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(2)地形変化に対する照射覆域の検証
 直下水深値及び地形変化に対する照射覆域の検証を行った。海底面画像データの照射覆域は、送受波器直下近傍で大きく、探査幅の端になるにつれて、緩やかに増加する傾向にある。しかし照射覆域の進行方向の長さは、各海底面画像データの斜距離によって決定されるため、照射覆域で表した値の変化よりも大きくなる。特に地形変化に対する照射覆域は、送受波器からの斜距離によって変化するため、送受信ビーム幅を1.0、1.5、2.0度に設定した場合の音波の入射補角に対する照射覆域の進行方向の長さについて検証を実施した。
 図50のように、水深10mの海底において、右舷側の外側に、45度の傾斜を有する地形的な高まりある場合は、送受波器からの斜距離が、起伏の無い左舷側に比べて短くなるために、照射覆域が小さくなる。
 
図50. 照射覆域の進行方向の長さ(水深12m、探査幅の端に地形変化がある場合)
 
 同じ比高の起伏が水深20mにある場合は、図51となる。
 
図51. 照射覆域の進行方向の長さ(水深22m、探査幅の端に地形変化がある場合)
 
 一方、図51の各海底面画像データは、図50に比べて斜距離で約2倍となるために、照射覆域の進行方向の長さも2倍となる。同様の地形変化が送受波器直下付近にある場合を図52と図53に示す。
 
図52. 照射覆域の進行方向の長さ(水深12m、直下に地形変化がある場合)
 
図53. 照射覆域の進行方向の長さ(水深22m、直下に地形変化がある場合)
 
 地形変化による音響的な影(シャドウ)について検証する。図54のように海底に地形変化がある場合は、画像上に音響的な影が生じる。
 
図54. 地形変化による音響的な影の大きさ
 
 影の大きさは、比高が高く、送受波器直下からの距離が離れるにしたがって大きくなる。図中の比高の高さ(HT)は、次式によって求めることができる。
 
比高の高さ(HT)=水深(HO)×影の長さ(XT)/送受波器直下からの長さ(XO
 
 影の長さは、送受波器からの斜距離と対象物の比高のみで決定されるため、送受信ビーム幅とは無関係である。またシャドウ内の地形歪みは、画像データが得られないために、目標値を達成することはできない。
 
2.4 画像処理技術の開発研究
2.4.1 収集したデータに含まれる不良データの判別及び除去処理の検討(データ一次処理)
 不良データの有無の確認、放射量補正方法及び斜距離補正方法の検討を行った。
(1)不良データの除去方法の検討
 収録データ中に含まれる不良データの有無及び存在した場合の除去方法の検討を行う。不良データは、図55に示すようなシステムの不具合による海底面画像データの質的劣化が主である。全ての海底面画像データが、海底面からの散乱強度値とならずに、同一の数値になっている場合を示す。現在までに画像化した名古屋港及び扇島南東沖実験の収録データからは、このようなデータを確認していない。
 
図55. 不良データの例(図中の矢印)
 
(2)放射量補正方法の検討
 海底面から反射または散乱して戻ってくる音波をSeaBat8101あるいはサイドスキャンソナーで観測したときに、得られたデータには海底面の固有の性質だけでなく、送受波器の特性の違いや斜距離の違いによる歪みが含まれている。したがって、海底面から戻ってくる海底面画像データの後方散乱強度は、底質と凹凸が一様であっても、直下近傍とビームの端では、後方散乱強度が異なる。これらの歪みを除去しない限り、海底面の特性を正確に評価することはできない。画像データから放射輝度に依存した各種の歪みを除去することを放射量補正という。海底面画像データに含まれるこれらの歪みの原因は以下である。
1. 斜距離(音波の遠距離のための減衰)
2. 音波の入射角度
3. 送受波器の海底面からの高度
4. サイドローブなどのビームパターンによる影響
(a)シェイディング曲線による補正
 放射量補正の代表的な手法として、図56に示すようなシェイディング曲線を元画像データに当てはめる方法が知られている。
 
図56. シェイディング曲線の例
 
 海底面から戻ってくる受信音圧の変化は、距離方向(航跡に直交する方向)に起こる。図56のシェイディング曲線は、レンジ方向のみを変数としたものであり、入力する海底面画像データの受信音圧に対して出力係数を掛け合せることにより、送受波器直下近傍に見られる高散乱強度を抑えることができる。
 
(b)本研究の放射量補正
 ANKOUサイドスキャンソナー及びSeaBat8101の海底面画像データを例に、本研究の放射量補正を実施した。図57に示すように、収録データをそのまま画像化した場合、ビームパターンによる影響は、レンジ方向だけにとどまらず、航跡方向にも顕著に確認することができる。このようなビームパターンによる放射量歪みの影響は、図58のように送受波器直下の高度(水深)に依存して、その範囲が変化する傾向にある。したがって、このような送受波器直下の水深に関連したビームパターンによる航跡方向の放射量歪みは、主にレンジ方向に着目したシェイディング曲線による方法では、効果が得られない。
 
図57. 放射量補正前の画像。送受波器直下近傍に放射量歪みが見られるレンジ方向に見られる放射量歪みは、送受波器の直下水深と関係があるものと推定される。
 
図58. 上図の送受波器直下の地形断面図(SeaBeam2112のデータを使用)
 
図59. 放射量補正後の画像。ビームパターンを考慮した放射量補正の結果
 
 本研究では、このようなビームパターンによる放射量歪みを考慮した放射量補正方法を検討し、均質な画像の作成方法を検討することとした。本研究の放射量補正のステップは以下である。







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