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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/10/28 産経新聞朝刊
【正論】元駐タイ大使 岡崎久彦 日本を覆う日教組世代の弊害
 
◆まだ何かを諦めていない
 教科書問題についての、西尾幹二、藤岡信勝両先生の『国民の油断』を読んだ。その問題意識は、「かつての反体制勢力がまだ何かを諦めていない。自分を変えていない。彼らはマルクス主義の旗を振れない代わりに、日本を侮辱する論調のなかに自分を化身し、いま果てしなく過激になっている。国民は一般に油断しているので、その危険が見えない」という事にある。
 たしかに、日本に自らの歴史を否定させようとしたスターリンが死んで半世紀近くになり、そのソ連邦も崩壊して五年経った今、教科書に慰安婦問題がはじめて記述されるというのは不思議な現象であり、反体制派の「過激化」という表現があてはまるかもしれない。
 しかし、かつてソ連共産党がテーゼを作り、日本の左派系の政党、マスコミがそれに従って行動したように、どこかに反体制派の秘密の牙城があって、そこから指令を発しているという感じもしない。何か、まさに「国民の油断」というか、過去の惰性がしまりがなくチェックもなく肥大化しているという感じである。
 結論から言うと、こういう現象が起っている原因は二つあると思う。第一は古き良き時代の人々が遂に居なくなってチェック機能が無くなってしまった事と、第二に、日教組教育が教育した本人達はほとんど考えを変えてしまったのにその教育を受けた世代、中でも全共闘世代が今の社会の各層に広汎な影響力を持ち始めているという事である。
 ここで私は敢えて世代論を書かねばならない。もとより人間はそれぞれが育った家庭、社会環境が異るものであり、一概に論じられないものであるが、世代論はそれを一括して論じるのであるから大変失礼な話である。何度も繰り返して申し上げたいのは、一般論には必ず例外があるという事であり、とくに、この欄の読者は例外の方が多いのであろう。
 古き良き時代の人というのは生きていれば現在90代から上の人である。戦後の日本の復興と繁栄を指導した岸、池田、佐藤、財界では土光の世代であり、外交では下田、牛場がその世代の最後の人達になる。
 その次の世代は70代、80代の人であり、戦前の教育と教養をフルに身につけたが、その後で戦争に行った人々である。軍隊教育は個性を没却する事を教える。私事にわたるが、私のようなおっちょこちょいが最も苦しんだのは「ひとと変った事をするなよ」「自分はひとと違う人間と思うなよ」というこの世代の人達の信条であり、屡々助けを求めてその上の世代の下に逃げ込まねばならなかった。
 この世代の人々が戦後日本の猛烈社員となって、日本復興のために身を粉にした功を過小評価するわけではないが、この人達が「戦争を知っている」と信じている事が戦後の日本思想に大きな弊害を残している。
 たとえて言えば、この人々は、つぶれそうな会社に入って下積みの辛酸を嘗め、課長にいたる前に会社がつぶれた人々であり、こういう人達に会社の経営を聞いても、わかるわけがない。会社というものは辛いものだという事しか知らない。
 愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ、という。戦争の事は歴史をきちんと勉強した若い世代の方がよほど良くわかっている。しかし、ある若い人は「反戦主義はおかしいとは思っていたが、戦争を知っているという人達がそう言っているという事実が最後まで心にひっかかっていた」と言っていた。真に戦争を知っているそのもう一つ上の世代に接する機会を奪われた世代の人のハンデである。
 日教組世代は教科書に墨を塗った昭和9年生まれ以降、大学紛争以降入学した世代までほぼ15年にわたる。それがまさに現在45歳から60歳という、日本社会の実権派の年代にあたる。昭和57年の宮沢官房長官談話の時に烈火の如く怒った文部官僚が、今度の慰安婦問題では「まあ仕方がない」という程度の反応だという事、自嘲の笑みを抑えながら答弁していた法制局長官が今は大真面目で「集団的自衛権はあるがそれを行使する権利は無い」などと言っているという事実はこの世代的背景以外に説明のしようもない。そして、それを叱る世代はもう生きていても90以上となって実力がないのである。
 
◆ふしぎな世代ここに誕生
 ここで昭和一桁という不思議な世代がある。徴兵は大正15年生まれまでであるからこの世代は兵隊教育も受けていないし、日教組教育も受けていない。戦中戦後の混乱期であるから無教育世代と言われても一言も無いが、自分の考えで自分の読む物を選ばなければならなかった世代である。現在の言論界のほとんどがこの世代で占められているのも決して偶然ではないのであろう。もちろんその下の世代にも屹然として時流に流されず自らの思想を持つ人々も居られる。
 私自身昭和一桁なので、我田引水の非難は百も承知の上で、覚悟して申し上げる。もう叱ってくれる人も頼るべき先輩も居ないのだ。われわれの世代が責任を自覚して頑張り続け次の日教組世代の中に点在する点と線を大事にしつつ、その後の世代につなげられれば、そこで初めて、日本は戦後の蒙昧さから最終的に脱する事が出来るのであろう。(おかざき・ひさひこ)
◇岡崎 久彦(おかざき ひさひこ)
1930年生まれ。
東京大学法学部中退。英ケンブリッジ大学大学院修了。
東大在学中に外交官試験合格、外務省入省。情報調査局長、サウジアラビア大使、タイ大使を歴任。
現在、岡崎研究所所長。


 
 
 
 
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