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イ)民間企業における経営判断・管理の問題点
・一部の先進企業を除き、経営判断の仕組みそのものが確立されていない。
・経営の目的が不明確であるため、経営指標の選択が不適切であるケースが多い。選択においては、正しいと判断される指標よりも、使い慣れた分かり易い指標を用いる傾向にある。
・そもそも事業計画が具体化されていない。
・業績評価が不十分である(評価のフィードバックが欠如)。
・経営会議や取締役会の実質的な機能が不十分であり、経営のチェック機能が働いていない。
 総じて勘に頼った経営判断に傾く傾向にある。結果として、資本生産性が低く、株主価値が創造されていない。
 
(2)地方公共団体における適用の可能性
 NPOにおける業績評価手法を参考としつつ、それぞれの概要・長所・課題を考察する。
 
ア)財務データ
(概要)
−活動を評価できるような指標を時系列で確認する。
−経常収支比率、起債制限比率等の指標を通常用いる。
−バランスシート、行政コスト計算書も用いられている。
(長所)
−予算・決算のデータを活用でき、評価のためのコストが比較的少ない。
−上記の指標や手法は従来から活用されており、多くの人にとって理解しやすい。
−多くの地方公共団体で用いられているので比較しやすい。
(課題)
−事業や施策の目的の達成(成果)が必ずしも評価されない。
−利益追求が目的ではない地方公共団体には、財務的評価だけでは不充分。
 
イ)スコアカード
(概要)
−財務と業務の両面はもとより、受益者の観点や組織としてのナレッジマネジメントといった点も鑑みて、長期及び短期的に見て総合的な評価を行う。
−各組織のビジョンや戦略に見合うものとする。
−主に組織内管理のためのツールであるが、対外的に活動内容を報告する際にも活用可能。
(長所)
−戦略やビジョン(地方公共団体でいう総合計画等)にどれだけ合致した活動がされているかが把握でき、内部管理(目標管理等)に適している。
−多面的な視点からの評価を折り込むことが可能であり、地方公共団体の業績評価には適している。
−事業等の成果を指標化したものを住民に対して公表することにより、外部評価や住民の満足度調査などにも活用可能。
(課題)
−総花的な総合計画では効果が不充分。
−目的の異なる組織間の比較に用いることは通常困難。
−アウトカム(住民や社会にどのような影響を与えたかという成果)ではなく、アウトプット(どれだけのモノやサービスを提供したかという成果)を見てしまうことが多い。
−スコアカードの作成に時間がかかる。
 
ウ)専門家による評価
(概要)
−業績を専門家の観点から評価。
−基準が専門家によって異なることも多い。
(長所)
−活動全体が評価の対象となる。
−専門家は活動の改善策や方向性の示唆を与えることも多い。
−専門家評価を通して先進事例の手法を活用する機会として活用可能。
(課題)
−他の地方公共団体と比較して悪い評価が出た場合、組織内のモチベーションが下がる。
−評価基準が明らかにされないことも多く、客観性に欠ける。他の地方公共団体との比較が困難。
−評価に時間がかかる。
 
エ)SOCIAL RETURN ON INVESTMENT (SROI)
(概要)
−企業に用いるROI(投資利益率)と概念的には近いが、すべての受益者にとってのメリットとコストを定量化。
−地方公共団体においては、住民の利益の増加・税収の増加・コスト削減効果等がメリットとして考えられる。
(長所)
−客観的である。
−他のプログラムや組織との比較が可能。
−SROI導入のためには、データを定期的に入手する必要があり、MIS(経営情報システム)の導入を進める一助となる。
(課題)
−すべてのコスト及び住民の利益を定量化することは大変困難。
−方法論が確立されていない。
−他の地方公共団体とのSROIの比較を行うことが常に適切なわけではない。
 
 以上のような、各業績評価手法の特徴を考慮した上で、その組み合わせにより活用していくことが有効である。
 
評価のオプション
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業績評価オプションの比較
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