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1993/06/21 産経新聞朝刊
【主張1】参加路線定着しない日教組
 
 教育改革を目指して次々と新しい施策が打ち出されている。これが実を結ぶかどうかは実践にかかっている。教育での実践の大切さはだれもが痛感している。だからこそ、父母や世間は教師の力量や、その集団の考え、行動に関心を示し、あるいは少なくとも無関心ではいられないのだ。組織率の低下が目立つとはいえ、最大の教師組織である日教組の動向は無視できない。
 日教組が「参加・提言・改革」へと路線転換を図ってから三年になる。この路線は定着したのか。大阪で開かれた定期大会はこれを検証する場だった。新しい路線はイデオロギーによる体制選択論でなく、民主主義・平和・人権・環境など普遍的価値を具体化する政策を提案して、国や自治体の政策決定の過程に参加し、実現を図っていく運動論を基本にしている。世界史的な時代変化に対応したものといえよう。
 大会の論議を通じていえるのは、路線の認識や運動の実態にばらつきがあることである。横山委員長は「学校五日制実施や業者テスト追放、偏差値教育是正などは文部省の上からの改革であるとして後ろ向きに対応する態度が一部に見られる」と批判し、自己変革を促した。代議員からは「参加するが、提言せずではないか」「参加・陳情にになってしまう」「文部省側にすり寄るだけで、相違点や対立点の明確化を避けている」などと、執行部への厳しい批判が相次いだ。
 「文部省」とくれば、「反対」「粉砕」と条件反射するだけの「思考停止型」の組合員がいまだに存在することも事実だろう。一方、組合中央は文部省の施策への的確な分析や評価、対応を欠いているうえ、教育政策決定にどのようにかかわっているかを明らかにしていないのが実情である。
 いくつかの県教組では、保護者や県民との対話、教育委員会やPTA団体などとの協議の中で、着実に実績を上げている。最近では文部省の教職員重点配置計画で、現場の実情や意向に沿った増員が実現している。しかし、自治体レベルでは限界がある。日教組全体として参加型路線を定着させる必要があろう。学校五日制、偏差値教育是正、創造性・個性重視の教育などは、文部省と日教組が一致する点である。しかし、実践段階では矛盾や難問が山積しているのも事実だ。組合は教育現場の生の声や意見、提案を行政に反映させることが大切である。紋切り型の闘争至上主義が通用しないのはいうまでもないが、きれいごとを言っていては、世の中の支持は得られない。


 
 
 
 
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