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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/01/13 毎日新聞朝刊
[社説]教育 第三の改革に筋道を――画一システムの転換目指せ
 
 「いま、教育改革が必要だと思う」と考えている人は、86%に達していることが、毎日新聞の教育問題全国世論調査で分かった。学校に通う子供を持つ世代の30代、40代では90%を超えている。教育改革を求める切実な声を、重く受け止めたい。
 近代日本の教育制度は、明治維新によって始まり、敗戦で大きく変わった。その後、何度か「第三の教育改革」がうたわれたことがあったが、基本的な構造が変わるまでには至らなかった。しかし、抜本的な教育改革が必要との認識は、ここにきてかつてなく広がっている。
 世論調査では、「教育改革が必要」とした人に、「どの点を改める必要があるか」を聞いた。「入試制度」「しつけ・道徳教育」「教員の資質」の3項目が特に多かった。教育改革の方向性を示しているように思う。
 現行教育システムの特徴は、画一性と硬直性にあるといえるだろう。そして、そのシステムの中核にあるのが「入試制度」なのだ。
 いま、子供たちは、良い会社に入って幸せな人生を送る、という同じ目標を目指し、同じレールの上で、スピードと、知識の量の獲得を競っている。良い会社に入るには、良い学校に入ることが必要であり、求められるのは、目前の試験をクリアするための暗記詰め込み勉強だ。あらかじめ設定されている「型」にはまることが優秀であり、それが国や会社にとって望ましい人材とされてきた。軌道に乗り損ね、型をはみだすと、生きにくいのが現実だ。落後したくないという子供たちの思いは切実で、プレッシャー、ストレスは相当のものがある。どこを探しても、ゆとりなど見つからない。
 
◇露呈してきた問題点
 このシステムが、全体の教育水準を押し上げ、粒ぞろいの人材を世に送り出したことによって、戦後の高度経済成長に多大な貢献をしたことは、間違いない。しかし、その経済も政治もすっかりおかしくなった。いま、日本は海図を失い、漂流状態にあるが、それとともに、このシステムが抱える負の部分、問題点がはっきりしてきた。
 第一は、現行システムは、粒ぞろいではあっても、自分で考え、判断する能力の乏しい、主体性のない人間を量産しているのではないか、との疑念である。そのことを鋭敏に感知しているのが、経済界だ。一部ではあるが、「金太郎飴(あめ)的優等生ではなく、個性的、創造的人物がほしい」と言い出している。経済の構造変化で、マニュアルに従って従来のスタイルを正確に維持するのにたけた人材だけでは、会社はやっていけなくなるのだという。
 画一的な型が有効なのは、均質なものを大量生産する工業社会においてであり、かつ、先進国に追い付き追い越せを命題とする途上国のモデルにおいてではなかったか。とすれば、耐用期限はすでに切れている。 第二は、このシステムにより失ってきたものも、小さくないということだ。その一つが、「しつけ・道徳教育」であろう。人間としての品位、品性と言い換えることもできる。受験競争に勝ち抜くには、試験のための勉強が最優先となり、例えば自立心、家の手伝い、友達や周囲の人たちとの付き合い、自然との触れ合い、といったことが、おろそかにされた。1日の本紙「大転換インタビュー」で作家の中野孝次さんは、「知育偏重、受験勉強のあおりで品性がなおざりにされた」「日本人のしつけ、作法、倫理観を新しい時代に即して作り直す時がきている」と語っている。重要な指摘だと思う。
 
◇多様な個性に対応を
 明らかに時代は動いている。みんなが同じ型の人間を目指し、同じ夢を見ることしか評価しない従来のシステムでは、これからは持たない。何から何までお上が心配して、周到に用意した鋳型にはめこんでいくような親切な教育は、かえって社会の衰弱化に手を貸すことにつながる。 これからは、ひとりひとりの人間の心の豊かさ、懐の深さが、ものをいう。多様さこそが、柔軟で強靭(きょうじん)な社会を作る。
 画一的で硬直的な教育システムの転換が今こそ必要であり、そのためにはまず、入試改革が有効だ。個別の学校の選抜試験だけで入学者を決めている国は、世界でもまれで、資格試験が多い。進学希望者を収容しきれなかった発展途上時代ならともかく、収容能力があるのに、個々の学校が1点で差をつける競争試験をする必要があるのかどうか。
 さらに、教育を中央で縛らず、地方、学校、子供たちの創意工夫にできるだけゆだねることが大切だ。実態として、日本の中央統制色は、欧米に比べて、格段に強い。画一的に束ねるのではなく、多様な個性に対応する柔軟なシステムを用意するのが、これからの行政の仕事だ。
 こうした改革を進めていくうえで、カギになるのが「教員の資質」である。教育は、教師だけでは限界があるが、教師の力なしには、成立しない。どんな時代でも教師の存在は大きい。偏差値優等生ではなく、子供の個性、夢を大切にする教師が力を振るえる体制作りが大切だ。
 昨年、中央教育審議会は1次答申を出し、現在、入試改革などについて審議中だ。政府の行政改革委員会・規制緩和小委員会や、地方分権推進委員会は、従来の教育専門家による議論とは違う視点から、報告書をまとめた。今年は、議論を深め、「第三の教育改革」に道筋をつける年だ。改革のターニングポイントとなる年にしたい。


 
 
 
 
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