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2003/11/05 毎日新聞朝刊
[社説]政治が動く 教育改革 もっと磨きをかけないと
 
 各党の教育に関する政権公約は、年金や外交などの懸案事項に比べてかすんで見える。争点にはなりえていないように映る。教育は本来、自治に属する分野であり、国政選挙にはなじみにくいという要素はあるが、公約そのものがあいまいで、判断基準となるほどの内容になっていないことが最大の理由ではないか。
 自民党は「教育基本法の改正」を教育公約のトップに掲げた。中央教育審議会は今春、基本法の見直しを求める答申を出した。党文教族の長年の悲願である基本法改正の機は熟したと見たのだろう。
 ただその中身は「公徳心と公共の精神、国を誇りに思う心が自然と身につくような教育の実現をめざす」「家庭・地域の教育力回復にとりくむ」とあるだけだ。中教審答申は、憲法の精神にのっとった現行基本法の理念は普遍的なものとして継承すると明記した。だが、自民党公約は基本法の評価には触れず、どこをどう変えるのかもよく分からない。論点になってきた「愛国心」(中教審答申では「郷土や国を愛する心」と表記)は、「国を誇りに思う心」になったが、その違いも判然としない。
 与党では、保守新党は「基本法改正」をうたったが、公明党は触れなかった。党首討論会で神崎武法代表は「国民的議論を巻き起こしながら、与党3党で結論を出したい」と慎重姿勢を示した。与党間で基本姿勢に差がある問題の一つだろう。逆に言えば、公明党の独自性を示すのにふさわしいテーマになるかもしれない。
 野党では、共産党と社民党が明確に改正反対を打ち出した。しかし、民主党は公明党同様、触れなかった。党首討論会で菅直人代表は「いろんな議論が我が党にもある」と集約しきれていないことを認めた。「基本法が間違っているから今の教育がおかしくなったとは思っていない」とも述べたが、今現在、自民党の言う改正が緊急課題か否か、という程度の認識は明確にしてほしい。
 民主党が教育問題のトップに挙げたのは、「小学校の30人学級の実現と学校の週5日制の見直し」である。30人学級は望ましいが、「学校週5日制の見直し」はどうだろう。目指すところは「学力の回復」「親の不安解消」のようだが、週5日制の見直しが「学力」の回復につながるというのは、いささか短絡的なのではないか。
 低下が深刻な「学力」は、考える力であり勉強する意欲である。知識量、スピードを重視する従来の画一的な詰め込み型の学校教育によるゆがみが限界に達したとの判断から、生きる力、考える力をつちかう教育への転換が図られた経緯がある。果たしてどこまで精査しての提言か、疑問が残る。
 一方、自民党の「知育、徳育、体育、食育による人間力の向上」との提言もあまりに抽象的だ。
 投票の判断材料となるマニフェストにするには、もっと磨きをかけてもらわなければならない。


 
 
 
 
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