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(d)水深及び海底面画像データの照射覆域
 水深10mにおける水深データと海底面画像データの照射覆域を図44に示す。名古屋港実験を例に、探査レンジを25mに設定し、海底面画像データのサンプリング間隔を1/15000[秒]、データ数を500個とした。海底面画像データの探査幅が水深の探査幅に比べて狭くなることを示している。また水深データ、海底面画像データ共に直下水深が深くなるにつれて、照射覆域が大きくなる。
 水深データは送受信ビームの指向性(1.5°×1.5°)の関係から、センタービームよりも外側ビームで計測された照射覆域が広くなる。逆に海底面画像データは、サンプリング間隔が一定のため、斜距離補正を施すと距離分解能(航跡に直行する方向)が、送受波器直下よりも探査幅の端の方が高く、照射覆域が小さいことを示す。方位分解能(航跡方向)は、水深及び海底面画像データ共に共通である。図44より、送受波器直下の水平距離及び外側ビームの水平距離は、ピッチの測定誤差(±13.0cm)よりも著しく大きい。
 一方、扇島南東沖実験の例では、探査レンジを125mに設定した結果、海底面画像データのサンプリング間隔が1/6184[秒]、データ数が1024個となり、海底面画像データの探査幅が水深の探査幅に比べて広くなる。
 
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図44. 斜距離の違いによる照射覆域の大きさ(水深10m)
 
(e)目標値の評価
 直下ビームと外側ビームの海底面画像データの照射覆域は、図45に示すように、本研究で設定した水平距離の目標値(直下ビーム7cm、外側ビーム48cm)と比較して、送受波器直下の距離方向で4倍大きいが、外側ビームでは逆に1/8となる。
 
図45. 水深10mの照射覆域と目標値
 
(2)探査幅の検証
 SeaBat8101で収録される水深の探査幅と海底面画像データの探査幅は、直下水深値に依存する。水深の探査幅に対する海底面画像データの探査幅を検証し、両者の関係を求める。
 
(a)水深の探査幅
 SeaBat8101の水深及び海底面画像データの探査幅は、測量開始時に、オペレータが設定するレンジ幅(斜距離長)によって決定される。表12は、SeaBat8101のカタログ上の水深の探査幅である。
 
表12. SeaBat8101の水深の探査幅(カタログ値)
水深[m] 水深に対する探査幅 探査幅[m]
1-70 ×7.4 518
150 ×3.2 480
200 ×2.8 560
250 ×2.5 625
300 ×1.8 540
 
 表12中の水深に対する探査幅は、直下水深値に反比例して小さくなる。これは水深が深くなるにつれて斜距離が長くなることに加え、探査幅の端ではビームの入射補角が大きくなり、音響ビームが海底面から後方散乱しにくくなることによる。また斜距離が長くなるにつれて、送受信のタイミングと船の動揺センサーとの同期に誤差が生じやすくなるために、水深データの取得が困難になる上、精度が劣化するからである。この影響は、送受波器直下付近のデータに比べて、斜距離が長く、入射補角が大きくなる外側ビームによって計測された水深値に顕著に見られる。
 
(b)海底面画像データの探査幅
 SeaBat8101の海底面画像データの探査幅は、オペレータが測量開始時に設定するレンジ幅で決定される。このレンジ幅によって、自動的にサンプリング間隔と海底面画像データ数が決定される。海底面画像データの探査幅を図46に示す。名古屋港及び扇島南東沖の実験結果から4種類の探査幅についての結果を得た。
 
図46. 水深及び海底面画像データの両翼探査幅
青線より左側は送受信ビーム内(101本のビーム内)を示す。
 
 海底面画像データの探査幅は、水深の探査幅と同様、水深に反比例して小さくなる。これは送波ビームを発信してから、海底面画像データの収録を開始するため、直下水深が深いと収録データの大部分が海水層のデータとなるからである。
 図46の青線より左側は、送受信ビーム内(101本のビーム内)を示す。例えば、扇島南東沖実験では、水深20mにおいて、125mレンジに設定したところ、サンプリング間隔が1/6184[秒]、海底面画像データ数が1024個となったため、結果的に海底面画像データの探査幅が送受信ビーム幅よりも広くなっている。逆に名古屋港実験では、レンジ幅を25mに設定したところ、サンプリング間隔が1/15000[秒]、海底面画像データ数が500個となったため、海底面画像データの探査幅が水深の探査幅よりも狭くなっている。このように水深の探査幅と海底面画像データの探査幅は、レンジ幅の設定によって決定されるが、両者は同一ではないことから、地形歪み除去では、他の測線でデータを補う必要がある。
 また扇島南東沖実験の例では、メインビームよりも外側の海底面画像データが得られているために、良質な海底面画像データを得ることができない。
 またレンジ幅を長くすることによって、海底面画像データの解像度が劣化するため、レンジ幅を直下水深の2倍程度に設定してデータ収録を行うことが望ましい。これにより、入射補角40度以内において、精度の高い水深と海底面画像データが得られるはずである。また他の測線のデータを使用せずに、一つの測線で得られたデータで地形歪み除去が可能となる。
 
2.3.3 送受波器の動揺、水深及び海底地形による音波の照射覆域の変化による影響の評価
(1)直下水深値に対する照射覆域の検証
 海底面画像データを用いて、海底面が平坦な場合における斜距離及び直下水深値の違いに対する海底面上での照射覆域を求める。送受信ビーム幅を1.0、1.5、2.0度に設定した場合についても同様に求める。
 
 水深10m及び水深20mの平坦な海底面における照射覆域の違いを図47、図48にそれぞれ示す。図47は名古屋港実験のデータを例に、レンジ幅を25mとし、海底面画像データ数を500個とした。また図48は扇島南東沖実験を例に、レンジ幅を125mとし、海底面画像データ数を1024個とした。
 
図47. 水深10mの場合
 
図48. 水深20mの場合
 
 図47及び図48共に、送受信ビーム幅が広がるにつれて、照射覆域が大きくなり、特に送受波器直下近傍では大きく変化する。送受波器直下近傍では、いずれの数値も目標値を大きく上回っている。
 
 送受信ビーム幅の増加による影響は、地形歪みとは別の種類の歪みをもたらす。
 
図49. 送受信ビーム幅の増加による画像の歪み
 
 図49は、船速及び音波の発信間隔が同じ場合において、1度と2度のビーム幅を有する送受波器が、海底の散乱強度の高い物体を捉えた時に、収録される画像データが、進行方向に引き伸ばされることを示している。この大きさは、ビーム幅及び物体までの斜距離に比例して大きくなる。名古屋港実験で捉えたターゲットの画像からも同様の現象が得られている。
 
 このような画像の歪みは、ANKOUのようなシングルビームのサイドスキャンソナーやクロスファンビーム方式のシステムで収録される海底面画像データの特徴である。
 周波数455kHzのKLEIN5400サイドスキャンソナーは、最大5本のマルチビームで海底面を捉え、フェーズドアレーによるターゲットの焦点処理と合成開口処理により、このような歪みをリアルタイムで軽減できるとの報告がある。







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