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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/09/21 毎日新聞朝刊
[教育21世紀へ]国境超えシンポ/生徒カウンセラー――いじめ解決、自分たちで
 
◇各地でさまざまな試み、考える意義大きい
 英国の中学生6人のパフォーマンスが始まった。泣き出すいじめられっ子を数人があざけり笑った。だれも手を差し伸べなかった。しばらくして6人は突然、プラカードを掲げた。会場となった体育館中央に大きな輪が出来た。ペンキで描かれた文字がくっきり浮かんだ。その時、いじめ解決の糸口となる4要素を6人が日本語で叫んだ。「友情」。「信頼」。「調和」。「尊敬」。会場の約200人の参加者から一斉に感動の拍手がわき起こった。
 東京都世田谷区の城山小学校。今月8日、父母たちでつくる「世田谷こどもいのちのネットワーク」主催のいじめ問題のシンポジウムが開かれた時の光景だ。国境を超えていじめ問題を話し合おうと英国のロンドン北部アークランド・バーリー中学校の生徒6人を招いた。6人は1989年にいじめに苦しんだ女子生徒の自殺未遂事件が起きたことを契機に、自らいじめ相談員として立ち上がり、生徒による生徒のための相談制度を実践してきた。
 6人はいじめられっ子、親、教師、友人役に分かれた「ロールプレーイング形式」のパフォーマンスを披露。悩みを打ち明けられる協力者の必要性から、親、教師、友人らがみんなで相談し、いじめ対策に取り組むことの大切さを訴えた。
   ◆    ◆
 「本当はいじめっ子は自分に自信がないんだ。自分より下に見える弱い人間を確保しておきたい。だから、他人をいじめるんだ」。世田谷区立船橋中学校の意見交換で、同中3年で生徒会長の佐藤保君(15)が口火を切った。大きくうなずく英国の6人。「いじめっ子は自分の地位を認めさせるためにいじめを起こしている」。みんなで悪口を言ったり、嫌がるあだ名で呼んだり、暴力を振るったりする。2年の絹井夏実さん(14)も「国は違ってもいじめについて感じることは同じと思う」と語った。
 一方、ほかの生徒が「いじめられるのは意志の弱い内気な子に限られている」と発言した時は英国側から反論が起こった。マーブ・ガビンさん(16)は「それは違う。いじめられっ子が悪い、弱いというイメージは変えるべきだ。英国ではいじめられていることが悪いことだとは教えられない」と語気を強めた。
 ガビンさんはさらに「日本人はいじめの事実を両親や友人に相談すると自分が弱いということを認めることになる、と恥ずかしがっている。いつまでも殻に閉じこもっていては駄目。苦しみを外に出して一緒に考えよう」と呼び掛けた。
 約2時間の討議を終えた後、佐藤君は「いじめはあってはならないとして、日本では隠してしまうことが多かったと思う。今後は生徒会で正面から向き合っていじめを全校で話し合っていく」と決意を語った。
   ◆    ◆
 日本でも生徒自身でいじめに立ち向かう動きがある。大分市の城南中は今年5月、生徒総会で「いじめを追放しよう」と決議した。生徒自らが、いじめ相談を受ける「生徒カウンセラー」を11月にも始める。また、横浜市の本郷中は昨年12月から生徒18人が「いじめ防衛隊」を結成した。校内に生徒によるいじめの投書箱を設け、訴えがあれば学級会で議論して解決を図る。これまでに3通の投書があり、解決につなげている。
 生徒自身がいじめ解決に乗り出すことには問題もある。城南中生徒指導担当の川野博教諭(50)は「同世代の悩みを聞くことは難しい。カウンセラー役の生徒が逆に悩みを抱え込んでしまわないか」と指摘する。カウンセラー制を通じ、生徒のいじめ問題に対する意識を高めることに特に配慮するという。
 英国の6人は日本での活動のフィナーレとして、東京都内で13日、日教組が開いた「いじめ国際教育会議」に出席した。
 この会議では、海外から見た日本のいじめ像が話題に上った。いじめ研究者のノルウェー・ベルゲン大、ダン・オルベウス教授(心理学)は「日本はいじめの被害者を責める傾向が強い。被害者さえも自分に問題があると思うほどだ」と解説した。「日本社会の恥、我慢、忍耐の概念がいじめを深刻にしている」と米国の元小学校教諭、ミッシェル・ポッター氏も説いた。
 こうした指摘に国立教育研究所の滝充生徒指導研究室長は「いじめの被害者が恥ずかしがるというのは世界共通の傾向。米国などではさらに強い。日本だけの特徴とは言いがたい」と反論。そのうえで「日本のいじめ対策は学校でのいじめ発生をどう見つけるかに力点を置き過ぎた。いじめを受ける生徒にどう手を差し伸べられるかについて対策が必要。英国の生徒の相談員の取り組みは大いに参考になるはずだ」と総括した。
 会場の片隅には学校でいじめに遭い、何とか脱出したいという高校1年の男子生徒(15)の姿もあった。彼は「いじめられ、先生に相談しても自分の性格を変えるしかないと言われるだけです。だれも助けてくれません。このままでは学校に行けない」とポツリと話した。
 生徒自身がいじめ解決に乗り出す試み。こうした取り組みがいじめ根絶の糸口になり得るかどうか、まだ答えはない。ただ子供たちがいじめの問題をより深く考え、解決の手立てを自らつくり出す意義は大きい。【遠山和彦】


 
 
 
 
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