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詩歌を楽しもう
 日本の伝統的な詩歌に短歌、俳句があります。「五・七・五・七・七」、あるいは「五・七・五」という約束があるだけで、そのなかで自由に言葉で遊ぶ楽しさのある詩といえます。
 日本でもっとも古い歌集『万葉集』では、季節の到来を歌で表し、家族への愛を歌で詠み、恋心を歌で伝えるというように、さまざまな気持ちを歌で表現しています。
 短歌や俳句は何よりも韻律(リズム)を重んじます。約束のなかで使う言葉を選びながら、韻律(リズム)に自分の気持ちを託します。
 慣れてくると、自然にリズムが出てきますが、擬音語、擬態語を入れることで、もっとリズミカルなものになります。
 まず、目に入ること、耳に聞こえること、体で感じたこと、心に湧き出たこと、なんでも五・七のリズムにのせてみましょう。
 歌や俳句は、心に強く残った情景や過去の体験、こみあげる感情など人間の心情を伝えようとする場合に、最も思いに寄り添う表現でもあるのです。そういう意味では、ケアするなかで身近に起こった物事や事柄をうつしだすには、ぴったりの表現といえます。
 瞬間に浮かんだフレーズや誰かが言った一言など、心に響いたら書き留めておきましょう。時間があるときに、それを「五・七・五」「七・七」に広げていけばいいのです。
 思いついたフレーズから、どんどん世界を広げていくことができます。そればかりか、まったく違う場所で浮かんだフレーズが組み合わさって、一首になることもあるのです。
 こうしてできた歌を他者に見てもらうことも大切です。新聞や雑誌、インターネットの歌壇に投稿してみてはどうでしょうか。詠んだり、詠まれたりすることで、コミュニケーションが生まれます。
 日常に感じたこと、見たもの、聞いたものを素直に表現してみましょう。歌を詠むことで、言葉と向き合うと同時に、自分自身とも向き合います。ケアのなかでともすれば見失いがちな自分を確認することにもなります。
 さらに、歌を詠むことで、頭を使い、五感を刺激し、心地よい緊張感も生まれてきます。言葉遊びを愉しみながら、ゆったりと「からだ」や「こころ」を休ませる適度な緊張緩和こそ詩歌の魅力です。
 私たちの健康生活と感情生活を豊かにしてくれる詩歌を愉しんでみてはいかがでしょうか。
 
五行歌をつくってみよう
 自分の生命のリズムを、自分の言葉によって書く五行歌という新しい詩歌があります。わずか五行の自由な音数で書く詩歌ですが、本質への想像力をかきたてる表現として若い世代で人気があります。
 この新しい詩型を発想した歌人の草壁焔太さんは、新聞で「短歌のようにきれいな哀調によらず、自分という内容に依存するため、自分が思い考えたことがそのまま表現することを可能にしました」と話しています。
 草壁さんは、水源純の五行歌集『ほんとう』(市井社)から、その魅力をこう紹介しています。
 
私のちからで
私を削る
ただ一本に
美しい一本に
なるまで
 
 人間としての強さを、若い女性の言葉で自由奔放に、まとまりやすい新詩型で表現しています。
 世阿弥もいっていますが、人間が若くあることは美しいのではなく、醜いことでもあるのです。それを忘れずに、いかに美しく生きていくか、という美意識。自分を削りながら、人間としての完成を目指す意志力。このような生き方は現代女性の新しい思想の表現といえます。
 
寂しさは
世界の狭さだ
この目で
見限る
世界の狭さだ
 
 自分が見限るから世界は狭くなってしまい、それが寂しさにつながっていくという歌です。
 人間は一人では生きられません。多様なつながりのなかで、生かし生かされて生きているのです。しかし、時として私たちは、一人で生きていると錯覚し、豊かなつながりを見限ってしまいがちです。自己の完成をめざすこと、つながりを求めること、実は生きているということは、この両者が表裏一体をなしているのです。
 五行歌の場合、美しさに依存していないだけ、自分の思いや考えたことが、そのままストレートに表現できるよさがあります。それだけに人の心を打つのです。格好をつけず、素直に自分の内面を表現する五行歌をつくってみましょう。







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