府県教育委員会である。では両者の間にあってどんな役割を果たしているとお思いだろうか? 知人に尋ねてみると、「文部省の手先じゃないの?」。そのへんが大方の理解かもしれない。教育の元締めである文部省のお先棒を担いで学校に対し指図する機関、というわけだ。
 実は、そうではない。地方自治の原則に基づき、都道府県内の教育に関する事務一切を管理、執行しているのである。文部省は、教育委員会に対して「必要な指導、助言または援助を行う」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律四八条)に過ぎない。「文部省の手先」どころか、知事と同じくらい主体的に教育行政を行い得る。しかも公安委員会や人事委員会と同じく知事から独立した行政委員会だから、県民の支持さえあれば自在に行政運営できる権限を持つ。
 県立の高校や障害児学校などについては設置者の立場で直接運営していくし、小中学校の教育の在り方は市町村教育委員会と連携しつつ県全体の方向を決していく。たしかに学校設置基準や学習指導要領など文部省の設定したガイドラインがあり、それに沿って国全体としての共通水準は守るべきである。しかし、がんじがらめに縛りつけられているわけではない。ガイドラインはあくまで枠組みであって、その枠組み内でどう教育をデザインしていくかは教育委員会の裁量にゆだねられている。
 たとえば広島県では、いじめなどで死を思いつめるほどの状態なら学校へ来なくてもいいと教育長が認めた。公式発言としては異例と受け取られたようで“不登校の勧め”とのセンセーショナルな報道もあったが、ではこれが文部省の意向に反しているかというとそうではない。文部省通知では既に、いじめ等で追いつめられた場合の不登校容認が示されていた。それは全国共通の方針だったが、公言してまで告知するかどうかはそれぞれの裁量による。広島県教育委員会は、本県の状況を熟慮の上で子どもたちへ向け広くアナウンスすべきと判断したのである。
 文部省は高校教育改革を提唱し多様な改革案を示しているが、これとても採用するかどうかは県教育委員会の決めることだ。改革の最重要課題である偏差値教育追放ひとつとっても今やその実効のありようはまちまちで、ほとんど手つかずのところもあれば、偏差値から脱却し始めたところもある。それらの温度差に対し文部省は「指導、助言」を行うにとどまり、立ち入ってまで強制はできない。
 というように、文部省は教育のあるべき形を国レベルで示してみせるだけであって具体的にどのような教育が展開されるかは教育委員会次第なのである。教育委員会の果たすべき役割が極めて大きいことが、ご理解いただけたろうか。
 もし「文部省の手先」にしか見えないとしたら、それは本来有している裁量権限を十分に行使していないからではあるまいか。文部省の打ち出した方策をそのまま実施するのではなく、地域の実情に合致した形で展開していくためには、その方策について広報活動も行う必要がある。教育現場や地域社会にわけ入り、「行政の顔」となって直接住民に語りかけてこそ、教育委員会の主体的な思考行動が明らかになるというものだ。
 いじめ問題の解決は国全体の課題でも、広島県の子ども四十万人余を直接守っていくのは広島県教育委員会の仕事である。学校五日制は全国共通でも、それを県民の間に定着させるのは広島県教育委員会の仕事だ。広島県では県独自の取り組みとして「ひとりひとりが光る学校づくり」をモットーに〈広島県高校新三原則=〈1〉高校進学を希望するすべての生徒の入学を保障する〈2〉生徒のニーズに合った選択幅の広い柔軟な教育課程を用意する〈3〉できるだけ近所で満足のいく高校教育を受けられるようにする〉を掲げ学校教育改革を断行中である。大学進学実績のみを売り物にする県立高校は我が県には不要、高校改革を起爆剤に、偏差値教育を小中学校まで含め是正しようとしている。
 とはいえ、まだ力足らざる点も多い。ほとんどの教育委員会に共通することであるが、事務局職員の多くを知事部局や学校現場からの受け入れ人事に頼らざるを得ず、自前の人材養成ができにくい。そのために事務執行体制が脆(ぜい)弱(じゃく)となっており、教育委員会の持つ大きな権限と責任に見合うだけの実行力を発揮したくともできない主因となっている。
 その意味で、事務局体制の充実、特に固有の人材確保、育成を図ることが急務であると考える。政策を掲げて教育現場を的確にリードし十分な説明を通して住民の信頼をかちえ、さらには予算査定権をふるう知事部局に対し堂々と予算確保の論陣が張れるくらいの体制を作りたいものである。事務局の整備が、文部省の考えを右から左に伝達すればこと足れりとする意識を変革する鍵(かぎ)だと考える。そのことが教育委員会の活性化につながり、それがひいては教育の活性化をもたらすと確信している。
◇寺脇研(てらわき けん)
1952年生まれ。
東京大学法学部卒業。
文部省入省。生涯学習振興課長、大臣官房政策課長、文部科学省大臣官房審議官を経て、現在、文化庁文化部長。

 
 
 
 
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