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2001/09/28 産経新聞朝刊
【第二部 学力低下は誰のせい】いま学校は(12)教師は労働者
 
◆子供を忘れ、権利の大合唱
 今年七月中旬。大阪・豊中市教委は、夏休み中の教員の「日直」を例年の一人から二人に増やすよう市立小学校長会に要請した。池田市の大教大付属池田小学校の児童殺傷事件を受け、子供たちの安全を確保するための措置だった。
 六月八日の事件発生からまだ一カ月余り。保護者や子供たちの不安はまだぬぐえていない。そんな時期、積極的に取り組んだ学校もあったが、教員が反対した学校も複数あった。
 「日直が一人増えても、事件の発生には対応できない」「あんな事件はもう起きない」
 こうした反対で、一校が二人体制を組めなかった。また、複数の学校関係者は「教員全員が協力している学校は一部。数人の協力で『二人体制』と報告している学校もある」と明かす。ある校長は「本来は休みではないのに、教員は夏休み中、『自宅研修』として学校にこないことが認められてきた。『研修』の実態はだれにも分からない。その権利を侵害されたくない教員が多い」と話す。
 
 《労働者が生き生きと働くための諸権利(年休・生休・病休等)については、いたずらにこれを妨げないこと》
 今年四月、福岡県内の公立中学校で、日教組加盟の福岡県教職員組合の分会(学校単位の組合組織)が校長に出した「民主的な学校運営に関する要求書」の一節だ。
 文書には《勤務条件に関することは、労使間の合意を得ること》《定時退校日を設定し、実施できる体制をとること》など、権利の要求が二十項目近く並ぶ。
 前文には《私たちは、常に子どもを中心に据え、子どもと共に歩む姿勢を忘れず…》と述べられているが、要求内容に「子供」が出てくるのは《子どもの権利条約を十分に踏まえ、完全学校五日制の趣旨を理解し、実現に向けゆとりある教育に努めること》という項目だけだ。
 「自分たちの要求を通すために『子供』を利用しているだけ」と地元教員。「『労働者』という言葉を使うのは教育労働者運動のなごりだ」
 
 日教組は昭和二十七年に定めた「教師の倫理綱領」で、《教師は労働者である》と宣言し、スト闘争などの「教育労働者運動」を続けてきた。
 要求書には、こんな項目もある。《これまでの職場慣行を十分に尊重すること》
 四月に三重県教職員組合(三教組)は、過去の勤務時間中の組合活動で約八億円を寄付することで県教委と合意した。
 勤務時間中の組合活動は地方公務員法で禁止されている。平成十一年秋に問題が表面化すると県教委は違法な活動分の給与返還を求める姿勢を打ち出したが、90%以上の組織率がある三教組の抵抗は強かった。
 組合側は「子供たちの教育に寄与する活動もあった」「長年の慣行だった」と反論した。合意当時の鈴木逸郎・三教組委員長も「長い間の教育界あげての慣行で、かつてはそれが許されていた」と述べた。
 結局、「地公法違反ではなかった」「給与返還ではなく寄付」という玉虫色の内容で三教組と県教委が合意したが、県教育委員の一人は「先生が教室におらず、子供が放置されていたということ。『三十人学級の実現』などと主張する以前の問題だ」と憤る。三教組側の正式な謝罪表明は、ないままだ。
 「教師の倫理綱領」は平成八年、日教組自身が「歴史的文書」と位置づけた。が、この間に「聖職者」という戦前からの教師観は一掃された。プライベートを優先し、クラブ活動の顧問を拒否したり、休日の地域活動や保護者との接触を避けたりする教師も増えた。
 豊中市のある小学校長は言う。「自分たちの既得権の問題がからむ指示には無条件に『反対』。子供のことなど、どこかにいってしまっている」(教育問題取材班)


 
 
 
 
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