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○「森林の持つ公益的機能」について
 
森林の公益的価値を都市住民に理解して貰うためには、物理的指数、流域という2つの視点が必要である。
 
岡委員:これまで森林の公益的機能として、貨幣評価をした例が4回ございます。最初は昭和47年に12兆何がし。それから平成3年に、林野庁から39兆何がしと発表されています。これは47年の数値を貨幣価値修正しただけですから、基本的には物量尺度としては全く同じものでございます。その後、平成12年に林野庁が74兆何がしという数字を試算しておりますが、これも「代替法で評価すると」という表現をしておりますので、多分物理的な指標としては、同じではございませんが似たようなものが使われているのではないか。
 それから、一番新しいのは平成13年に学術会議が農林水産大臣の諮問に答えて評価額を出しているのが、70兆何がし。これは平成12年より下がったようですが、評価の対象の機能を入れかえているためであり、必ずしも森林の機能が落ちたということではない。計算の基礎が変わったということでございますが、この学術会議の評価額のもとになった機能の種類についても残念ながらいま正確にはいえません。ともあれ貨幣評価をする以上は、当然物理的な指標による機能把握がされて初めて貨幣評価ができると考えております。
 
岡委員153ページの資料をご覧頂ければと思います。森林の公益的役割を都市住民に理解してもらう方策、とりわけ「金額換算に関連して」と、一応括弧をつけております。この方法としていろいろ考えたのですが、二つの視点と書いておりますが、見方といいますか、観点といいますか、そういうものを考えてみたのがこの二つの視点というものであります。
 二つというのは、第1番目が金額表示、これはこれで具体的に説明する方法としては、それなりの有効性はあるとは思っておりますが、よく考えてみますと、具体的説明のように見えて、実は本質的にはかなり抽象的な説明になってしまう。そのことが都市住民の理解をよく得られないのではないかという、問題提起の根源ではないかと思います。むしろ資料にありますように、物理的指標で示すということが、よりよく理解していただくためには必要ではないかというのが第1番目の視点です。
 第2番目は、(2)で書いてございますが、都市住民の身近な問題に引きつけて森林の公益的役割の理解を得るということです。そのためには「流域」というものをとらえて、その「流域」を舞台にして森林(農地も実際は含まれてくると思いますが)の公益的役割の具体的説明をするのが効果的ではないだろうかと考えました。以上の二つに分けて説明をさせていただきます。
 まず第1番目の物理的指標というものでございます。それが2で書きました物理的指標での公益的役割、これは公益的機能とも言っておりますが、それについての説明でございます。例として、水源涵養機能をとらせていただきます。水源涵養機能のメカニズム、仕組みは、孔隙の多い森林土壌に根源がある。そこにメカニズムのもとがある。ふわふわした土壌でございます。
 そこで(3)に、降った雨はこの土壌孔隙の浸透能、要するに降水が穴に吸い込まれていくということですが、この浸透能によって降った雨は土壌中に一時蓄えられる、一時貯留される。河川に降った雨が一度に流れ込まないように土壌中に貯留されるということでございます。
 (4)ですが、この土壌孔隙に一時貯留された雨水は、当然地中に移動してまいります。それが地中水、あるいは地下水となって、徐々に河川に流出するわけです。この場合に表層から浅いところと深いところで流れる速度が違っておりまして、それがタイムラグを生じて徐々に河川に流出をしていくということでございます。こういうことで、一旦、孔隙に蓄えられた水は、重力の作用でだんだん下に落ちていきますから、当然時間の経過に伴って土壌孔隙の貯留余力が増していくわけでございます。この場合、孔隙にたまった雨水が全部重力の作用で地中に流れ出してしまったときに再び次の降雨があったとすると、その降った雨は全部土壌孔隙に貯留されてしまうのですが、そううまいぐあいに降雨のインターバルはないわけで、時には連続して雨が降るといったこともございます。そうなると当然、土壌孔隙の貯留余力を超えてしまいます。貯留能力を超えますから、地表水という形で河川に流れ出すことになります。それから、林道敷などは、これはもともと土壌構造が発達しておりませんので、地中に浸透することはない。そういったようなこともありまして、全部が全部森林土壌に貯留されるというものではないのですが、降水の多くは一旦、森林土壌の中に蓄えられる。
 そういうメカニズムからしますと、(5)に書いてございますが、土壌の孔隙量の大小が、水源涵養機能を規定すると言えるかと思います。
 そこで(6)ですが、一体どれくらい孔隙量があるのか。ここからが、都市の方に森林の持っている公益的な役割を説明する場合に重要なファクターになるのではないかと思います。この孔隙量が、日本の森林全体でどれだけあるのかを計測いたしますと、444億立方メートルでございます。ただしこれは地表から深さ1メートルまでの土壌について計算するとこうなるということでございます。1メートルとしたのは、森林土壌という特有の土壌構造が発達するのは、大体1メートルぐらいまでと考えておいてよいだろうと考えたからです。実際はそれ以上にまで特有の土壌構造の発達している部分もあるのですが、区切りもいいものですから、1メートルと考えたわけです。それで計算すると444億立方メートルになる。ただし、これは土壌の孔隙全部ではなくて、非常に微細な孔隙は、これは水源涵養機能として有効でない、一定の太さ以上の孔隙をここでは計測の対象にしております。
 そこで(7)でございますが、日本の降雨パターンが森林の水源涵養機能の実際的効果に関係します。これは非常に複雑でございまして、気象庁の統計を見ても、なかなかパターン化することが難しいのですが、仮にそれを大胆に概定して、機能の計量を行うことにします。まず、日本の降雨量の中で森林地帯に降った雨を計算しますと、4,100億立方メートル程度と推定できます。山の方が平地よりも降雨量が多いので、多分これを上回るとは思うのですが、平均的に括弧で書いてありますように、国土全体の降水量に森林率を掛けますと、4,100億立方メートルになるので、この程度が森林地帯に降る雨の量であろうと推定できるわけでございます。このうち、全部が全部先ほど言いましたように、土壌孔隙によって一時貯留されるものではない。どうしても能力を超えた降雨は地表を流れ出していきます。そういうものを勘案いたしますと、大体4,100億立方メートルのうちの2,900億立方メーターは森林土壌の中に一時貯留される量であろうという推計が可能であろうかと思います。
 この2,900億立方メートルが、一たん土壌中に時貯留されるのですが、この中の600億トンは、樹木の蒸散作用によって直接空中に消えてしまう。もっともこれが600億トンなのかどうなのか、計測データが多くないため、かなり大胆な推計でございます。そこで一時貯留量の2,900億トンから森林の蒸散量600億トンを差し引いた、2,300億トンが森林による河川流量の調節効果であろう。つまり水源涵養の役割というのは、具体的にはこの程度のものではないかという推計でございます。
 結論として、(10)に書いてございますが、日本の森林は有効貯水量1億立方メートルのダム444個分に相当する土壌孔隙を持っている。この場合、444個分の「緑のダム」といいましても、そのダムは先ほど言いましたように、時の経過に従って、孔隙から水が地中に移動していきますから、444個分のダム機能は回転するわけでございます。何回転かして、降水を徐々に河川に流出させるわけであり、相当の流量調節効果を持つ。具体的には2,300億トンという数字が(9)に書いてございますが、この2,300億トンというのは、そういう回転、つまり降った雨が、孔隙中に貯蓄され、それが空になって再び降水が入ってくるとそういう状況を考慮に入れて、流量調節効果を計算すると、年間に2,300億トン億立方メートルになるということでございます。
 こういう具体的な物理的指標で説明しないと、金額は一見具体的なようで、よく考えてみるとかなり抽象化されておりますので、具体的に物理的尺度で都市の方には説明する方が、より身近に理解をしていただけるのではないかというのがこの観点の第1番目でございます。
 その次に3の「流域」で森林の公益的役割がございますが、これは「流域」をとらえて森林の公益的役割を説明する、あるいは訴える、こういうものでございます。
 まず(1)として、都市住民が生活している環境に引きつけて、流域の森林が環境をいかに保全しているかについて理解を得る方策が必要ではないかということでございます。つまり日本の森林全体というと、都市の住民の方々からすると、なかなか身近とは言えない。もう少し身近な問題としては、流域というものがいいのではないかという考えです。
 その根拠は、(2)に書いています山地地形の国土です。日本の国土は、極めて傾斜の強い山地地形から成り立っております。その山地地形の下流の平坦部に都市が形成されているということです。(154ページの資料)をご覧下さい。これは桜島の数値地図というものでございます。最近はこういうものが国土地理院から、50メートルメッシュ、あるいは250メートルーメッシュで出されております。こういうものをつなげば、流域を単位とした流域の地形がわかるわけでございますが、この数値、地図に、最近、急速に発達している地理情報システム、一般にGISといわれているものです。新聞でも最近GISと言葉を使っておりますが、この地理情報システム、これは森林・農地、あるいは市街地、あるいは道路とかあらゆる地理上の情報をシステム化したものがございまして、それをコンピューター処理することによって数値地図の上にそれを載せることができる。そういたしますと、流域単位に、その流域が、どういう地形であるか、その中にどのような地物があるか、さらに都市がどこにどういう形で発達しているかというこが目で見えるということでございます。そういたしますと、都市は、極めて不安定な地理的条件の上に形成され、発達しているということが視覚的にわかるということでございます。
 (5)に書いてございますが、山地からの土砂流出を防止する森林の役割の重要性がわかります。山地地形ですから、山から土砂が下流に流れてくるのをいかに防ぐかが、国土保全として極めて重要な要件でございます。その土砂流出を防止する機能のメカニズムのもとになるのが、実は水源涵養機能と全く同じでございまして、森林に特有に発達する孔隙に富む森林土壌です。この森林土壌が降った雨を地中に浸透させるから降水の地表流下を阻止して、土砂が降雨によって下流に流れ出ないということであり、機能的メカニズムは全く同じでございます。
 いかに孔隙に富んだ森林土壌を形成させるかということが、国土保全の観点からの森林の取り扱い要諦であるとうことになり、森林を見る目としては極めて重要であろうかと思います。ちなみに、日本全体でどれぐらい森林によって土砂の流出が抑止されているか、これも大胆な計算ですが、年間57億立方メートルの流出土砂が森林によって抑制されている。こういう試算もできるわけでございます。
 こういうぐあいに流域について森林が国土保全に果たしている役割を説明する、視覚を交えて説明するということが、都市に住む人にとっては森林の役割を理解していただくには必要ではないだろうか。考えてみると都市は流域の中で形成され発展していくと考えられます。流域圏というのが都市住民にとって身近な存在ではないかと考えております。
 
小野委員:樹種といいますか、植生といいますか、それによって有効貯水量に差があるのか、その辺のことについて、もしよろしければ教えていただきたいと思います。
 
岡委員:樹種や植生によって有効貯水量に差があるのかにつきましては、よく広葉樹は機能が高くて、針葉樹は低いといったことも言われているのですが、そういう問題をかなり真剣にいろいろと調べた例はあります。しかし、何しろこれは土壌に原因がございまして、いかに森林土壌が発達するかということになりますと、その時間的な経過は気が遠くなるほど長い時間のスパンが必要でございます。10年、20年というようなものではほとんど差がない。非常に長い年月にわたって、森林をどう維持しているかということと、もう一つは、この森林土壌の形成には、有機物の供給がかかわっています。落葉・落枝、そういったものの供給、それが分解されて、孔隙に富んだ土壌が形成されていくということと、もう一つは、地中にすむバクテリアとか小動物、ミミズもそうですが、ああいうものの活動が意外に孔隙量に影響しております。そうなりますと、いかに地中についても生物多様性を維持していくかという問題にもかかわってくるのです。私ども全くその分野の門外漢でわからないのですが、いかに落葉・落枝の供給量の多い、つまり物質生産更には物質循環の旺盛な森林をつくっていくかということが、貯水機能を高める上で必要なのだというふうに考えてよいと考えます。もっともそういう問題については、さらに科学的に解明が必要かと思います。
 
赤川地域振興課長:山が荒れていると言われているわけですけれども、それによってこの一時貯留量の減というのは、オーダー的にといいますか、目の子でいって100億トンとか、そういうことがわかるかということと、逆に森林を保全する活動によって、これまたどれぐらいそれが回復できるか、プラス100億トン、260億トン回復できるのか。そういうようなオーダー的なものというのはございますでしょうか。
 
岡委員:具体的な数値は残念ながら私自身は把握していないのですが、ただ、今おっしゃいましたように、荒れるとその機能が落ちるということは紛れもない。例えば最近間伐が非常に停滞している、滞っている。それで、林内が暗くなって下草が消えていっている。実は、あれは有効な森林土壌の発達にとっては極めてマイナス因子でございまして、地表植生がなくなりますと、降った雨がせっかく形成された土壌を流してしまう。表層土壌を流すということは、実は孔隙量を減らすということですから、紛れもなく間伐がおくれて林内が暗くなって、下層の植生が消えていくという状態は、水源涵養機能の低下につながるということでございます。
 もう一つは、伐採した後何かの植生が、それは天然更新であっても人工植栽であっても何でもいいのですが、とにかく植生を早く回復するということが、土壌構造を維持する上から必要でございます。といいますのは、地表植生がなくなりますと、降った雨がそのまま土壌に直撃いたしまして、土はねというような現象で、今度は孔隙構造を壊してしまうということでございますから、伐採した後は何かの形で、それは天然林であっても人工林であっても何でもいいのですが、速やかにもとの植生に回復させるということが極めて重要である。
 
森委員長:従来は、水資源の涵養、すなわち洪水や渇水の調節と、それからもう一つ山崩れ防止という機能でした。これは林業の営みや流域と結びつくのですが、現在は国民もさることながら、より直接的には、頭だけが先に行って、地球温暖化防止のために森林が必要だ、森林は炭酸ガスを吸収して酸素を出すからですが、あるいは子供の遊び場として森林が欲しいとか、森林浴だとか、休養のためにだとか、こうなってくると、流域とは結びつかなくなってくるのではないか。流域ということで言う限り、水資源と国土保全については、今のような御説明でもいいのだけれども、国民が今期待している機能については、流域から離れてしまっているのではないか。その辺をどう理解すべきかでしょうか。
 
岡委員:確かに森林の一般的な効用としては、温暖化対策、つまり二酸化炭素吸収能力がどれだけかというのは極めて重要でございまして、実は昭和47年の12兆円を出すときにも、それ自体計算はしてございます。二酸化炭素の吸収量というのは、これはガス交換ですぐに計算できるわけで、二酸化炭素の吸収量がどれだけかというのは、日本全国について計算はされたのですが、これを貨幣評価するときに、はたと困りました。当然健康に重大な影響がある。都市ですと朝晩だけで空気中の二酸化炭素の濃度が1けたぐらい上がるというのはざらにあることで、長年太古から人間は二酸化炭素の濃度が一定のもとで人体の生理機能はできているはずだから、それが1けた上がると一体健康にどういう影響を及ぼすかというのは、これは常識的にもすぐわかることです。問題はそれを金額換算するにはどうすればいいかです。医療費であるとかいろいろとやろうとしたのですが、残念ながら決め手がなくて、二酸化炭素が温暖化対策に直結するような、二酸化炭素の吸収能力によっての評価というのは、残念ながらできなかったのでございます。
 確かに今となってみると、地球的規模で森林の機能というものをとらえる方もいらっしゃると思います。そのときは、当然これは流域を超えた、日本の森林全体であり、さらには地球規模での森林というふうに発展させないと、これは回答が出ないと思いますが、ここでは国土保全という非常に限定した範囲で扱っております。国土保全というのは、具体的には山地地形の中で都市が形成されていることに着目し、国土の保全というものに森林の役割を結びつける場合には便益が非常にわかりやすいかなと考えたのであります。森林の機能一般としてはおっしゃるように、もはや流域を超えた機能を考えなければいけないと思っております。







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