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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/08/28 産経新聞朝刊
【正論】武庫川女子大教授 新堀通也 吟味必要な日教組の路線転換
 
◆「教育界の最大の不幸」
 新しく打ち出される方針や政策はすべて保守反動、能力主義の差別選別だとして絶対反対、断固阻止、徹底粋砕を叫び、大量動員、スト、「団交」、ツルシ上げなどの戦術をかまえて戦ってきた日教組が俄かに柔軟路線、現実路線、対話路線を取り始めた。
 今年四月、「21世紀ビジョン委員会」は、これまでの文部省、自民党、財界などとのイデオロギー的対立を「五五年体制が教育界にもたらした最大の不幸」ととらえ、今後は文部省の教委と教育改革のためのパートナーたるべきと提言したが、日教組はこのほど、この線に沿った九五年度運動方針を発表した。
 文部省吉日教組という戦後五十年、教育の基本的わく組となってきた対決の構図を、一方の当事者たる日教組自らが書きかえようとしたのだから、文部省はもとより、各方面から歓迎されているようだ。しかしこの方針が額面通り実行されるかどうかは楽観できないし、いくつか確認、吟味しておかなくてはならないこともある。
 まず変革の時間差の問題。文部省対日教組の対立はイデオロギーでいえば自由主義対社会主義の対立であり、それは国際的には冷戦構造、国内的には五五年体制に支えられてきた。国際的な冷戦構造の終焉をもたらすには二年以上の時間差を必要とした。この政界の変革(それは今後も政党の再編成や無党派層の増加として継続するだろう)が教育界に波及して、今回の日教組の方針転換となるには、さらに一年あまりを必要としたのだ。
 臨教審は日本の教育を「追い付き型」と許したが、それをもじっていえば日本の教育は政治の後を遅れて追いかけていることになる。それだけに先見性や自主性に欠けるといってよい。
 今回、日教組は五五年体制の終16095に対応して方針転換したというのだから、今後また社会党が政権から離脱した場合、社会党自体、もとの抵抗政党となり、その支持母体であった日教組も方針を再転換するようにならないとは限らない。今回、発表された九五年度運動方針案が、単年度限りの便宜主義的、一時しのぎの延命策でないことを期待したい。
 
◆欠ける先見性と自主性
 しかし変革の時間差が中央と地方との間に存在することがさらに問題だ。中央にいて現実の状況変化に通じ、教育界以外のリーダーたちとも交流のある本部の役員と、地方の末端で運動一すじに打ち込む活動家との間には大きな差がある。実際、運動は末端現場になればなるほど激烈で、活動家はそれだけ相手から恐れられる程度、自らの力を確認する程度が大きい。「組合理管」の学校における校長がいかに情けない立場におかれているかは、知る人ぞ知っている。地方の指導者は中央の指令に忠実に従い、激しい運動に挺身して、それなりの生きがいを感じてきた。
 その中央が一転して柔軟路線に転じるなら、ハシゴを外され裏切られたと感じるかもしれない。「物分かり」のよい中央の方針が、ひたすらに突き進んできた地方に本心から受け入れられるには、大きな時間差、またそれに伴う葛藤や混乱が存在するにちがいない。
 社会党が政権に参加、首相の出身母体となり、「連立政権維持のため」、「村山首相を支えるため」、今までの主義主張をあっさりと変えた結果、現実に批判的な有権者の社会党ばなれが起きたが、同じような現象は教育界にも起こり得る。現在の教育に批判的な教員が日教組を支えてきたが、その日教組が現実路線に転じるなら、彼らの受け皿、拠りどころは、残された唯一の抵抗政党たる共産党系の組合しかなくなってしまうだろう。また路線転換にあくまで反対する少数の教員は、ますます団結して過激派を結成するかもしれない。
 今回の方針案で大きく取り上げられ、また注目されたのは、日教組が今まで重点的な標的としてきた職員会議、学習指導要領、初任者研修、主任制の是非や在り方についての妥協や譲歩である。
 
◆基本原理どこまで修正
 しかしより大きな問題は、そうした具体的な項目ではなく、それらについての要求を支える基本的なイデオロギーである。端的にいえば社会主義、極端な平等主義、反能力主義、反自由主義、反資本主義、体制悪・国家悪の思想、反米などの原理をどこまで修正したかという問題だ。最もホットな問題たる国旗国歌の扱いは結論を避けて通っている。こうした原理を明確にしない限り、個別の項目の変更だけではら単に戦術にすぎないという疑問が残る。
 日教組は相手陣営に「確認書」「自己批判」「総括」を要求し強制するのが得意だった。過去の不毛な対立を単に五五年体制の結果だとして、責任転嫁することなく、冷静に自らの過去の功罪を総括し、人権無視的な過激な戦術は今後一切採用しないこと、子どもを運動の手段として利用しないことなどを「確認」することが最小限必要であろう。さもなければ改革のパートナーとして信用されまい。日教組のイデオロギー的闘争を理論的に支え、あおり立ててきた学者や評論家も「総括」が必要だ。(しんぼり・みちや)
◇新堀通也(しんぼり みちや)
1921年生まれ。
広島文理科大学卒業。
広島大学助教授、広島大学教授、広島大学教育学部長を経て、現在、武庫川女子大学教授。


 
 
 
 
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