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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/03/01 産経新聞朝刊
【正論】武庫川女子大教授 新堀通也 楽観許さない総合学科高校
 
◆準義務化した高校教育
 現在、高校は普通科と専門学科(職業科)の二本立てであり、普通科は進学、職業科は就職という通念が支配しているが、これに加えて第三の学科、「総合学科」を設立するよう、文部省の高校教育改革推進会議が過日、最終答申を発表した。
 その源流を遡(さかのぼ)っていくと、臨教審答申につき当たる。臨教審は二十一世紀に向けての教育改革の基本原則を「生涯学習体系への移行」「個性の重視」「変化への対応」の三つとしたが、これを受けて第十四期中教審は偏差値教育の是正、受験競争の緩和など、高校改革の基本方針を答申、この答申を具体化するため、高校教育改革推進会議が設けられたのである。
 その後、推進会議は精力的にこの問題に取り組み、全日制への単位制の導入(昨年六月)、高校入試の多様化(同八月)、業者テストの追放(本年一月)と三次にわたる提言を行い、今回第四次の提言を以てしめくくりとした。
 こうした流れの背景にあるのは、準義務化しいわれるまでに普及した高校教育、それに伴って起きた必然的ともいえる不本意就学、中退、受験戦争、教育困難などの広範化、深刻化であり、さらに小子化に伴う該当年齢層の急減から起きた生徒確保競争の激化である。
 報告に盛られた新しい総合学科では、卒業に必要な最低単位(八十)のうち必修を三十五単位以上、準必修を六−十二単位、残り選択科目を三十九単位以上として幅広い科目を開設する。例示された選択科目として情報、伝統技術、芸術、環境科学、国際協力、福祉サービス、体育・健康などが挙げられており、生徒は自らの進路や関心に応じて科目を選択する。また学年を超えて履修できる単位制を原則とし、他校や専修学校で学んだ単位を認め、中退者や転校生を積極的に受け入れる。
 偏差値的学力を押しつけ、またそれを基準に生徒や高校を序列化することから起きる弊害を除去しようとするねらいが、ここに強く込められている。このねらい自体を否定する人はいないだろうが、これを 合学科創設によって実現するためには、あらかじめ検討すべき課題も多い。
 何も総合学科に限らない。教育では「後悔先に立たず」で後から取り返しがつかない場合が多いから、シミュレーションというか、アセスメントというか、事前予測が特に必要だ。
 
◆学校の大規摸化が進む
 まず第一に総合学科創設の前提自体に検討すべき問題がある。総合学科は高校入学時に大学進学か就職か、またその就職の中でも工業、商業、農業などを選ばせることは早すぎるから、高校に入学してからじっくり進路を選べるようにするため設けられる。
 しかし現実には大学進学を早くから希望している生徒が多い。進学に不利な職業科が敬遠されるとともに、「偏差値」で不本意にも職業科に入学する生徒が増えるゆえんだ。そこで総合学科はその柔軟性ゆえに、希望進学先毎の入試に有利な科目を用意するし、生徒はそれを好んで選択するようになる。そうなると現在の普通科以上に進学準備コースになり、全人教育の理念に逆行する恐れが出てくる。
 他方、生徒の進路、興味、能力、適性などは高校の大衆化に比例して、ますます多様化するから、それに対応する科目を十分に提供しようとすれば、教員、教室、設備など、いくらあっても足りないし、学校は大規模化せざるを得ない。
 それは上に挙げた科目例からも明らかだ。そこで総合学科といっても一校で提供できる選択科目は限られるので、数校が連合する必要が出てくる。米国のコンソーシアム方式はこれに近い。そうなると生徒は転々と複数の高校を歩きまわらなくてはならないし、学校は生徒の指導や他校との連絡に苦労しなくてはならない。
 毎学期、毎学年毎に生徒の選択科目は変わってくるので、高校側は予めカリキュラムを作成することが困難だし、学年制の代わりに単位制が徹底するなら、ホームルームを基礎とする生徒指導も困難だ。
 また中退や挫折を防ごうとするあまり、単位取得に容易な科目や生徒の興味を引きそうな科目を数多く提供するなら、生徒は易きについて楽で楽しい科目ばかりを選択するので、キャフェテリア方式といわれる米国の高校のように、全般的な基礎学力低下を招く恐れもある。
 
◆複雑で困難な問題山積
 実際に総合学科を創設しようとすると、次のいくつかのケース、シナリオが想定される。第一に既設の高校の中に普通科ないし職業科と並んで、総合学科を新設する場合。第二に複数の高校(恐らく主として職業高校)が連携して単位互換を行う場合。第三に職業高校を全面的に総合科高校に改組または統合する場合。そして第四に全く新しく総合学科のみの高校を作る場合。どれをとっても上に指摘したような多くの複雑で困難な問題がある上、私立高校の存在、中学校の進路指導、大学の入試体制など、さらにクリアしなくてはならないハードルがある。前途は必ずしも楽観を許さない。(しんぼり・みちや)
◇新堀通也(しんぼり みちや)
1921年生まれ。
広島文理科大学卒業。
広島大学助教授、広島大学教授、広島大学教育学部長を経て、現在、武庫川女子大学教授。


 
 
 
 
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