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1994/02/01 産経新聞朝刊
【主張2】新しい潮流に揺らぐ教師
 
 教育現場はいま、戸惑いと苦悩に満ちている。文部省からの矢継ぎ早の施策に的確に対処できないからだ。神戸市で開かれた日教組教研全国集会を見て、このことを改めて痛感した。
 学校五日制、脱偏差値、高校入試の多様化など、個性尊重、創造性重視を狙った施策が次々と打ち出された。これにたいする現場の分析や対応は不十分で、実践活動の方向性すら見失いそうなありさまだ。長年、行政にたいして条件反射的に反対したり、実践の担い手としての主体的な取り組みを怠って“指示待ち先生”に陥ったりしたことがおもな原因ではないだろうか。
 教育の新しい流れは、学力に、知識の量だけでなく、思考力や判断力、学ぶ意欲などを含める新学力観に基づいている。したがって、高校入試では、この学力観による評価として「観点別学習状況」の欄を調査書に設ける自治体が大幅に増えた。しかし、教研集会では、これを否定または批判する意見が続出した。「指導に必要な資料としての指導要録と合否判定の資料としての調査書の違いが考慮されていない」「評価の客観性、公平性は確保できるのか」「チェックのための授業になり、生徒一人ひとりの顔や心が見えなくなっている」「評価を意識した“いい子ぶりっ子”が増える」・・・。観点別評価には実践面で克服すべき課題が多いのは事実だ。といって、評価のよりどころである学力観まで否定できるのか。掘り下げた議論はなかった。
 評価自体の全面否定は偏差値選抜の現状を容認することになり、入試改革は前進しない。教師集団が守旧派と見られても仕方がない。
 意欲や態度といった人格にかかわる評価が難しいのは確かだ。厳密さを追い求めると、評価のための評価という弊害を生む。百パーセントの公正性、客観性の確保は不可能であるうえ、評価の絶対的な要件ではない。主観的評価でいいのではないか。生徒を見る「温かで確かな目」があれば、生徒や保護者の納得は得られるはずだ。高校入試は生徒の能力を多面的にとらえて、良いところを積極的に評価するという、より生徒の側に立った柔軟な選抜を志向している。この視点に立てば多くのことが解決するのではないか。
 学校五日制については、真剣な取り組みの事例が報告された。文部省は教育内容精選の作業に直ちに着手すべきだというのが現場の切実な声である。
 教育改革には行政と実践現場のキャッチボールが大切である。双方に主体性と柔軟性を期待したい。


 
 
 
 
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