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イ)基準点の地殻上下変動および気象・海象による影響の補正量の問題
 もうひとつの平均水面を巡る問題は、気象・海象の影響の補正量である。
 海面高は、いわゆる波浪・津波や潮汐・副振動(セイシュ)等の比較的に速い変動と、大気(気圧、風)の影響、季節による水温変動の影響、海流の影響、内湾では陸域から流入する雨水等の影響等にともなう変動、そして、長期的な地球温暖化などの気候変動の影響を受け変動する。最後の気候変動を除くと、大部分は海面高の1年程度の平均操作で消えるが、それでも、10センチメートル程度の変動が残る。5年間程度の平均を行ってもまだ残ることもある。
 ここでは、速い変動と気候変動を除いた残りの影響を総称して「気象・海象の影響」と呼ぶ。そして、この影響は、一過性のものであり、数十年の長期間にわたり、海面高の平均を行えばゼロになると仮定する。
 1ヶ月程度の臨時験潮観測では、このような気象・海象の影響を除くために、その1ヶ月の連続観測で得られた海面の平均高への補正を実施する。補正量は、近傍の数年以上観測を実施している長期験潮施設を基準験潮点とし、そこで得られている海面高の1年間以上の長期間を基準期間として求める。基準験潮点で、その基準期間の平均と当該の短期期間の平均の差を求め、それが、基準験潮点から少し離れた臨時験潮点でも同じであると仮定する。この結果、臨時の験潮観測で、数年間の験潮した場合に得られるはずの平均水面を求めることが可能となる。表22に各基本水準標地点に対応する基準験潮点及び平均水面取得年を示した。
 ここで、この補正が妥当であるかが問題である。つまり、基準験潮点と臨時験潮点で、気象・海象の影響は同じであるのか、また、1年以上の長年間平均により、本当に、「気象・海象の影響」がゼロになるのか。もしそうでなければ、その補正量の「追加補正」をしなければならない。また、臨時験潮期間と基準験潮期間の時期が異なると、基準験潮点での地殻上下変動の影響が無視できなくなる場合がある。
 このため、まず、国土地理院に事務局が置かれる海岸昇降検知センターから報告された瀬戸内海における長期験潮施設の年平均の海面高データを用い、上述の地殻変動の影響を取り除いた上で、10年以上の超長期平均を行った。その平均からの各年平均値のズレを、各地の「気象・海象の影響」とすると、その大きさの絶対値は10センチメートル以内に入り、瀬戸内海の各地での場所によるばらつきは、2〜3cmで同じとなった(図26)。そこで、瀬戸内海の中に限れば、験潮地点の違いによる気象・海象の影響の違いは、考慮しないこととした。
 また、残る点に関しては、補正の考え方を図26に示す。ここで、Cxとあるのが、基準期間の平均で「気象・海象の影響」がゼロにならないことを、また、Vmが基準験潮施設の地殻上下変動の影響を示す。
 
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図26 変動のとらえ方
 
 臨時験潮で測定された平均海面高加える量として、これまでの基準験潮点のデータを用いた平均水面補正量をCとし、基準期間の平均海面高をSO、臨時験潮期間の平均海面高をMrとすると、
C=S0−Mr
と表せる。
 一方、本研究で実施する補正量 Cnは、基準期間における永年平均水位からの海面の高さの平均Cxと基準期間から臨時験潮期間までの基準験潮所の地殻上下変動量Vmがわかれば、
Cn=C−Cx−Vm
と表せることから、
Cn=S0−Mr−Cx−Vm
となる。
 したがって、ここで用いる平均海面高は、これまでに求められている平均海面高に、
−[Cx+Vm]
を加えることとなる。
 ここで求めた「追加補正」量を表20に示す。
 
 以上により、臨時験潮観測における気象海象の影響の補正を、数年間の基準期間でなく、永年験潮施設の結果を元にした長期の基準期間で、基準験潮点の地殻上下変動の影響も考慮して実施したことになる。
 
ウ)平均水面の決定
 上記に示すように、平均水面は平均水面高から下記に示す4つの量を引いたものとなる。
(1)各基本水準標の2000年までの地殻の上下変動量、
(2)兵庫県南部地震に伴う変動量
(3)基準験潮所のバイアス変動量(気象・海象の影響)
(4)基準期間から験潮期間までの基準験潮所の地殻上下変動量
 
 そこで、基本水準標の2002年の平均水面楕円体高(MSL)を
平均水面楕円体高(MSL_2002)=基本水準標平均水面高(MSL_2001)−((1)+(2)+(3)+(4))として補正した。
 
表20 基本水準標地点における地殻上下変動量と平均水面観測年 (その1)
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表20 基本水準標地点における地殻上下変動量と平均水面観測年 (その2)
(拡大画面:181KB)
 
 験潮結果とGPS測量を合わせて得られる60ヶ所弱の各点での平均水面の楕円体高を、双3次B−spline分布関数で平滑化した昨年度までに作成したMSLモデルとして、図27にMSL_2001(平均水面の楕円体高分布)を示す。
 
図27 MSL_2001(平均水面の楕円体高分布)
 
 これは、図28の流れに従い作成したものである。
 
図28 MSL_2001の作成手順
 
 これに対し、上記MSL_2001で用いた各地の平均水面に補正量を加えて求めた結果に、上述の4つの補正量を加えて求めた平均水面の楕円体高を用いて同じく双3次B-spline関数で平滑化した平均海面モデルとして平均水面モデルMSL_COR_2002を作成した。これを図29に示す。この2つのモデルの差を図30に示す。これを見ると、岡山南部が高くなり、燧灘南部及び伊予灘海域が低くなっている。
 しかし、このモデルMSL_COR_2002では、実際にK−GPS測位で求めた海面の高さと合わない部分があること、またGEOID2000とかなりの差が生じることがわかっている。
 
図29 MSL_COR_2002(平均水面の楕円体高分布)
 
図30 MSL_COR_2002とMSL2001の差







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