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1993/12/19 産経新聞朝刊
【主張1】高校の改革は進んでいるか
 
 高校受験事情への関心が例年になく高い。偏差値追放だけでなく、入試方法が変わったり、新しい学科や制度が誕生したりと、変化が激しいためだ。受験生が動揺することなく、安心して試験に臨めるよう、学校関係者は的確な情報提供に万全を期してほしい。
 高校は個性尊重・創造性重視の教育に向けていろいろな施策が打ち出された。自分の興味や関心、適性に合う科目を選んで学べる総合学科の設置、単位制の拡大、他の高校の授業で単位がとれる学校間連携などがある。
 入試制度の改革では、推薦入学、受験機会の複数化、特定教科の配点に比重をかける傾斜配点、調査書の充実など多様・多元化の推進がある。こうしたことが来春からどの程度行われるのだろうか。文部省の全国調査を見ると、公立高校の実情がほぼつかめる。
 改革のパイオニア的役割を担う総合学科は、来年四月から国立一校を含めて七校に登場する。このうち三校は普通科などを改編し、総合学科一本に衣替えする。普通科、専門学科に次ぐ「第三の学科」としての位置付けでは、新たな序列化を招く恐れがあるだけに、このやり方は高く評価したい。
 総合学科の設置はもともと、「普遍的で根源的な人間理解・文化理解に立って、物事を総合的に理解する能力が求められる」(高校教育改革推進会議最終報告)という理念に基づくものだ。とすれば、総合学科一本化への改編が急がれるのではないか。
 入試改革では、これまで専門学科中心だった推薦入学が普通科へ拡大し、全日制の全校で実施する自治体が八県と倍増した。受験機会の複数化、調査書と学力テストの比重の置き方の弾力化、学力テストの傾斜配点も実施する自治体が増えた。目立つのは調査書の見直しで、関心や意欲などをみる「観点別学習状況」の欄を設けたのが今年度の六県から一気に三十九県に増えた。ボランティア活動歴など、学習以外の記録を充実させたところも多い。
 生徒の能力を多面的にとらえ、評価する工夫、努力は今後も大いに続けてもらいたい。ただ、評価に客観性を追求するあまり、学力テストと同様に、何もかも点数化することには問題がある。“いい子ぶりっ子”“にわかボランティア”を生むことにもなる。
 教育の改革はモグラたたきのような側面もある。また、反発や反作用を伴うことが多い。だが、これに惑わされると、真の改革は望めない。高校改革はこれからが正念場だ。基本理念を忘れず前進してもらいたい。


 
 
 
 
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