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報告4
「国土保全の今後のあり方」等について
○「森とむら賢人会議」及び啓発方法について
 
都市住民に国土保全の必要性を訴えるために、「森とむら賢人会議」というシンポジウムを東京で開催している。
 
齊藤委員:それでは森とむら賢人会議の経緯等についてということでございますが、そこに至るまでの経緯等を含めてお話しさせていただきたいと思います。
 平成3年に松形知事が国土保全奨励制度を提唱いたしました。この背景としては、農山村で過疎化・高齢化等によりまして、担い手が不足してきている。それで、森林・農地の公益的機能の維持というものが危倶されるという状況がございました。今まで農林業に従事されている方々が生産活動を通じて担っていただいておりました国土保全などの公益的機能は、その生産活動のいわばおまけといったような感じだったのですが、そういうことではなくて、その公益的機能を積極的に評価しようという考えでこの制度を提唱いたしております。その後、皆様方にもそういう考えの元、一緒にやっていきませんかとお誘いし、平成6年に国土保全奨励制度全国研究協議会が発足しました。当初は、オブザーバーを含めまして36の道府県さんで発足したわけでございますが、現在では43の道府県さんに御参加をいただいております。
 この全国研究協議会の設立を記念しまして、第1回目の国土保全奨励制度全国シンポジウムを宮崎市で開催させていただいております。このシンポジウムは宮崎県と全国研究協議会の共催という形で行っております。目的としましては、国土保全の考え方を深めたり、広く周知をするということでございますが、そのシンポジウムは、基調講演とパネルディスカッションという二つの構成で行っております。この基調講演につきましては、多彩な分野の先生方にそれぞれ御講演をお願いしているという状況でございます。この基調講演とパネルディスカッションの結果等につきましては、記録集という冊子にいたしまして関係機関等にお配りするとともに、協議会のホームページでごらんいただけるようにしております。このシンポジウムは平成6年の第1回と翌年の第2回まで宮崎市で行いました。第3回目の平成8年になりまして、森林等の重要性や、それを守っている農山村の役割等につきまして、より広く一般の方々、特に都市部の住民の方々に理解と関心を高めていただきたいということで、東京都において開催したところでございます。以後、平成14年の第9回までずっと東京都で開催いたしております。森委員長にはこれまでコーディネーターとして御苦労いただいているところでございます。
 この森とむら賢人会議につきましては、毎回500名を超える方々の参加をいただいてきております。最初は行政関係者が多かったのですが、近年はボランティアの方ですとか、また一般の方々にも御参加いただくようになっております。
 今後の展望でございますが、森林等には、水と空気と心、この三つのろ過機能があるということを私どもはよく申し上げております。この三つのろ過機能は貴重な社会的な資産である、いわば国民の共通財産でありますので、都市と農山村を対立的にとらえるのではなくて、お互いに補いながら連携して、この国民の共通財産を守っていく必要があるのではないかと考えております。国土保全は国民全体で考えるべき課題であり、社会全体で支えるという意識を醸成していきたい。それで国民の理解をいただいて、国民的合意形成まで持っていけたらという気持ちでございます。都市部の方々を中心にということで、これまで東京都でシンポジウムをやってきておりますが、東京都以外の主要な都市部での開催など、全国的な展開を図っていけたらと考えているところでございます。
 それから、平成12年の全国研究協議会におきまして「もりとふるさとの日・月間」を設定して普及啓発活動を実施しております。協議会を設立いたしました11月18日を「もりとふるさとの日」とし、それから11月を「もりとふるさと月間」と定め、森とむら賢人会議とあわせて、普及啓発の街頭キャンペーンを東京都や地元宮崎市で開催しているところでございます。これらも含めて全国的な展開が図られればというふうに思っております。
 
都市住民への国土保全の有効な啓発方法については、戻ってきてきた方をフロントランナーだと思い、こういう方を大事にし、また、こういう方のすそ野を広げることによってもっと国民全体に広がるというようなシナリオを描けるような気がする。
 
生源寺委員:例えばNPOの動き、それからこのごろUJIターンという形で、いろいろな障壁はあるにしてもかなり戻ってきている方がおられるわけですけれども、私はこういう方はある意味でフロントランナーだと思っております。まずこういう方を大事にし、また、こういう方のすそ野を広げることによってもっと国民全体に広がるというようなシナリオを描けるような気がいたします。いきなり多くの国民が農村に目を向けるという、本当の意味で目を向けるというところまでいきなりいくというのは、なかなか実際問題として難しいところがあると思います。それも大事ですけれども、まずフロントランナーの層を厚くするということが非常に大事だというふうに思っております。
 その点で、NPOへの参加という形で入っていかれる方も、あるいはNPOを組織しておられる方もそうでありますし、UJIターンの動きもそうですけれども、どちらかといいますと画一的な、あるいは従来型の組織なりシステムにはむしろクエスチョンマークをつけて、そうではないものを求めるという考えが底流にあるのだろうと思うのですね。そうすると、非常にワンパターンの幾ら幾らとかいう話は、そのレベルの人にとっては実は極端に言うと逆効果、私はそういう部分があるのではないかと思うのです。その意味でも深いといいますか、もっと微に入り細をうがつようなそういう発見なり、あるいは森林の不思議というか、そういうことをもっと知っていただくような、あるいは入り口をあけておいて御自分で知っていただくような、どうもそういう感覚が必要かなという気がしております。
 今、しばしばいろいろなパンフレットとかいろいろな番組でやられているのは、もう少しすそ野が広いといいますか、一般向けのものであって、それも大事ではありますけれども、せっかくこういう格好で実際に入ってきておられる方がいる、その人たちのニーズのレベルというのはかなり実は高いと思うのですね。この人たちの層をある程度厚くすることが、その次のもっとマスの状態でいろいろなことが起こる種になっていくだろうと、こう思っております。それぞれに対応する層の方がポテンシャルにはおられると思いますけれども、どちらかといいますと、ややもすると画一的になりがちなところは少し気をつけた方がいいだろうと、こんな気がしております。
 
水野委員:森林に対してもっと国民理解を深めていくというお話も出ていたのですけれども、確かにどちらかというと国民理解を得るというのは、共感を持ってもらうという意味での理解を得るのであれば、森林が存在することの効能や経済的価値という面での説明というのは共感を持ちやすいと思うのですけれども、NPOの方や生源寺先生のおっしゃるフロントランナーの方たちが何をきっかけで動いているかというと、どちらかというと危機感を持って動くタイプなのですね。このままだとこうなる。例えば湿地や里山がなくなったらこうなる。同じように、ある自分の住んでいる流域の森林が荒れたり、なくなったら、身近な暮らしがどう変わる。ハイドロピークが非常になだらかであったのが、ピークが高くなってくると、そこに住んでいる動物まで変わってしまう。あるいは地すべりとか山地崩壊がもっと起きてしまう。そういうどちらかというと、今ある森林が守られないと暮らしがどのように、どれくらい変わるかという危機感の方で説明することも、理解が得られる道ではないかという気がいたします。
 私も少し調べてみたのですが、実際にある流域の中で、どれくらい森林を伐採すると流量がどれくらい変わるかというのは、試験流域とか演習林の中の小流域ではいろいろ研究した報告があるのですけれども、大きな流域の中ではなかなかそういう検討例や報告例はありません。ただ、比較的防災の関心の高い地震対策等では、国民の理解を得るために、大抵被害想定をいろいろな形、手法をもって想定していくという考え方からすると、森林保全についても流域を単位にして、森林が荒廃してゆくことにより、そこに流れてくる水の量がどう変わり、それが、上下流の人々の暮らしにどう影響が及ぼしていくかというアプローチの仕方という点も、今後、検討に値するのではないかという気がいたしました。







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