第3章 視覚障害者および聴覚障害者のニーズ
利用者からみた現状の情報提供の問題点を明らかにするため、音案内及び視覚障害者誘導用ブロックに関する既存のヒアリング調査結果を参考として整理するとともに、サイン、可変式情報表示装置、音響・音声案内、案内放送、視覚障害者誘導用ブロック、点字表示、人的対応など、鉄道駅及び車両における各種情報提供の現状及び問題点について、視覚障害者及び聴覚障害者に対するヒアリング調査を実施した。
さらに、ヒアリング調査結果を受けて、情報提供に関する現状や問題点等についてのフォローアップとして、実際の鉄道駅を対象として、障害者を交えて現地確認を実施したうえで、情報提供に関する障害者ニーズのとりまとめを行った。
平成13年8月に策定された「公共交通機関旅客施設の移動円滑化ガイドライン」ではいくつかの課題が残されており、(1)視覚障害者の誘導システム、(2)視覚障害者誘導用ブロックの個別箇所の敷設方法など視覚障害者の移動支援設備については、議論や検討が必要であるとして盛り込むには至らなかった。そこで、ガイドライン策定後に検討を進め、(1)音による視覚障害者の移動支援方策ガイドラインの追加、(2)鉄軌道駅のプラットホームに設置される点状ブロックのガイドラインの改訂を目指し、それぞれヒアリング調査やパブリックコメントなどの調査を行い、平成14年12月「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン追補版」としてまとめられた。
(1)視覚障害者の誘導システムについては、視覚障害者、歩行訓練士、音の専門家、研究者等への事前インタビュー(約30名)に始まり、研究会を立ち上げた。また日常生活上、駅を単独利用している視覚障害者を対象(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡、5都市で93名)にヒアリング調査を実施した。調査結果を踏まえ、音声・音響案内についての基本的な考え方を示すと共に、整備にあたっての個別の音案内ガイドラインを作成した。
(2)鉄軌道駅のプラットホームに設置される点状ブロックのガイドラインについては、鉄軌道駅のホーム上の点状ブロック敷設方法に関わる問題点を明らかにすると共に、効果的な敷設方法についての改善策を提案する事により、視覚障害者の転落事故防止効果の向上に寄与することを目的とし、2年計画で、鉄軌道駅プラットホーム縁端警告用内方表示ブロック(ホーム縁端警告ブロック)を開発した。有効性の確認実験では、全盲の視覚障害者(21名)によって有効性が確認された。
これらの調査結果から抽出された情報提供に関するニーズを以下に示す。
表3−1 音案内についての代表的なニーズ
・音案内に係る音色等の統一が必要
・音声案内をする際にも視覚情報が必要
・視覚障害者誘導用ブロック等視覚障害者支援施設設備の統一の必要
・エレベーターの外でも音案内を行うべき。また、押しボタンの位置を統一すべき
・エレベーター付近での音案内を盛り込むべき
・券売機における音による案内の追加等が必要
・売店を知らせる音響案内を盛り込むことが望ましい
・改札口(有人改札口)の音案内は不要
・自動改札への音案内が必要
・各駅に2名の係員の配置が必要
・乗換専用改札口における音声案内が必要
・携帯端末による改札口の音声案内をガイドラインに盛り込むべき
・エスカレーターへの音による誘導案内を盛り込むべき。また、視覚障害者誘導用ブロックや、階段での音響案内との関係を明らかにすべき
・トイレの水洗用ボタンを音声案内や点字表示によってわかるようにすべき
・2種類以上のアナウンスは、時間をずらして、放送が1種類ずつ流れるようにすべき
・ドアの開閉を知らせるブザーを車両外にも聞こえるようにすべき
・自動音量調節機能付の音響設備を導入すべき
・触知案内板より音による案内を優先すべき
・人的サポートを求めることのできる場所がわからない
・券売所での列における位置の把握が難しく困る
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表3−2 視覚障害者誘導用ブロックについての代表的なニーズ
・色彩について、黄色に統一した上で、ブロック周囲の床面の色を十分な明度差が得られるものとするべき。
・転落時の安全確保措置について、列車がホームに停車していないときには、乗客がブロックの外に出たときに、音声などで注意喚起する装置を取り付けるべき。
・ホーム中央に誘導ブロック設置について、現在は警告ブロックのみの為、ホーム内移動は必ずホームの端を歩かざるを得ない。警告ブロックとは別に、誘導ブロックをホーム中心位置に設け、ホーム端の歩行を最低限にすることが最善と考える。
・ドア位置表示ブロック等の設置について、現状のドア位置表示は見えないため、正確に並べない。このため、人の流れに乗れず、突き飛ばされたり邪魔になったりする。自他共に危険。乗り遅れや踏み外しの危険もある。並ぶ位置の視覚障害者誘導用ブロックの形状か床の素材を変えて接続を可能にする。及び色も地の色とはっきり区別できる明度差の色でぬりつぶすと弱視者にも認識しやすい。
・階段及びエスカレーターの方向を示すブロックの敷設について、階段やエスカレーター前には警告ブロックが設けられているが、それだけでは人の流れる方向が解らないため、自分と反対方向から来る人にぶつかったり、邪魔になったりして自他共に危険。
・段差のある部分の色の識別について、弱視者や高齢者では特に下りの段差を認識することが難しく、踏み外しや転倒の原因となり危険が大きい。現在階段の端に赤の標識が設置されている事もあるが、面積が小さく、設置箇所が部分的のため、目立たず、周りが暗い場合認識しにくい。
・構造物と干渉する場合の敷設について、柱などが警告ブロックのライン上に在り、警告ブロックが寸断されるケースが発生した場合はどのように対応するのか規定が無い。寸断したままか迂回して設置するのか規定を統一しないと事業者、利用者共に混乱すると思われる。
・警告・誘導ブロックの提案、列車、電車の乗降口の位置に標識があるとよいと思う。図に描けばホームの長軸に平行に警告ブロックと誘導ブロックを2本の縦線で示せば、その2本と直角に横線で結び、梯子のような図となる。この横線は1つのドアにつき長距離列車なら1本、通勤電車なら2本入れる。
・つまづき等について、点状ブロックの他に線状ブロックを付加することは、高齢者のつまづき、車いす使用者の動揺による内部障害に支障を起こさないか。
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鉄道駅及び車両における各種情報提供の現状及び問題点について、視覚障害者及び聴覚障害者に対するヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査の概要及びヒアリング結果を以下に示す。
(1)ヒアリング調査の概要
(1)調査対象
調査は日常生活上、単独で駅を利用している視覚障害者、聴覚障害者を対象とした。対象者の年齢、性別の内訳は以下に示すとおりである。
○性別
概ね男女半数ずつを対象として調査を実施した。
表3−3 性別
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男性 |
女性 |
不明 |
計 |
視覚障害者 |
4 |
10 |
2 |
16 |
聴覚障害者 |
23 |
18 |
1 |
42 |
計 |
27 |
28 |
3 |
58 |
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○年齢
30代から50代が中心となっているが80代までの高齢層も含んだ幅の広い年齢層を対象として調査を実施している。
表3−4 年齢
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視覚障害者 |
聴覚障害者 |
計 |
30代 |
2 |
11 |
13 |
40代 |
0 |
10 |
10 |
50代 |
3 |
7 |
10 |
60代 |
1 |
3 |
4 |
70代 |
0 |
8 |
8 |
80代 |
0 |
1 |
1 |
不明 |
10 |
2 |
12 |
計 |
16 |
42 |
58 |
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○障害の状況
視覚障害者の障害の状況を表3−5に示す。調査対象者の障害の発症時期については、先天性6名、後天性が11名となっている。また、現在の視力の状況は、全盲が12名と今回の調査の被験者のなかでは最も多い状況となっている。
表3−5 障害の状況(視覚障害者)
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先天性 |
後天性 |
計 |
全盲 |
1 |
11 |
12 |
光覚 |
1 |
− |
1 |
大文字可 |
1 |
− |
1 |
強度近視 |
2 |
− |
2 |
計 |
5 |
11 |
16 |
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表3−6 障害の状況(聴覚障害者)
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先天性 |
後天性 |
計 |
完全失聴 |
− |
9 |
9 |
難聴 |
3 |
25 |
28 |
不明 |
5 |
|
5 |
計 |
− |
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42 |
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○鉄道の利用状況
視覚障害者聴覚障害者とも比較的鉄道をよく利用している人が多い。
表3−7 鉄道利用の頻度
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視覚障害者 |
聴覚障害者 |
ほぼ毎日利用 |
10 |
13 |
週2〜3回利用 |
3 |
6 |
週1回程度 |
3 |
11 |
1ヶ月に1回以下 |
0 |
4 |
不明 |
− |
8 |
計 |
16 |
42 |
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(2)調査内容
ヒアリングの項目及び内容は下表に示すとおりである。また、ヒアリングの方式については下記の方法により行った。
・視覚障害者(ヒアリング)
・聴覚障害者(手話通訳を通じたヒアリング、アンケート調査)
表3−8 ヒアリングの内容
項目 |
ヒアリング項目 |
1. 障害の状況等について |
(1)障害状況(視覚障害、聴覚障害、言語障害 など) (2)障害等級 (3)コミュニケーション手段(会話、手話、筆談 など) |
2. 鉄道の利用状況について |
(1)日常的な鉄道の利用状況・主に利用する駅(主な利用区間、利用頻度) (2)上記区間以外の鉄道の利用状況(その他区間の利用有無、頻度、利用駅など) |
3. 外出前(外出計画時)の情報入手方法等について |
(1)事前情報として、どのような情報を必要としているか (駅構内案内、運行状況、乗り換え案内、運賃 など) (2)事前情報をどのように入手しているか(何に頼っているのか) (電話、FAX、ホームページ、冊子 など) (3)事前情報の入手にあたり困っている点 (4)事前情報の提供に関する要望 |
4. 鉄道利用時(平常時)の情報入手方法等について |
(1)駅構内(改札口付近) |
(1)どのような情報を必要としているか (駅構内案内、券売機の位置、運賃、改札口の位置、トイレの位置 など) (2)上記情報をどのように入手しているか(何に頼っているのか) (サイン、可変式情報表示装置、点字表示、視覚障害者誘導用ブロック、音響音声、駅員による対応 など) (3)駅構内での情報入手にあたり困っている点 (4)駅構内での情報提供に関する要望 |
(2)ホーム上 |
(1)どのような情報を必要としているか ・ホームまでの誘導(列車ドア位置、列車接近・通過状況) ・列車運行情報(発車番線、発車時刻、車両種別、行き先、停車駅、緩急列車接続等など) (2)上記情報をどのように入手しているか(何に頼っているのか (サイン、可変式情報表示装置、点字表示、視覚障害者誘導用ブロック、音響音声、駅員による対応 など) (3)ホーム上での情報入手にあたり困っている点 (4)ホーム上での情報提供に関する要望 |
(3)車両内 |
(1)どのような情報を必要としているか ・路線図、車両番号、ドア開閉位置、トイレ位置 ・列車運行情報(発車到着時刻、車両種別、停車駅、次駅名、行き先、緩急列車接続等) など (2)上記情報をどのように入手しているか(何に頼っているのか) (サイン、可変式情報表示装置、点字表示、視覚障害者誘導用ブロック、音響音声、車掌による対応 など) (3)車両内での情報入手にあたり困っている点 (4)車両内での情報提供に関する要望 |
5. 鉄道トラブル発生時(異常時)の情報入手方法等について |
(1)トラブル発生時に、どのような情報を必要としているか (列車運行の遅延状況、遅延理由、運転再開予定時刻 など) (2)トラブル発生時の情報をどのように入手しているか(何に頼っているのか) (可変式情報表示装置、案内放送、駅員による対応など) (3)トラブル発生時の情報入手にあたり困っている点 (4)トラブル発生時の情報提供に関する要望 |
6. 総合的な評価について |
(1)現在の鉄道駅及び車両における情報提供についての評価 (2)今まで利用した駅の中で、情報提供の対応が良かった駅・悪かった駅 (3)その他鉄道事業者に対する要望等 |
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