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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/09/02 毎日新聞朝刊
[社説]システム改革 教育 硬直構造を打ち破れ――学校は肥大化の解消を
 
 豊かさを求めて駆け抜けてきた戦後の日本社会において、教育は大きな役割を果たした。右上がりの経済成長は「よい会社」に入ることが幸せな人生を約束するとの信仰を生み、だれもが「よい会社」につながる「よい学校」を目指した。高校進学率は97%近くに達し、大学・短大進学率も50%に迫る勢いだ。
 こうして養われた一般の教育水準の高さが、経済の発展に貢献したことは間違いない。また「出自ではなく、個人の努力と能力により成功の機会が与えられる社会」という点で、評価されるべき面があることも確かである。
 しかし、この教育システムの欠陥と限界が、ここにきて、はっきりしてきた。一言でいうと、「生きる力」が身に着きにくいということだ。中央教育審議会は7月、「生きる力」(自分で課題を見つけ、自ら学び、考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力)をはぐくむ教育を、との答申を出したが、現行システムでは不十分との認識によるものだ。
 何よりも、機を見るに敏な経済界が「金太郎アメ的優等生ではなく、個性的、創造的人物がほしい」と言い出した。有用な人材を得ることで恩恵を受けてきたはずだが、経済の構造変化で、マニュアルに従って従来のスタイルを正確に維持するのにたけた人材だけでは、やっていけなくなるのだという。
 
◇身に着かない生きる力
 経済界の教育に対する「罪」は、小さくない。会社は、社員の採用に際して、学校で何をやったかより、どこの学校を出たかという銘柄を重視してきた。「よい会社」に入るためには、「よい学校」に入ることがすべて、との認識が広まり、学校教育が、受験競争に勝ち抜くための手段となったのである。子供たちは、繰り返し試験が行われるこのシステムに身を置くことを余儀なくされた。個々人が何を学び、どう成長したかよりも、問題は偏差値の優劣。求められるのは、目前の試験をクリアするための詰め込み型の勉強であり、暗記力と忍耐力の勝負という側面が大きくなる。
 例えば、受験においては最重要科目とされる英語も、テストのための勉強が中心だ。試験問題は解けてもコミュニケーションの道具としては、用をなさないことが多い。受験学力アップのための勉強のむなしさは、英語に限った話ではない。
 知識の量、スピード、効率性が重視される教育からは、確かに個性的な人材は生まれにくい。現行教育システムの優等生である大蔵、厚生官僚らの相次ぐ失態は象徴的だ。「先例のあるものの処理は抜群だが、未経験の問題には何もできない」「困難なことは先送り」などは、省庁内部からも聞かれる。オウム真理教事件に、多くの偏差値秀才が名を連ねたことも、忘れることはできない。優等生にして生きる力が身に着いていない現実は、深刻だ。
 現行教育システムの限界は、登校拒否やいじめ問題でも露呈している。登校拒否の小中学生は、昨年度8万人を超え、過去最高だった前年度を4000人以上も上回った。小中学生の数が、32万人も減っている中での増加である。
 抜本的な教育改革が今、必要だ。まず、15歳、18歳、そして22歳で人生が決まってしまうかのような硬直化した受験システム、教育システムを改めることを手掛かりにしたい。目指すべきは、いつどこで学んだかより、何をどのくらい学んだかが評価される社会であり、高校でも大学でも、そして社会人になってからでも、年齢にかかわらず、学びたいときに学ぶことのできる柔軟な生涯学習社会である。いろんな道があり、かつ道草のできる、やり直しのきくシステムの方が、よりしなやかで強じんな社会につながる。
 大学名不問や通年・中途採用をする企業は、徐々に増えているが、「22歳の高偏差値大学出身者」にこだわるところは、まだ少なくない。大学でも、単位互換制度や転入学をしやすくするなどの改革が進められているが、まだまだ閉鎖的だ。こうした試みの徹底が大事であり、入試改革もその方向で考える必要がある。時代環境は変わりつつあり、改革の条件は整ってきている。
 
◇文部省もスリム化を
 教育は、もはや文部省や学校だけでやっていける時代ではなくなった。文相の諮問機関である中教審にして、「生きる力」は学校だけでなく、家庭や地域との連携による教育を通じてはぐくまれるとし、学校の力を限定的に考えている。教育改革は企業や家庭、地域など社会総体の問題としてとらえる必要があり、肥大化した学校教育の分野の整理縮小は、避けて通れない課題である。
 その点から、学校のスリム化とともに、文部省のスリム化の必要性も強調しておきたい。子供の教育は基本的には親の責任であり、教育行政は、地方自治体の仕事である。文部省が、教育内容でも財政面でも集中的に権限を握る今の構造を、抜本的に変える時期に来ている。
 例えば、教育課程は、地方教育委員会や学校が、もっと主体的に取り組めるようにすべきだ。文相による都道府県の教育長の任命承認制、教員定数の決め方、学校の設置基準など、地方分権、規制緩和の視点から見直しが必要なものは多い。
 中教審に加えて、先月27日には教育課程審議会が発足した。文部省の枠を超えた広い視野に立ち、硬直化したシステムに正面から切り込む徹底審議を望みたい。


 
 
 
 
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