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3 ホーム縁端を警告するブロックのホーム縁端からの距離の上限値
 
3.1 背景
 現在のガイドライン4)では、ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置(=ホームの縁端からブロックの線路側の端部までの距離)の上限値は決められていない。そのため、縁端から80cm程度離れた位置に敷設されているケースが多いものの、縁端から大きく離れて敷設されているケースもあり、その敷設位置は様々である(資料編6-2参照)。ホーム縁端を警告するブロックは、視覚障害者にとって、基本的にはホーム縁端までの距離、あるいは自身がホーム縁端付近にいることを示すものである8)。このブロックの位置が駅、路線、鉄道会社などによって異なることは、次のような理由から好ましいことではない。例えば、ホームの縁端からブロックまでの距離が80cmより長いホームを利用していて、その‘距離感’に慣れた視覚障害者が、80cmのホームを利用することになった場合、その距離が想定していたものより短いため、思い違いによる危険が生じる可能性がある。このようなブロックからホーム縁端までの距離、あるいはブロックよりホーム外方側のスペースを、現実のそれより広く捉えて(思い込んで)行動することにより生じる危険を防ぐには、その距離を、現行ガイドライン4)に記されている下限値で、かつ、現在、多くみられる80cmに統一して敷設することが望ましい。ただし、実際には、ホーム縁端とブロックとの距離が長いホームから、その距離が短いホームに移動してきても、その差がある程度の範囲内であれば、距離の差に起因する問題は生じないと思われる。そこで、ホーム縁端からブロックまでの距離が異なる各ブロックの敷設場所から、その距離が80cmの場所に移動した時に「注意しないと危ない」などと感じることがないような距離を求め、敷設位置の上限を決めるための資料とすることにした。
 
3.2 目的
 ブロックとホーム縁端間の距離が80cmより長い場所から、80cmである場所に移動した時に、「ホーム縁端までの距離が思ったよりも短いので驚く」、あるいは「注意しないと危ないと感じる」ことが、異なる各条件において、どの程度生じるかを知ることを目的とした。
 
3.3 方法
3.3.1 実施時期、場所、被験者および使用したブロック
 実施時期、場所、被験者は「島式ホームにおけるブロック敷設間隔の下限値を決定するための実験」と同一である(ただし、突然の雷雨により1名の実験を中止したため、本検討における被験者は計34名である)。使用したブロックは合成ゴム製(2mm厚)の点状ブロックである(以下、ブロックとする)。このブロックをホームの縁端に相当する箇所(実際に段差を設置)から、80cm、90cm、100cm、110cm、120cm、130cmおよび150cm離れた位置に各10枚ずつ、縁端と平行に連続して敷設した。
 
3.3.2 実施内容
 ブロックからホーム縁端までの距離条件は、ブロックの標準的な敷設位置を調べた結果(資料編6-2参照)から、最大値を130cm、最低値を現行ガイドライン4)に記され、かつ実態でも多くみられる80cmとした。その範囲で10cm毎に区切った。従って、80cm、90cm、100cm、110cm、120cm、130cmの6条件とし、状況に応じて(後述)150cmの条件を加えた。
 被験者に試行方法などを説明する際に、ホーム縁端に相当する場所には、実際に段差があることを杖で確認してもらい、転落しないように注意して行動するように指示した。
 初めに、80cmの距離を体験してもらった。体験の方法は、ホーム縁端方向を向いてブロック上に立ち、白杖で縁端を検出することを基本とした。その際、縁端を足で確認するためにブロックの縁端に到達するまで歩くことは、特に規制しなかった。次に、前記6条件のいずれかを体験し、その後80cmの場所に戻り、同様に距離を体験してもらった。この時点で、「直前に体験したホーム(前記6条件のいずれか)を利用していて、この80cmのホームを利用することになった場合」を想定してもらい、「ホーム縁端までの距離が思ったよりも短いので驚く」ことや、「注意しないと危ないと感じる」(以後、それぞれ「驚き」、「危険感」と略す)ことがあったかどうかを尋ねた。また、確認事項として、直前の条件と80cmとでは距離の違いを感じたかについても回答してもらった。
 以上を1試行とし、合計で6試行を実施した。各距離条件の試行順序は被験者毎にランダムとした。6条件のうちの最大値である130cmの条件でも、「驚き」や「危険感」を覚えなかった被験者に対しては、確認のために、6試行を実施した後に150cmの条件を加えた。
 全ての試行終了後に、ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置に関する意見などについて、聞き取りを行った(結果は資料編6-3を参照)。
 
3.4 結果
(1)80cm以上の場所から80cmの場所に移動した時に「驚き」や「危険感」を覚える最小距離
 90cmから80cmの場所に移動する試行では、距離の差に起因した「驚き」や「危険感」を覚える被験者はいなかった(図3.1)注)。100cmから80cmの場所に移動する試行では、24.1%(29人中7人)の被験者が「驚き」や「危険感」を覚えると回答した。次に、110cmの条件では、62.1%(29人中18人)の被験者がこれらの感覚を覚えていた。これらの感覚を覚える最小距離が110cmである被験者は37.9%(29人中11人)で、最頻値、中央値とも110cmであった。なお、最大値は130cmであった。
 
図3.1 
80cm以上の場所から80cmの場所に移動した時に「驚き」や「危険感」を覚える最小距離
注)
34名中5名に関しては、「ホーム上では必ず慎重に杖を滑らせて縁端を探そうとするため、自分の場合は距離の差があっても驚いたりすることはない」という回答であった。図3.1に示した累積割合はこの5名(図3.1では「その他」とした)を除いた29名に対しての割合である。
 
(2)80cmと比較して距離の違いを感じる最小距離
 34名中2名はブロックの敷設位置が80cmの場所から80cmの場所に移動した場合でも「距離が異なる」と回答した(図3.2)。90cmの条件において、「80cmとは距離の違いを感じる」と回答した被験者は70.6%(34人中24人)であった。最頻値、中央値とも90cmで、最大値は、110cmであった。
 
図3.2 距離の違いを感じる最小距難
 
3.5 まとめ
 現在のガイドラインに示されているブロックの敷設位置の最低値で、かつ、実際にも多くみられる80cmを基準とした場合、100cmの条件で、距離の差による「驚き」や「危険感」を覚える被験者が24.1%認められた。さらに、110cmの条件では、過半数の被験者がこれらの感覚を覚えていた。視覚障害者には、敷設位置の差に起因する「驚き」や「危険感」を覚えないでブロックを利用してもらうことが望ましい。以上のことから、「ホームの縁端からブロックまでの距離は、最大でも100cm程度とする」ことを原則とするのが望ましいと思われる。







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