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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/07/04 毎日新聞大阪夕刊
広島・尾道市の民間人小学校長自殺 直視すべき教育行政の退廃
 
 99年3月、広島県立世羅高校の石川敏浩校長が自殺してから4年。今度は、尾道市立高須小学校の民間人校長が自殺した。4年前と同じく、当事者である広島県教育委員会は専門家による客観的な調査に委ねることなく、一面的な報告書を出した。そのため結論は、前もって決まっていたかのように今回も同じである。「校長権限が制約されており、今後も校長権限に基づく学校運営を指導していく」と結んでいる。
 だが、報告書には明らかに嘘(うそ)がある。就任して1カ月半もたっていない昨年5月13日、「慶徳和宏元校長は今後の学校運営の不安と心労が重なり、病院で診断を受けた結果、情緒不安定であり、休ませてほしいと市教育委員会職員に相談している」、ところが「がんばっていただきたい旨を伝えたところ、慶徳校長は理解され」と書いている。これは慶徳校長死亡の3日後にあった尾道市議会予算委員会での市教委の説明を繰り返している。その後の記者会見でも、県教委教職員課長は「明らかに病気になって、診断書が出てくれば休ませることになる」と答え、そうでなかったと否定している。
 それに対して私は、前銀行副支店長として長年勤務してきた人が、自分のことを情緒不安定と呼び、診断書も出さずに「休ませてほしい」と言うはずがないと指摘した。後日、追及されて、「報告書や会見ではプライバシーに配慮し情緒不安定とした。病院で中程度のうつ状況と説明を受けていた」と疾患を認識していたことを認めている(本紙6月22日)。「うつ状態」よりも「情緒不安定」が、プライバシーを配慮することになりはしない。
 こうして精神医学用語に無知なるが故に、「明らかに病気になって」いるとは知らなかったという嘘は露見したにもかかわらず、なお診断書は出ていないと、次の嘘を保持している。だが身近な人たちの話によれば、慶徳さんは5月13日午前11時、市教委の教育長に会った後、精神科を受診し、抑うつ状態で1カ月の休養を要すとの診断書を受け取り、再度教育長らに会って休職を求めたが、聞き入れられず、抑うつ状態の診断は秘密扱いにされたという。そもそも、これまで管理職にあった人が診断書もなしに長期間休めると思うはずがない。また校長から休職を求められた場合、上司は診断書を求めるのが常識であろう。その後慶徳校長は、抗うつ剤や睡眠導入剤をのみ続けても疲弊と無力感が増大する、悪循環に陥った。
 いかに通達と命令による教育行政がすさまじいかは、尾道市教委が昨年度学校へ通達した文書が1567件、うち約370件について報告を求めた、と答えていることからも分かる。校長・教頭は文書によって動く教育委員会の手下と見なされ、教師は「書類さえ上手に書けば、授業などどうでもいいのか」とうめいている。通達文書に振り回され、超過勤務時間も増え、同校の教頭の超過勤務は8月の100時間を除き、月平均176時間にもなる。慶徳校長もそれに近い勤務を強いられていたことであろう。こうして慶徳さんは自殺し、教頭は心筋こうそくに倒れた。
 厚生労働省は昨年2月、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」通達し、月100時間を超える時間外労働を行わせた場合は脳・心臓疾患の発症との関連が強いと判断し、過重労働による疾病が発生した場合、「司法処分を含めて厳正に対処する」と言っている。1年間すべての月で100時間を超える超過勤務は犯罪の犯罪である。その上、本人の病気を認めず、県教育委員会報告および市教育委員会報告の公文書において病名の認知を隠し、マスコミに嘘を言い続けたことは証拠隠滅に当たる。しかも、自殺の原因の一つに、教員による校長批判をあげ、多数の教員を転校させたことは、権力犯罪である。教育行政の退廃を直視することなしに、教育改革はあり得ないことを事件は教えている。
(のだ・まさあき=京都女子大教授、精神病理学)


 
 
 
 
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