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IV.C. 構成要素間の不一致
 SHEL図の構成要素間の境界が明確でないことは、個人とこれら構成要素の「不一致」が重要であることを表している。システムにおける不一致によって、安全上の欠陥が指摘される可能性があるため、海難調査官は当然このような不一致の可能性に特別な注意を払わなければならない。以下に、人と他の構成要素間で生じる不一致の例を挙げる。
 
■ 人間と人間(livewareとliveware)の不一致。人と他人の不一致には、音声通信、業務用語、言葉遣い、話すスピード、リードバック・ヒアバック(復唱確認)、ブリーフィング、個人的なやりとり、乗組員の調整、手信号などの非言語的合図がある。
■ 人間と方針・手順(LivewareとSoftware)の不一致。人間とソフトウェアの不一致としては、サポートする体制と人間との情報の転移における問題がある。例えば、古い刊行物(資料)は、誤った情報を与えるために不一致が起こる。
■ 人間と機材・機器(LivewareとHardware)の不一致。人間とハードウェアの不一致としては、人と機械との間で起こる物理的な、また精神的な相互作用の問題がある。設計の制限、機器・制御装置の設計と位置、機器制御と読みやすさ、座席設計、適切な安全装置や保護装置、その他の人間工学的問題はこのような不一致の例である。
■ 人間と環境(LivewareとEnvironment)の不一致。人間と環境の不一致は人間の作業に影響を与える事柄である。例えば、気温、湿度、照度や眩輝、騒音、振動、大気環境、船外の視界、船体の揺れはそれぞれ人が業務を最適に遂行する能力に影響を与える。
 
 以下のリストでは、不一致の様々な分野を示した。リストはあくまでも一例である。
 
IV.C.1. 人間と人間(LivewareとLiveware)の不一致
 口頭伝達。テープや証人の事情聴取は誤解や考え違い、不適切な言葉遣いの確認に役立つ。以下を考慮する。
・雑音の障害
・話の内容と話す速さ
・口頭指令に対するリードバック・ヒアバック(readback/hearback:復唱確認)手法
・口頭その他の情報の代替、支援となる視覚信号、あるいは矛盾となる視覚信号。紛らわしい身振りやその他の非言語的合図がこの例として挙げられる。
 乗組員間の相互関係。乗組員間の相互関係には、性格や経験のレベル、労働上の習慣における相性がある。これらの要因によっては相互協力が有利にも、また不利になることもあり、また利用可能な手段があってもそれを利用しなくなることもある。
 船客との相互関係。乗組員間の相互関係と同様に、船客との相互関係も個人の動作に影響を与えることがある。船客は乗組員のとった行動、態度、振る舞いについての情報を提供できる。
 労働者・管理者間の要因。以下を考慮する。
・意思決定や計画を行うレベル
・資源を配分するレベル
・行動を監視し、指示を守る監督レベル
・管理方針が人員の問題に与える影響(極端な仕事量と不健康な労働環境を引き起こす可能性)。
 労使関係。労使関係としては、組合が労働者、管理者、方針、作業習慣にもたらす影響や、合併後の交渉等がある。
 精神的圧力。精神的圧力には作業方針や同僚、管理者、出来高等が原因となる実際の精神的ストレスや、精神的ストレスと感じられるものが挙げられる。
 監督要因。監督の要因としては、基準や方針、品質管理の存在、利用可能性、即時性、ならびに監督者の存在(または不在)、監視、形式などがある。
 規制条件。この要因は人間同士が規制の遵守をどれだけ重要視するかに関連するもの。規則を「曲げ」させたり、規則の遵守を軽視させたりするような作業文化などの要因も考慮する。
 
IV.C.2. 人間と方針・手順(Livewareとsoftware)の不一致
 文書情報。マニュアル、チェックリスト、その他の文書情報の形式、内容および語彙を考慮する。
 コンピュータ。キーボードやディスプレイの互換性とそれが仕事量に与える影響、ならびに混乱、対応時間の遅延、職務への固着、露骨なミスの誘発を考慮する。
 自動化。労働に対する個人の態度や任務の把握、肝心な場合における仕事量への影響に自動装置や手順が与える効果を考慮する。
 規制条件。保有免許や評価、特定の機材を用いる資格、過去の違反の有無など、職務に必要な技量認定を考慮する。
 
IV.C.3. 人間と機材・機器(LivewareとHardware)の不一致
 スイッチ、制御装置、ディスプレイ。異なるシステムのスイッチ、制御装置、ディスプレイの類似点、相違点、特性は、個人特有の情報処理プロセスに影響を与える。
 以下を考慮する。
・設計、位置、色の影響
・提示された情報量、機器、ディスプレイ、制御装置、スイッチそのものが反応時間や仕事量、混乱、情報過多などに与える影響。
 
 作業環境。以下を考慮する。
・空間
・騒音
・照明
・規格化
・情報伝達能力
 
IV.C.4. 人間と環境(LivewareとEnvironment)の不一致
 内部環境。天候、個人的快適さ、職場環境、物理的作業環境を考慮する。
 海上環境。天気、海模様、潮、流れ、視界の状況、降水量、天候の変わりやすさを考慮する。
 インフラストラクチャー。インフラストラクチャーや支援サービス、ならびにそれが安全マージンの低下や行動制限にどう寄与するかを考慮する。また保守はインシデント発生に影響を与える主な機能の1つである。
 
 複雑なシステムには多くの人間が関与していることが多い。SHELモデルでは、人々が数人と相互作用し、その数人それぞれが更により多くの人々と相互作用すると考えることにより、情報の編成(事実解明の指針)に活用することができる。したがって複雑なシステムでは、複数の人々でSHELモデルを表すことができる。
 この図では、各人(船橋乗務員の各員、または船舶2隻の操船者とVTSオペレータ1人)が各SHEL図の「中心」として表される。それぞれのSHELが相互に作用する。







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