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2000/05/24 毎日新聞朝刊
[社説]少人数学級 21世紀も40人で持つのか
 
 公立小中学校の学級編成の在り方などについて文部省の協力者会議が先日公表した報告は、現場から強い要望の出ている少人数学級を退け、現行の40人学級を維持するものになった。教科別の少人数授業を打ち出すなど、苦心の跡はうかがえるものの、小手先の改革という印象は否めない。先進国の中では異様に多い40人学級を21世紀も貫くという重大な選択をしたにしては、報告の根拠は薄弱で、説得力に欠ける。
 いじめや不登校、学級崩壊、考える力の低下など、学校教育の問題現象は近年深刻化している。さまざまな要因が複合した結果ではあるが、新しい時代においても40人のままで対応可能なのか、もっと具体的なデータに基づいた本格的な議論が必要だ。文部省には再検討を求めたい。「教育改革国民会議」にも、積極的な取り組みを期待したい。
 公立小中学校では、法律で40人までは1学級と決まっている。報告はこの点は現行通りでよいと認定。ただ都道府県の判断で、例えば県内一律に30人学級とするのも、低学年のみ少人数とするのも可能とした。また学級のとらえ方の見直しを提言。生活集団としての機能を主とし、学習集団としての機能は柔軟に解釈して、学級単位にとらわれないグループ別の授業の設定を推奨した。
 文部省は報告をもとに向こう5年間の定数計画に取り組む。少子化による教員の自然減(約2万数千人)を維持し、非常勤講師の配置や県レベルの努力で、国語、算数・数学、英語などは、20人程度の学習集団による授業が可能になるという。
 しかし、実現するには、都道府県の相当の覚悟が必要だ。また市町村レベルで独自に非常勤講師を採り、事実上の少人数学級にするところが最近増えてきているが、今回の措置では、市町村の財政負担は軽くはならない。先行きは不透明だ。
 きめ細かな指導を実現するもっとも単純で確かな方法は、40人の削減である。報告は、40人学級維持の理由として「子供の社会性を育成し互いに切磋琢磨(せっさたくま)する場として、学級は一定の規模が必要」「学級規模と学習効果の相関関係には定説的見解がない」などを挙げた。だが、なぜ40人なら社会性は育成され、30人ではダメなのか。少人数の方が、学習効果が上がるという研究もある。
 結局は、財政問題なのだろう。全国一律に30人学級を実現するには、12万人の教員が必要で、年間1兆円かかるという。厳しい数字だが、例えば低学年から先行させ、負担の軽減を図るなど工夫の余地はある。
 欧米は30人以下がほとんどだが、米国は小学校低学年を18人学級にする計画を示し、欧州各国もさらに減らす方向だ。国家的戦略として、次代を担う人材育成に予算配分を優先する選択をしているのである。
 40人相手の画一的な一斉授業は、知識詰め込みの発展途上国型教育に適応したスタイルだ。マニュアルを記憶し、こなす人材は量産できるがそれだけでは国際化、情報化が進む21世紀には持たない。多様な個性を認め、生かしていく社会の構築が求められるこれからの時代は、子供一人一人の個性と能力を引き出し、開花させる教育への転換が必要だ。少人数学級は、そのための有力な手がかりであり、できる限り、実現を目指す方策を探るべきである。


 
 
 
 
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