日本財団 図書館


 しかし、これらの結果は、験潮データのある沿岸での評価であり、灘(広い水域)の中央部は、特に平均水面のモデルについて評価が困難である。このためには、例えば人工衛星アルチメーターによる海面高度の計測値との比較が考えられる。
 
図52 測定されたZ0とモデル(Z0_2002)の差及び「平均水面、最高水面及び最低水面一覧表」に示されたZ0とモデル(Z0_2002)の差
 
図53 人工衛星アルチメトリデータの5’メッシュ位置
 
 図53は久保ほか(2002)による人工衛星アルチメーターから求めた平均水面の楕円体高の値をMSL_2002上に示したものである。また、人工衛星アルチメトリによる平均海面高とMSL_2002の高度の比較を図54に示した。
 
図54 衛星アルチメトリによる平均海面高とモデルMSL_2002の比較
 
 これによると、衛星アルチメトリでも低い別府湾沖ではほぼ同じ値を示しているが、伊予灘ではMSL_2002の方が最大1.5mほど高く人工衛星の結果が低い値を示している。この結果の詳細な分析は、まだできていないが、人工衛星からの観測結果は、大洋の中での信頼性は高いものの陸の影響の大きい沿岸や内海では、精度に問題があること、また、人口衛星データの処理の段階で用いた潮汐モデルが、特に内海のように潮位変動の大きいところで現実と合っていないことなどの原因が考えられる。一方、K−GPSで測定する海面高との比較については、別項でK−GPS測位の精度の評価も含めて議論する。
 
2.2 最低水面モデルを用いた潮高改正の可能性の評価
 最低水面モデルを用いた潮高改正の可能性を評価するため以下を実施した。
1. 海底面の楕円体高と最低水面高を利用したK−GPS測位による高さ測定の評価
2. K−GPSにより取得したデータと潮位観測データの比較
 
2.2.1 海底面の楕円体高及び海面高の整合性の評価
 海底面の準拠楕円体からの高さ(楕円体高)はK−GPSで取得した海面の楕円体高から測深値を引くことにより算出され、水平位置が同じであり水深データの補正が正しければ、海底面高は同じになるはずである。
 また、K−GPS測位で求めた海面高から潮位観測の結果による潮高(すなわち潮高改正量)を引いて、最低水面の楕円体高を推定すれば、この結果も、同じ場所で異なる時間に測定した結果が一致し、さらに、それを前項で作成したCDL2002と比較すれば、モデルとも一致することが期待される。
 燧灘実験で取得したK−GPS測位結果を用い、同時に取得したシングルビーム測深データを補正処理し、海底面及び最低水面の高さを推定した。
 
(1)シングルビーム測深データ処理
 測深データに対しては、動揺補正、潮高改正、音速補正を実施した。補正処理の内容を表22に示す。
 
表22. シングルビーム測深データの補正処理。
データ 補正処理
シングルビーム測深データ 動揺補正:ヒーブ補正を実施。
潮高補正:今治と魚島の潮高データを使用。
音速補正:バーチェックにて実施。%スケール+1.5%。
 
 音速補正は、バーチェック手法を用いた。バーチェック記録をグラフに展開したものを図55に示す。図中の直線の傾斜が読み取りスケールのパーセント値を示し本海域では、0.0158であった。測深データには、ノイズデータが含まれていたため除去を実施した。
 
図55 音速補正。
 
(2)解析データ
 燧灘実験データを以下のように解析した。
 測線は、A地点からB地点を結ぶ東西の約21.5kmと、B地点からC地点を結ぶ南北の約74kmとする。往路と復路の測線におけるK−GPS測位とシングルビーム測深データの収録時刻を表23に示す。往路と復路の航跡図をそれぞれ図56に示す。
 
表23 往復測線におけるデータの収録時刻
測線番号 測線経路 収録時刻
1 A地点→B地点(往路、東西方向) 10:26:35〜12:10:59
2 B地点→C地点(往路、南北方向) 12:17:40〜12:57:29
3 C地点→B地点(復路、南北方向) 14:00:55〜14:44:50
4 B地点→A地点(復路、東西方向) 14:47:36〜16:24:07
 
往路
 
復路
図56. K−GPS測位を実施した航跡図。
 
 K−GPSの基準点は、前節で記述したもののうち、今治と魚島の臨時基準点及び西条の電子基準点を用いた。K−GPSデータ解析は魚島、今治及び西条の基準点をそれぞれ用いたGPSurveyによる解析と、魚島及び今治の基準点を用いたIT解析結果を使用した。また、POS/MV動揺センサーにより取得したヒーブ、ロール、ピッチデータを使用し、動揺補正を実施した。
 
(3)データ整合性の評価
 K−GPS測位で得られた海面高から測深値を引くことにより得られる海底の楕円体高(海底面高)を比較した。K−GPSデータから得られた海面高と、測深データの補正が正しければ、海底面高は往路復路で同じ場所では一致する。また、潮位観測結果を差し引いた、最低水面の楕円体高の推定値も、往路と復路で一致し、さらにモデルとも一致すると期待される。
 図58は各K−GPS解析結果をもとに、東西測線、南北測線それぞれの最低水面及び海底面高を比較したものである。なお、ここで差し引いている潮位観測に基づく潮高については、次節で詳述する。
 
魚島基準 東西測線
(拡大画面:11KB)
 
今治基準 東西側線
(拡大画面:10KB)
図57 K−GPS測位から求めた最低水面と海底面楕円体高(その1)
 
西条基準 東西側線
(拡大画面:10KB)
 
IT解析 東西
(拡大画面:10KB)
図57 K−GPS測位から求めた最低水面と海底面楕円体高(その2)
 
魚島基準 南北側線
(拡大画面:11KB)
 
今治基準 南北側線
(拡大画面:9KB)
図57 K−GPS測位から求めた最低水面と海底面楕円体高(その3)
 
西条基準 南北側線
(拡大画面:9KB)
図57 K−GPS測位から求めた最低水面と海底面楕円体高(その4)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION