2.1.3 最低水面高低マップの作成
上記で作成したプログラムをもとに最低水面モデルを作成しそれを、最低水面高低マップとして表した。
最低水面モデルは、図21に示すように平均水面モデルを作成し、続いてZ0モデルを作成しこれらを合わせて最低水面モデルを作成する。
図21 最低水面モデルの作成
平均水面モデル(MSL)を作成するためには、上記で測量した基本水準標の楕円体高データを使用する。しかし、これらのデータだけでは、数が十分でなく、正確なモデルの作成が困難である。一方、平均水面と同様な位置づけとなるものにジオイドがある。そこで、まずジオイドの楕円体高を検討し、その結果をもとに平均水面マップを求めた。Z0については昨年度までに入手した基本水準標のある123地点における観測値が存在するが、本年度は同一海域のシミュレーションデータが入手できたのでこれらを合わせてZ0マップを検討した。さらにこれらの平均水面マップとZ0マップを用いて最低水面高低マップを作成した。
(1)ジオイドの楕円体高データ取得及び整理
2002年3月に国土地理院により、旧モデルのGeoid96が改定され新しいジオイドモデルGeiod2000が発表された
図22は、基本水準標のある場所のGeiod2000とGeoid96の差及び測定された平均水面の楕円体高とGeiod2000の差を経度方向で見た時の値の分布を示したものである。これによるとGeoid2000による瀬戸内海沿岸域の基本水準標地点のジオイド高は、Geoid96よりも平均49.4cm高くなり平均水面の楕円体高の測定値との差は平均7.2cmとなった。
図22 |
基本水準標地点のGeoid2000とGeoid96の差及び平均水面とGeoid2000の差 |
図23 |
ジオイドの楕円体高の高低マップ(国土地理院 日本のGeoid2000) |
(2)平均水面の高度化
本研究の目的の一つは、平均水面(平均水面)と最低水面のモデルを求めることである。この前提として、「平均水面及びそこからZ0だけ下にある最低水面(基本水準面)は、一定の決まった高さを持つ」という仮定をおく。これは、当然のことのようにも見えるが、現実には、平均をとる期間により平均水面(最低水面)の測定結果は様々に値が変わり、ひとつに定められる保障はない。しかし、水深の基準となる面は、固定されたひとつの面として定められなければ、社会的に不便である。
ここでは研究の前提として、平均水面(最低水面)には真の高さがあり、測定結果が真値に一致しないのは、海面高を不規則に変動させる物理的な原因が存在するものとする。
そして、さらにもう一歩踏み込んで、「平均水面と最低水面は、地球規模で見た場合、この数十年〜百年の間、高さは変わっていない」と仮定する。平均水面が、地球の気候変動などの影響で上昇しつつあることが予想されているが、本研究では、このような影響はゼロであるとして取り扱う。
平成13年度までに、瀬戸内海の、基本水準標のGPS測量を行い、各基本水準標の楕円体高が求められた。過去に実施された験潮観測により、基本水準標と平均水面の間の高低差は求められているので、平均水面の楕円体高が求められるが、ここで、次の2点を問題とする。
・観測点の地殻上下変動・地盤沈下の影響
・基準点の地殻上下変動および気象・海象による影響の補正量の問題
それぞれについて、本年度は補正量を求め、平均水面の楕円体高を補正した。その方法を説明する。
ア)観測点の地殻上下変動・地盤沈下の影響
これは、験潮観測と、GPS測量による基本水準標楕円体高測定の時期がずれているために生じる問題である。海面高を決めた時から、GPS測量するまでの間に、地盤の高さが変わってしまうと、平均水面の高さに見かけの誤差が入ってしまう。これは、日本列島のように地殻変動の大きい場所、そして、地下水くみ上げ等の影響の大きい場所では、無視できない場合がある。
幸い、日本では、国土地理院(及びその前身の機関)により、明治以降、繰り返し水準測量が行われ、一等水準路線の結果がまとめられて、この100年間における広域の地殻上下変動の実態が明らかにされている(国見ほか、2001)。瀬戸内海でも、その周囲を取り囲むように、水準路線が走っているので、各験潮観測点の、験潮観測の後から、GPS測量の行われた西暦2000−2001年までの間の上下変動量を求め、補正を行った。
図24は一等水準測量地点と基本水準標測量地点を表したものである。
図24 |
瀬戸内海を取り巻く一等水準測量点と水準基本水準標観測地点 |
一等水準測量データは、戦後の水準データを総合的に解析して得た5時期のデータを入手できたので、各点の変動量を元に、1950年〜2000年(淡路島と姫路〜神戸の一部に関しては、1994年まで)の各水準点の平均的な地殻上下変動の速度が一定であると仮定し、最小二乗法で求めた。表17に一等水準測量の計算に使用した改測データ観測年を、表18に一等水準測量の計算に使用した渡海水準測量観測年を示す。
表17 計算に使用した改測データ観測年
計算に使用した改測データ観測年 |
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第3回 |
第4回 |
第5回 |
第6回 |
第7回 |
第8回 |
近畿 |
1947-1951 |
1941-1973 |
1970-1976 |
1975-1980 |
1982-1984 |
1988-1995 |
中国 |
1948-1956 |
1964-1968 |
1967-1971 |
1970-1978 |
1981-1983 |
1986-1997 |
四国 |
1947-1950 |
1955-1965 |
1968-1973 |
1970-1980 |
1981-1985 |
1990-1995 |
九州 |
1952-1960 |
1962-1965 |
1968-1971 |
1975-1977 |
1981-1983 |
1987-1997 |
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表18 計算に試用した渡海水準測量観測年
計算に使用した渡海水準測量観測年 |
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第1回 |
第2回 |
第3回 |
第4回 |
第5回 |
第6回 |
第7回 |
第8回 |
明石海峡(渡海) |
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1964 |
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1964 |
1970 |
1970 |
1970 |
1995 |
鳴門海峡(渡海) |
1948 |
1948 |
1948 |
1955 |
1970 |
1970 |
1970 |
1994 |
芸予海峡(渡海) |
1948 |
1948 |
1948 |
1964 |
1970 |
1970 |
1970 |
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関門海峡(直接) |
1952 |
1952 |
1952 |
1964 |
1970 |
1976 |
1982 |
1989 |
豊予海峡(渡海) |
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1991 |
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また、永年験潮観測施設(小松島、高松、宇野、広島、松山、大分、徳山、門司)に関しては、水深の年平均値の変動から、やはり、地殻上下変動速度を一定として、その大きさを求めた。図25に、本研究で推定した地殻上下変動速度の影響を除いた後の、各験潮施設で測定された潮位の年平均の推移を示す。
図25 |
永年験潮観測施設の地殻上下変動を考慮した年平均水面高の永年平均からの偏差 |
これらの上下変動速度は、場所により異なるが、その空間分布を、双3次B−Spline関数で平滑表現し、瀬戸内海各地の変動速度を求めた。
19 永年験潮施設における地殻上下変動速度
験潮所 |
地殻上下変動速度(mm/year) |
国土地理院(加藤・津村の方 |
本研究で用いた結果 |
小松島 |
-1.95 |
-3.47 |
宇野 |
-5.55 |
-6.36 |
高松 |
-2.55 |
-4.07 |
広島 |
-5.11 |
-5.67 |
松山 |
0.67 |
-0.12 |
呉 |
-3.77 |
-5.39 |
門司 |
-1.75 |
-1.53 |
徳山 |
-- |
-2.67 |
大分 |
-0.45 |
-1.32 |
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その結果、地殻上下変動は、沈降の場所が多く、もっとも大きな変化のあるところでは、年間6mm、従って、50年で30cm程度沈んでいる場所もある。表21に、長期験潮施設に関して、今回求めた変動速度と国土地理院海岸昇降検知センターが加藤・津村の方法で求めている変動速度(国土地理院,2002)を載せる。今回の決定値との差は、だいたい1mm/year以内にあり、10年間でも、1cm程度の差しか生じないので、今回の補正では、表21に示す本研究で得た数値を用いた。地殻変動の影響の絶対値は、もちろん、験潮観測からGPS測量までの年月が長いほど大きい。一部の験潮観測点では、10センチメートル以上の変動があったと見積もられている。
一方、1950年以降、瀬戸内海周辺で、地表付近で10cmを越えるような地殻上下変動を生じた大地震は、1995年兵庫県南部地震がある。このとき、ステップ状の大きな変動が、震源域の付近ではあった。本研究の対象となる、基本水準標の設置場所のでは、1cm以上の大きさの変動があったのは明石だけであり、明石の基本水準標に7cmの隆起が1995年1月にあったものとした(国土地理院、1995)。
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