日本財団 図書館


2001/09/29 産経新聞朝刊
【第二部 学力低下は誰のせい】いま学校は(13)学校の情報公開へ
 
◆教員の評価システム構築
 「あれだけ省幹部が全国各地を回ったことはかつてなかった。画期的なことだよ」
 文部科学省の寺脇研審議官は野太い声で話し出した。学校内での業者テストの廃止などに取り組み、「ゆとり路線」推進の中核的存在とされる人物だ。
 寺脇審議官が「画期的」と言うのは、今年初めに文科省が発表した「教育新生プラン」の説明と意見聴取のために、省幹部が手分けして二月から七月まで全国八十カ所を回った「教育改革全国行脚」のことを指す。
 各会場に集まったのは地元の教師、教育委員会関係者、保護者など地域の人々、そして子供たち。「ゆとり教育」の推進者として、ときには学力低下の「元凶」とまで批判されることもある寺脇審議官がどんな対話をしてきたか、興味のあるところだ。
 
 「現場の声は、だいたいどこでも同じだった」と寺脇審議官は話す。
 「一つは、教師のレベルが低いというペシミズム(悲観主義)。もう一つは、そういう教師を放置し、むしろ守ってきた文科省の姿勢への批判。で、それはその通り、と僕も思う」
 学習指導要領そのものを非難するようなムードは、保護者らからはほとんど感じられなかったという。
 「(新学習指導要領の)三割減というのは、規制緩和なんです。これまで十割教育内容を規制してきたとすれば、三割については、学校や教師の判断で自由にしていいよ、と。決して、三割勉強量が減るということではない」
 その三割で、例えば総合学習として、それぞれの教師のアイデアや、子供たちの事情に基づいた授業を実現させる。
 あるとき、新しい教育についてそんなふうに子供たちに説明した寺脇審議官に対し、子供たちは言ったという。
 「本当にそうなれば、すごくおもしろそう。でも、今の僕らの先生じゃ無理だな」
 全国行脚に出席した別の幹部も言う。
 「現場の教師から出るのは、『では、どうしたらいいんですか』という質問ばかり。『それは、先生がやりたいことをやったらいいんです。省は口出ししません』と言ったら、困ったような顔をしている」
 
 そんな声に対して、文科省は今回の教育改革で、どんな対策を取ろうとしているのか。
 教育改革国会と位置づけられた通常国会で、文科省は指導力不足教員の教壇からの排除を可能とする法律改正案を成立させた。さらに、学校評議員など学校の評価システムの導入も進められている。
 寺脇審議官は「規制緩和は情報公開とワンセット。自由にさせる分、結果はきちんと公開する義務が生じる。これまで、学校現場を密室のままにしていたから、文科省も(教育改革について)歯切れが悪かった。不適格教員の排除を明言し、情報公開を義務づけることによって、教師のレベルアップの素地は整った」と説明する。
 不適格教員の排除については、教職員組合など一部から「管理職の思いのままに教師をコントロールしようとしている」などと批判が続いているが、寺脇審議官は「がんばれば認められるということで、やる気のある教師はむしろ歓迎している」と意に介さない。
 「教師のレベルが低いというが、もともとレベルが低いのではなく、学校という閉鎖社会で、競争のないぬるま湯社会につかりきっていることが問題だった。だとすれば、教師の評価システムが機能するようにする必要がある。今後は、評価そのものが、地域の判断にゆだねられるということです」(教育問題取材班)


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION